第121話 練習試合終了から夏の予選開始直前までのあれこれ
「おーい、田白に能町! そろそろ荷物を持ち出して引き上げる時間だぞ!」
「あー、わかった! そ、それじゃ俺らこのへんで失礼します、坂平さん」
八ツ頭学園との試合後、田白たちは坂平に呼び止められて話をしていたのだが。
なんとなく気になって見ていたら、話を切って離れようとする田白たちをヤツが執拗に引き留めようとしているように感じた。
何かイヤな雰囲気を感じ取ったオレは2人が離れやすいように割って入ったというわけだ。
「助かったよオージロウ。実は、坂平さんからLINEのIDか電話番号教えろってしつこく言われてたんだ。スマホが手元に無いから覚えてないってトボけてたんだけど、もう限界だった」
「なんだよそれ。ウチのチームの情報でも聞き出そうってか?」
「あの人のことだから、冗談抜きでその可能性が高い。だから本当にヤバかった。ありがとうな」
「どういたしまして……あれ? 中学時代はどうしてたんだよ?」
「あの人が中学を卒業したタイミングでアカウントを一旦削除して、番号も変えたんだ。関わりを断つために」
「なるほど、じゃあひと安心だな。このあとは期末テストもあるし、合同練習はせいぜいあと1回くらいか。それぞれの練習の状況はグループで連絡頼むよ」
「ああ、わかった。またな」
田白たちは急いで荷物を取りに行って、笹木先生たちと徒歩で慌ただしくグラウンドを去っていった。多岐川高校の近くを通るバスは1時間に1本……乗り遅れたらシャレにならねえ。
それにしても、やっぱり油断ならねえ野郎みたいだな、坂平は。だけど夏の予選で当たらない限りはもう会うこともないだろう……というか会いたいとは思わない。
さてオレたちも帰るか。また古池監督の◯リードの後部座席で狭苦しい……なんか憂鬱になってきた。
ゆう……おっと危うく忘れるところだった。
オレは荷物の中から包装紙に包まれた小箱を取り出して、松花高校女子マネの泉 優子さんの元へと駆け寄る。
「泉さん! あの、ちょっとだけいいかい?」
「うん……別にいいよ」
「あの、これなんだけど」
「これ、私に?」
「うん。ほら、しばらく前に古傷の右肘が痛むってことでマネージャーを休んでただろ? その時は結局お見舞いも何もできなかったから、遅ればせながらってやつなんだけど。ウチのメンバー全員からで」
「……オージロウくんから、じゃないんだ」
「えっ?」
「何でもない。ありがとう、とっても嬉しいよ」
「中身はハンカチとタオルのセット……女子に贈っても大丈夫なデザインか、姉ちゃんに確認してもらったから大丈夫だとは思うけど」
「うん。大切に使わせてもらうね」
「オージロウく〜ん! もう行くよ〜!」
「は〜い、すぐ行きます!」
「……由香里さんの前だと、そんなに緩んだ顔をするんだね」
「そ、そうかな?」
「もう行ったほうがいいんじゃない? さようなら」
泉さん、最後はプイと横を向いて行ってしまった。なんか気に障ること言ったかな……。
そしてオレたちは昼下がりには地元まで戻り、午後は疲れを癒しつつボチボチと期末テスト対策を始めたのであった。
◇
カキーン!
「由香里さん! ナイス、レフト前ヒット!」
「続けて雛子さんのタイムリーで追加点といきましょう!」
「頑張ってくださいです〜!」
期末テストが無事に終わって、オレたちは夏の地方予選に向けての準備を再開している。
それは姉ちゃんたちも同じで……今日は高校女子硬式野球の全国選手権に向けての腕試しとして、隣の県のチームと練習試合をやっているのだ。
これまでは姉ちゃんに練習を手伝ってもらったり練習試合で応援してもらったりとお世話になりっぱなしだったが……少しでもお返しするべくオレとしょーた、ひょ〜ろくくんの3人で応援に来ている。
それにしても、姉ちゃんと由香里さん、そしてさらに隣の県の高校の計3校による連合チームはなかなか合同練習ができずに苦労していたのに。
とてもそうとは思えないくらいにまとまり良く試合に臨んでいるのでちょっと驚いてる。そこは連合チームキャプテンを務める姉ちゃんの為せる技というべきか。
おっと、試合の観戦に集中せねば……と左打席に入った姉ちゃんに視線を向け直した瞬間のことだった。
バシィッ! と得意のアウトコース打ちで左中間を破り、打球はフェンスまで転がって長打に!
由香里さんが一気にホームに帰って1点追加。
その後は姉ちゃんが躍動感のある投球で相手打線を完封し、見事に勝利したのであった。
なんか、こっちもうかうかしてられないな。明日の練習が待ち切れないくらいにウズウズしてきた。
ちなみにオレは大岡のスライダーを確実に捕るための特訓が中心……付き合ってくれるしょーたには感謝しかない。
ひょ〜ろくくんは非力なバッティングを改善すべく打撃フォームと練習メニューを見直して毎日取り組んでいる。
古池監督曰く、インパクトの瞬間にキチンと力が伝わってないのではと……守備は安心できるので打てるようになると心強い。
◇
予選の開幕まであと数日。組み合わせ抽選はとっくに終わっており、まずは1回戦で強豪校と当たらなかったのはラッキーだった。
順調に勝ち上がれば……まだ勝ってもないのに皮算用するのもあれだが、同ブロックのシード校とはベスト16での対戦となる。
で、そのシード校は、なんと橘商業!
旧連合チームが放棄した権利を、直接対決で敗れた橘商業が繰り上げで獲得したのだ。
でもまあ、あの時まともに打てなかった山之口さんのストレートを、今度こそバシッとホームランにするチャンス!
と、そんな感じで少し浮かれていたオレの心に激震をもたらす知らせが届いた。
「オージロウ! た、大変だ!」
「落ち着けよしょーた。いったい何があったんだ?」
「そ、それが……阿戸さんが、大怪我して入院したって!」
ま、マジかよ。オレはショックのあまり、しばらく何も言えず、身体を動かすこともできなかった。




