第116話 揺さぶりをかけられる
「スゲー球投げるよね〜。噂以上じゃない? あんなの打てる自信ないわ〜!」
八ツ頭学園の3番打者、坂平が本気とも冗談ともつかない口調で打席から喋りかけてくる。
うっとうしいな……こっちはお前のことを警戒してるし、必要な時以外は喋りたくないっての。
しかし坂平は構わずに喋り続ける。
「あれれ〜? 無視しなくてもいいじゃ〜ん。仲良く野球やろうぜ〜?」
なるほど。ひょ〜ろくくんたちから聞いた通りの人物だとするなら……まずはこんな風に親しみやすく話しかけることで相手を取り込むのが上手いんだろうな。
で、気づいたらヤツにとって『使える』『使えねー』で仕分けされて扱われるというわけだ。
それはともかく、これ以上は面倒くさいから話を切ってしまおう。
「今、投球に集中してるんで。これ以上話しかけるのは勘弁してもらえますか?」
「へぇ〜。そいじゃまあ、仕方がないねぇ〜!」
ヤツの口調と目つきが変化した。
あからさまに敵対的というわけじゃないが……ヤツの中でオレのことは『切った』って感じかな。
まあ、どっちにしても甲子園出場を争う相手なのだし……変に『使える』認定されてもロクなことはないだろう。
というわけでスッキリした。
ところで坂平も左打ちとは。左投げ相手に連続3人左打ちをぶつけるか?
それとも監督が不動のスタメンにこだわるタイプか。まあいいけどさ。
さて初球は……いや、先にコイツに牽制を入れとかないと!
「セーフ!」
2塁ランナーの瘤田がやたら大きくリードしていた。狙ってるのかな……。
練習を積んだとはいえ、オレの牽制やクイックモーションの練度はあまり高くない。
俊足のランナーに本気で狙われるとキツい。なので初球はこうだ!
「ボール!」
「やっぱスゲー速いな。でもボール球じゃあねえ」
とりあえず外角に外したが、見透かされたように相手は動かない。
仕掛けてくるなら次かな……ならばこうだ!
「ボール! カウント2−0!」
真ん中高めというか完全なボール球を投げた。しょーたは動かない……いや急に立ち上がって、2塁に投げる素振りを!
セカンドベースを見ると瘤田が戻るところだった。でも立ったままだから余裕って感じだ。
揺さぶりかけてきやがって……気にしすぎてカウント悪くしちゃったし。
しょーたは3球目をどうするつもり……そう来たか。それじゃオレも力を込めて投げよう。
3球目は外角高めストレート!
「うりゃああっ!」
「カモネギじゃん! いただき〜!」
ズバンッ!!
「か、カスリもしないなんて! 俺が!」
ノビるボールで空振りさせた。あとはしょーた、よろしく!
「そりゃっ! サード!」
「ナイス送球だっぴょ!」
パシッ!
「ランナーアウト!」
うっしゃ! 足から滑り込む瘤田がベースに届く寸前にタッチが間に合って、盗塁を許さなかった。
しょーたの送球スピード自体は以前とそんなに変わらないが、捕球してからのモーション移行がコンパクトで素早くなってる。
オレの球速、相手が左打ちというのも相まってバッチリ決まったぜ。
これであとは坂平を打ち取るだけ。4球目は内角低めで三振を取りに行く!
「うりゃあっ!」
「次は対角線とか単純過ぎだろ!」
バシィッ!! とセンター返しされた!
「うわあっ!」
左の足元を強烈な打球が……しかし投球後の身体が右へ流れたのが幸いして何とか避けられた。
しかし打球は二遊間を真っ二つ……いやマウンドでセカンド方向へとバウンドが変化して、間一髪アウトに仕留めた。
ふう。低めは高めほどノビないとはいえ、芯で捉えられたのには驚いた。でもオレに運が味方したようだ。
「あー、惜しかったなあー。もうちょっとだったのに〜!」
坂平が悔し紛れに大きな声で叫んでたがもちろん気にしない。
この勢いで裏の攻撃に入って先制点だ!
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