第115話 機動力と小技
「田白、それに能町。さっきはありがとうな! おかげで助かったぜ」
「いや……実は試合中以外は坂平さんの前に立つつもりなかったんだけど。今度こそひょ〜ろくくんを守らなきゃって、気がついたら身体が動いてた」
「これであの人の注意が俺たちに向いたと思うから、ひょ〜ろくくんはこれ以上絡まれないんじゃないかな」
「だけど、それじゃお前らが」
「まあ、俺らは自分でなんとかするさ。それにさっき話した雰囲気からすると、どうこうしようってのは無さそうだし」
「……田白さん、能町さん。本当にありがとうでした。ぼく、直前までどうってこと無いって思ってたのに、実際に声かけられたら身体が動かなくなって」
「気にしないで。中学時代の罪滅ぼしみたいなもんだからさ」
「田白たちもヤバそうになったらすぐにオレたちに声をかけてくれ。いつでも助けに入るよ」
「ああ。今日はベンチスタートだから、おとなしく応援だけしておくよ」
とりあえずは何事も起こらずひと安心。
それにベンチ内にいる限りは監督たちもいるからさすがに手は出せまい。
まあ、オレたちが相手を色眼鏡で見てるから過剰反応だって思われるかもだが……不気味な相手だし警戒するに越したことはない。
さて、八ツ頭学園の打順とポジションは……。
坂平が3番DH、さらにピッチャーか。その上キャプテンだからまさにチームの中心というわけだ。
あともみんなレギュラーなのかな……しょーたに聞いてみよう。
「なあ、八ツ頭学園のスタメンなんだけど」
「うーん。上位3人は春季大会でレギュラーだったけど、あとは違うな……だけど層が厚いチームだから単純に控えの選手とも言えない」
「で、その上位3人はどういう選手たちなんだ?」
「1番の瘤田、2番の背尾はどっちも俊足巧打の選手だね……チャンスメーカーってところだ。3番坂平は打率も高いし長打も多い。打ち取るのが厄介な相手さ」
「ふーん」
「4番と5番は確か外野手と捕手だったかな……長打があって勝負強いって評判の選手。この試合では出ないのかも」
「じゃあ問題ないじゃん。今日は完投目指してサクサクアウトにしていこーぜ」
「そう都合よくいくかなあ」
完投と言ってもこの試合は5回終了延長なしの条件で行われる。八ツ頭は午後から多岐川ともう一試合あるからだ。
というわけでオレが頑張れば轍くんはもちろん大岡の投球も見せずに済む。ウチが甲子園に出場するのに間違いなく立ちはだかるチームだから見せたくない。
さて、そろそろマウンドに登って投球練習やろうかな。
1回表は八ツ頭の攻撃……確実に坂平に打席が回る。最初にガツンとかましてやるのだ。
「うりゃあああっ!」
ズバンッ!!
グラウンド内に轟く強烈な捕球音。どうだ、ビビったか!
と八ツ頭のベンチを見たのだが……一応はこっちを見てるけど、さほど驚いた様子はない。
クソッ、かましてやれなかった。
まあいい、オレのボールは実際に対戦してからその威力を知ることになる。
そして球審のプレイボールの掛け声とともに試合開始だ。ちなみに今日は連盟から審判の方に来てもらっている。
1番の瘤田は左打席か。構え方も打ったらすぐに走れそうな感じだ。
ならば狙ってるコースは……そしてあえてそこに投げ込んでやる。
初球はアウトコース低め!
ガコッ! と相手バットから鈍い音。初球からいきなり当ててきやがった。
それともに打球は三塁側ファウルゾーンへボテボテと転がっていく。
「いてっ! なんなんだこのボール。手袋してるのに手がしびれる!」
瘤田から悲鳴に近い嘆き声が。それはともかく、やっぱりアウトコースを流し打ちしてきた。
ということはこっちが弱点かな。2球目は内角膝元ストレート!
「うりゃあっ!」
「くっ、ナメんなよ!」
バコォッ! と詰まった打球音……だけど打つ瞬間に右足だけ少し開いてキッチリ流し打ちしてきやがった!
結構高い技術持ってるな……おっと感心してる場合じゃない。三塁線ギリギリを打球が襲う。
「いやん! ベースの上通ってすぐ中でバウンドしたからフェアだっしゃ!」
今日のサード近海が相変わらずな喋り方を……だがファウルゾーンに出ながらも送球は力強く正確だ。これなら……。
「セーフ!」
いや甘かった。瘤田のベースランニングの速さはオレの想像以上で、余裕でベースを駆け抜けていた。
「ひーっ。出塁できたけど手がまだしびれる!」
瘤田を詰まらせたのは確かなんだが、飛んだコースが悪かった。
まあ仕方がない、次を打ち取ろう。
2番の背尾も左か。いきなりバントの構えしてる。
だが簡単にはさせんぞ!
「うりゃっ!」
「うわあっ!!」
「ファウル!」
オレのボールはバットを弾いて打球はキャッチャー後方へ。このまま続けてアウトにしてやる。
しかし2球目のことだった。
コンッ! と3塁側にバントされちまった!
背尾はバットにボールが当たる瞬間、衝撃を吸収するようにバットの角度を巧みにコントロールして勢いを殺したのだ。
だけど殺しすぎてキャッチャーがすぐ取れるゴロ。しょーたがすかさず捕って2塁に!
「クソッ、無理だ!」
しょーたは諦めて1塁へ送球した。瘤田のスタートが絶妙だったのか、しょーたが叫んだ時にはもう2塁を陥れていた。
機動力と小技……高校野球らしいともいえるが、オレたちにとってここまで徹底してくる相手は初めてだ。
普段の練習からの鍛え方が半端ないんだろうな。手ごわい相手だぜやっぱり。
そして一死二塁のピンチで坂平を迎えることになる。




