第112話 しょーたに仲裁してもらう
「2人共さあ。チームメイトなんだから、もっと協力して、駄目なところは一緒に何とかしていかないと」
今は練習試合後のミーティングが終わって、食堂で晩ご飯待ちという状況なのだが。
オレと大岡はキャプテンであるしょーたから諭されるように今日の出来事……試合中のパスボール多発のことで注意を受けている。
まあ原因はオレにあるのだが。大岡の決め球スライダーを捕球するのが不安定で、大岡が不満を持つのも仕方がない。
だけど試合中に怒鳴り散らされたんじゃなあ。
オレがそのあたりの不満を言おうとすると、機先を制するかのように大岡がしょーたに不満を漏らし始めた。
「……自分の決め球をポロポロ落とすようなヤツ、信用できるわけねーだろ。あとから連合チームに入った勝崎さんでもきちっと捕ってくれるのに、コイツときたら」
「うーん。勝崎さんはリトル時代からずっとキャッチャーらしいから、オージロウと比べるのはさすがにさあ」
「そんなこと俺には関係ねえよ。キャッチャーとしてまだまだのコイツじゃなくて、今度からしょーたが続けるか、勝崎さんと交代してくれ」
「それはちょっと……大岡くんが抜けたショートの代わりが、事実上おれしかいないし……それに大差でもつけてない限りオージロウを打線から外せないよ」
そうなんだよな。新連合チームはショートが人材不足なのだ。
旧連合チームでは多岐川の鬼石くんたちがカバーしてくれたのだが……今はショート経験者は升田高校の中地さんのみ。
その中地さんの守備範囲はかなり狭いうえに肩も弱く、接戦での守備固めとしては非常に心もとない。
結果としてユーティリティプレイヤーのしょーたが大岡の次に上手いというのが現状だ。
そうなるとDH解除後のオレはキャッチャーか外野手ということになるけど。
古池監督からすると、勝崎さんの打力が低いのでオレをキャッチャーに入れてチーム全体の打力が低下するのを防ぎたいらしい。
これがオレがキャッチャーを続けている理由でもあるのだ。
しかしなおもしょーたに食い下がる大岡。埒が明かないので、オレはそこに割って入ることにした。
「あのさあ。オレ、もっと練習して必ず捕れるようになるから。大岡もそれに付き合ってくれよ」
「……なんで俺がテメーのために時間も労力も割かなきゃならない? 自分で何とかしろ」
「そんなこと言って、合同練習で全然協力してくれないから軌道が見切れないんだろ!」
「……テメー、甘えるのも大概にしろよ!?」
「これ以上はやめてくれ2人共! わかった。おれがキャプテンとして責任持ってオージロウがスライダーを捕球できるようにするから。それなら構わないだろ?」
「……キャプテンがそこまで言うなら任せる。でも大会に間に合わなかったら、俺はオージロウがボックスに座るのを断固拒否するから」
「わかってる。任せてくれ」
最後はしょーたが話をまとめた。オレも当分はキャッチャーの練習を優先しよう。
一息つくと急激にハラ減ってグゥ〜と音がした。早く食べたい……そのタイミングで姉ちゃんの声が聞こえた。
「今晩は雨が降って気温が下がったから、温まるすき焼き鍋を用意しました! 沢山食べて栄養つけて、明日の練習試合に備えること。あとお残しは許しませんから!」
「おおっ! 関西風味の割り下で滅茶苦茶美味しそうだ! これを残すヤツなんていないよ!」
「オージロウのお姉さん、それに河合さん! 俺たちのためにありがとうっす!」
「あの。私も手伝うたんやけどね〜?」
「あっ。笹木先生もあざっす!」
試合中から姉ちゃんたちの姿が見えなくなってたのだが、晩ご飯を用意してくれていたのだ。確かに今日は鍋物がありがたくてご飯が進む。
ちなみに多岐川高校の選手たちは自宅に帰ってしまったので、泊まり込みはオレたちだけ。この鍋を味わえなくてかわいそうに。
あとは蒼田監督が部室棟の管理者として監督室に残り、古池監督と惣司監督が酒盛りに付き合わされているようだ。
「それじゃ、わたしたちはお泊まり女子会に行くから。オージロウ、あとの片付けよろしく! 朝食のパンは準備してあるから、それもちゃんとみんなに取り分けるのよ!」
やっぱり女子たちは上中野監督に率いられて街のホテルでお泊まり会のようだ。
でも、それはつまり仲尾さんや鯉沼さんも一緒ということで……何も起こらなければいいのだが。
◇
後片付けも終わってオレたちは2階の大部屋で語り合ったり宿題を片付けたり瞑想に耽ったりとそれぞれの時間を過ごしている。
オレもみんなから普段は聞けない話を聞いて笑い転げたり真剣に聞き入ったり一緒に考えたりと、楽しい一時だったなあ。
そうしてる内に眠くなった者たちから順に寝袋に入っていく。
オレとしょーた、ひょ〜ろくくんはグループになって寝袋を並べて小さな声で話し続けた。
「ひょ〜ろくくん。明日の試合中だけど……この部屋の中で待っててもいいんだぜ?」
「監督の許可は取ってあるから」
「ありがとうございます〜。でも、ぼくはベンチに入ります」
「無理はしないでくれよ」
「大丈夫です。今さら何もできない……というかぼくのことなんて覚えてないでしょうから。もしも何かしてきたら、直ぐオージロウさんたちに報告します。それで出場停止に追い込んでざまぁしてやるです」
「……わかった。とにかくいざとなればオレたち全員が守るから」
「はいです……ムニャムニャ」
ひょ〜ろくくんは安心したのか眠ってしまった。
今の話題は、ひょ〜ろくくんと田白たちが中学時代にイヤな思いをさせられた例の『キャプテン』のことだ。
明日の練習試合の相手、八ツ頭学園の選手……というかそこでもキャプテンやってるらしい。
実はこの件、連合チームの仲間たちや古池監督に相談済みなのだ。
場合によってはせっかくの練習試合もキャンセルするつもりで……。
だが監督たちが確認した限り、例のキャプテンは高校生活の素行に問題は見られず、中学時代のことを蒸し返して相手に対応を求めるのは難しいという結論に至った。
その代わり関係のある3人にはベンチ外となる許可ももらっている。大会で当たったらその時は改めて考えるということで。
さて、じゃあオレも……いや、この機会にあのことも聞いておこう。
「しょーた。そろそろお前の中学時代のことも聞かせろよ。これまではぐらかされたけど、もう話してくれていいだろ?」
「……そうだな。じゃあまずは連れション付き合ってくれ」
「おうよ」
しょーたは洗面所の隣にある休憩スペースで話をするつもりだな。まあ他の人には聞かれたくないのなら、どこでも付き合うさ。




