第110話 パワー勝負で相手を測る
「なあしょーた。田村の得意なコースと苦手なコースってもう見えたのか?」
今は4回表の攻撃中。恐らく打席が回ってくることがないのでオレは尋ねてみたのだが、渋い顔を一瞬見せたあとにボソボソと話し始める。
「あの打席だけでは見分けにくいなぁ。外が得意そうに感じたけど、内角に食い込むボールも器用に右打ちしてたし……」
「実は真ん中が弱点かもな。空振りしたし」
「いや、あれは意表を突いたからだろ。オージロウだってわかってるだろうが」
「だけどこの機会にやれるだけのことはやらないと。だからさあ」
「……わかった。好きにやってみたら?」
しょーたと話がついたところで丁度攻撃が終わったので、帽子をかぶり直してゆっくりとマウンドへ向かう。
オレはここまではランナーを一人も許してないので1番の白城さんが2巡目の打席に入る。
それじゃプラン通りに行きますか。
◇
「ボール! フォアボール!」
「ん! これでノーアウト1、2塁だ。オージロウくん、今日は調子が悪いのかな?」
オレはこの回、2人のランナーを許した。
白城さんには初球の外角高め、ストレートがノビてホップし始めるところを合わせられてレフト前ヒット。
別府さんには際どいところばかりを突いていき、フルカウントからフォアボール。
そしてピンチで3番の田村を迎える。
と、ここまでは想定通り。
もちろんわざと出塁させたわけじゃないけど……白城さんの狙いや別府さんのストライクゾーンの見極めが確認できたのは収穫だった。
こういう場面でセットポジションで田村を抑えられるか……実戦を想定したシミュレーションとしては最高でワクワクしてきた。
「オージロウさん! 今度はさっきみたいな小細工は通じないんで。気持ちよく逆転3ラン打たせてもらうんで!」
前の打席の三振がよっぽど悔しかったんだな、わかりやすい。こういうところはまだまだ1年坊主だぜ。
でもそうイキり立たなくてもちゃんと勝負してやるよ。
まずは3塁側に寄せてプレートを踏んで。
初球をど真ん中に投げる!
「うりゃああっ!」
「ぬああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
力を込めて真っ直ぐ投げ込んだボールはズバッとキャッチャミットに突き刺さる!
バットはボールの下を紙一重でくぐっていった。
真ん中が苦手ってわけでは無さそうだ。オレのボールの勢いが上回ったってだけだ。
では次は1塁側にずらしてプレートを踏んで。
2球目は角度をつけたインコース膝元!
「ぬあっ!」
ズバンッ!
「ストライク! カウント0−2!」
前の座席みたいな右打ちはせずに思い切り振り回した。
つまり追い込まれるまでは強振してくるタイプってことか。
じゃあ3球目はこれで試そう。内角高め!
「うりゃっ!」
「だから簡単に三振せんので! ぬあっ!」
バコォッ! と強引に右へおっつけたライナーが1塁ベンチ方向へ飛んでいった。
これは追い込まれてから粘る手段を兼ねてるってわけか。でもボールに威力が無ければフェアゾーン持ってかれそうだ。
さて最後にこれでパワー勝負と行こうか。
少し角度をつけた真ん中高め!
「うりゃあああっ!」
「通用せんので! ぬあああっ!」
バシーッ!!
確かに捉えられた……そこそこノビのあるストレートだったのに。
打球は放物線を描いて右中間へ……。
「オーライ!」
今日はライトに入ってる能町が深いところでパシッとキャッチした。
あらかじめ右中間を狭めて深めに守らせてたのが正解だったぜ。
「ちっくしょう〜!! 力で押されるなんて!」
田村もわかってるようだな、力勝負の結果だってのが。本人はもっとセンター方向へ打ったつもりだろうけど……バットを押し込んだ分、右打ちみたいになったのだ。
とりあえず現状ではオレのほうがパワーは上かな。でも大会までにもっと力を伸ばしそうで底しれないものを感じる。
それよりも場面によって強い打球を打ち分けるのが厄介だ。今のところ確実に三振が取れるコースが見当たらない。
まあ後で考えよう。オレは後続を断って無失点を継続してこの回を終えた。




