第108話 力のこもった対戦
「へへっ、どうもよろしくっす。俺、オージロウさんのストレートをホームランにするの、何日も前から楽しみにしてたんで」
こ、このヤロウ! いきなりナメたことほざきやがって!!
多岐川の1年生キャッチャー田村が右打席に入るや否やとんでもない挑発を……ムキーッ!
……いやいや、1年坊主がちょっと生意気なことを言ったからってムキになるのは大人げない。
ここは先輩としてオトナの対応をすべきだ。オレはふうっと息を吐いてから冷静に言葉を返す。
「そ、そうかい。まあ打てるもんなら打ってごらんよ。無理だと思うけどさ。はははっ」
「……言うじゃないっすか。その挑発、後悔させてあげますんで」
し、しまった。オトナになりきれず、結局売り言葉に買い言葉になっちまった。
でもまあ、やっちまったもんは仕方があるまい。オレは有言実行を貫くのみ。
さて、投げる前に田村の構えを確認。
ガッシリした体型だけど割とコンパクトというか。もっと大きく構えるかと思ったが意外だった。
構えの段階では重心は後ろ側で、左腕を後ろに引いて背番号が少し見えるくらいに身体を捻ってる。
ということは……。
初球はこれで攻めてみよう。内角高めストレート!
「うりゃあっ!」
「ぬあっ!」
ガコッ! と鈍い音だけ残してボールはキャッチャーミットに突き刺さる。
「ストライク!」
ファウルチップだけど当ててきたか。
バッティングフォームは予想通り、前に大きく踏み出してからの豪快なスイングだった。
だけど踏み出しは素早く、かつ上体があまりブレない。もっと目線が動いてボールを捉えられないかと思ったけど……しっかり見て捉えてきた。
あとスイングスピード自体は津々木マイクや谷下さんの方が速いと思うが、身体を一気に捻り戻すみたいな鋭さがある。
と、分析みたいなことを考えながら次に投げる準備をする。
せっかく練習試合なんだし好きなコースとか探りながら仕留めにいこう。
2球目は外角高めだ!
「ぬああっ!」
バシィッ!!
鋭いライナーがライト側スタンドへとファウル。
振り遅れてるように見えたけど右に上手く打ち返されたみたいな打球だった。
どうなんだろう。ツーストライクと追い込んでるし、あのコースをこういう場合にどうするのか見てみたい。
というわけでさっきまでより力を込めて内角の膝元へ投げ込む!
「うりゃああっ!」
「……簡単に終わらんので! ぬあっ!」
バコォッ!
うわっ! 強引に右打ちしてきやがった!
一塁線を強烈なゴロが襲って……。
「ファウル!」
ふーっ。引っ張りにいって引っ掛けずに、かなり手元に引きつけてから右打ちとは、バットコントロールも大したもんだ。
どうしようかな次は。相手はキャッチャーだけど配球を読んでるのか反射的に打ち返してるのかもよくわからんし。
まあいいや。ここは力で押し切って終わりにしよう。
もしもまだホームランを狙ってるなら手を出してくるはず……4球目はここだ!
「うりゃあああっ!」
「ま、真ん中高め!? ぬあっ!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウトさね!」
「うっしゃ!」
「ちくしょう〜!」
思わずガッツポーズしちゃった。十分に楽しませてもらったよ、この対戦。お互いに力が入っていたのは田村の悔しがる声でわかる。
さすがにあのコースは読んでなかったみたいだな、ちょっと始動が遅れていた。
それにやっぱりホームランを狙ってたらしい。慌てて引っ張りにきたからオレの渾身のボールにスイングがついてこれなかった。
多岐川のベンチでは相変わらずあの制服姿の男子がノートに書き込んでる。今回のオレのピッチングもデータとか取られてるんだろうか。
夏の大会に向けて、この練習試合はお互いに探り合いになりそうだな。




