第101話 あえてアウトコースで勝負する
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
ど真ん中にキマったストレートがベースを通過してからバットが空を切って、またもや三球で三振を奪った!
「クソッ……ストレートしか来ないのがわかってるのに、なんで遅れちまうんだ。俺ってこんなに打てないバッターなのか……?」
右打席で悔し紛れの言葉を呟く大岡。
いやいや、オレのボールが強すぎたから仕方がないよ、気にするな。
と心の中だけで呟いた。大岡には余計なことを言っても下手すると慰めどころか感情を逆撫でするかもしれないから。そっとしておこう。
で、今は何をやってるのかというと。
合同練習でフリーバッティングをやっていたのだが、オレの不用意な発言でチームメイトたち全員と真剣勝負することになったのだ。
勝ち負けの基準は単純で、オレからヒットを打てばバッターの勝ち。そして古池監督からラーメンを奢ってもらえる。
対してオレが狙うのは全員を三球三振に仕留めること。
そしてみんなには悪いけど……その狙いは既に現実となりつつあるのだ。
「さあ、あとは2人だけか。さっさと済ましちゃいますかね!」
「ちくしょう〜!」
「悔しいけどもうダメだ〜!」
「まだ終わってねーのに何を諦めてんだお前らぁ! で、オージロウよぉ〜。この阿戸様が最後に残ってるのを忘れんじゃねえぞコラァ!」
「その前に自分の番だな。御野ヶ島高校3年、原塚 月男。敵わんかもしれんが必死に食らいついてやる!」
先に原塚さんが右打席に入ったか。どっちでもいいけど、正直なことを言えば野球初心者である原塚さんには打たれる気は全くしない。
練習は積んでくれているがドアスイングは直ってないし、ボールの見極めやタイミングの取り方もまだまだだ。
というか本人や監督たちとも話しているんだけど、今からスイングを矯正するのはやめておこうかという意見も出てる。
ドアスイングでも芯に当てられそうなアウトコースを打つことに絞って、あとは大会中だけそれを悟られないように工夫できないかと考えているのだ。
その方が持ち前のパワーを発揮しやすいし、むしろファーストとして送球を確実に捕球する能力を磨いてほしい。その方が戦力になる。
おっと、余計なことを考えすぎた。対戦に集中しないと。
でもイマイチやる気が……そうだ、いいこと思いついた。
「原塚さん。オレはこの対戦でアウトコースしか投げないから」
「……いくら自分が初心者だからといって、それはあまりにナメ過ぎだと思うぞ。そもそも自分がアウトコースを打てるようにオージロウくんたちが構え方を伝授したのを忘れたのか?」
「わかってて言ってるんですよ。それに原塚さんこそオレの全力のボールを打てるとかナメ過ぎてますね」
「そこまで言うなら、絶対に前に……いや最初に出会ったあの時のような打球を食らわせてやろうじゃないか!」
「ふふっ、できますかね〜。それじゃ行きます!」
ちょっと悪役ムーブっぽいけどやる気が湧いてきた〜!
しょーたがミットを構えてるのは外角で真ん中の高さ。そこに向かってストレートを投げつける!
ズバンッ!!
「くっ! 完全に遅れた!」
ブオンッ!! と大型扇風機かと思うくらいの豪快なスイングが、ボールがミットに収まった後に大きく空を切った。
でもこの前言った通りにクローズドスタンスでバットの先を前に向けて構えて、体重移動もスイングの始動もちゃんとできてる。
芯に当たればオレのボールといえどもパワーで持ってかれそうだ。
まあ、当たればだけどな。2球目も同じコースに行くぞ!
「うりゃああっ!」
「同じコースで同じリズム……フンッ!!」
ガコォッ!!
「うわああっ!」
「あ、危ねえっ!」
打球はファースト側で見ていた人たちに向かって凄まじい速度の低いライナーで飛んでいった。
ガシャン! と音を立てて防球ネットを激しく揺らしたのがその威力を物語っている……やっぱり油断ならねえな、あのパワー。
「ふう。次も同じコースなら行けそうだ。今ならアウトコース以外にも投げることにしてもいいぞ、オージロウくん!」
「いや、アウトコースでいきます」
「そうか。じゃあ古池監督、ラーメンご馳走様です」
さて、どうしようかな。
ここまで対戦したバッターもだいたいが2球目は当ててきた。
だけどファウルチップかキャッチャー後方へのフラフラした小フライ。つまり完全に力負けしている。
だからヒットを打とうとしたら腕に強く力を込めることになって……それが結果として振り遅れにつながる。というかそれを利用させてもらったのだ。
でも原塚さんは今の時点で力負けしてない。となれば同じ手は通じない。
ならば……オレは全力でボールに回転を与えて3球目を投げる!
「うりゃあああっ!!」
「外角だが今までより低い……いやホップしてくる!」
ズバーンッ!!
3球目も同じコースに決まった!
そしてバットはボールの下を通り過ぎて豪快に空振りしたのだ。
「原塚さん! 約束通りすべて同じコースにキメました。悪いけど完勝です」
「高めじゃなくてもあんなにノビてくるなんて……確かに完敗だ」
よっしゃ! これであとは阿戸さんのみ。
「オージロウ! 俺はそう簡単にはやられないぜ〜!?」
いつもより気合いが入った表情で右打席に入った阿戸さん。最後の相手として不足なしだぜ。




