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新人研修・その2

〈自罰するつもりで打たる俄雨 涙次〉



【ⅰ】


「シュー・シャイン」の薦めで、菜津川暑子は怪盗もぐら國王に預けられた。

 ところが、「もぐら御殿」は菜津川の氣に入らない處だらけ。知らないゲージュツカの、知らない、随分髙額さうな繪が飾られてゐる、この地下の「アジト」。ゴージャスなダブルベッド。そして名も知れぬ美しい女...

 もぐら國王は、カンテラの事務所から來たのだから、自分と似通つた趣味の持ち主だと、菜津川の事をてつきり勘違ひしてゐた。「シュー・シャイン」が惡戲ごゝろを起こして、彼女が婦人警官である事を云はなかつたせゐもある。

 朱那は、女性だからと女同士の會話を樂しみにしてゐたのだが、あからさまにサベツ的な眼差しをこちらに向けてくる、垢拔けない服装のこの女を、だう扱つたら良いか、手に持て余す始末。



【ⅱ】


「取り敢へず、珈琲ね」と朱那。ブルーマウンテンの良い馨りが、彼らを包んだ。

 國王「この珈琲、どんな銘柄だと思ふ?」

 菜津川「知らないわ。こんなのブルジョワ趣味で、氣に入らないわ」‐國王「人に教へを乞ふ時には、もつと丁寧な口を利くもんだぞ」‐靜かだが、國王の聲は威嚴に滿ちてゐた。(カンさんも手を焼いて、俺のところに廻して來た譯か...)

(ちよつとこの男、勘違ひしてない?)だが勘違ひしてゐるのは、菜津川の方だつた。



【ⅲ】


 國王には、大體の筋書きが讀めた。まあ、カネの有難み、冒険の悦樂、そこらを教へろつてところか。國王、* 枝垂の時のやうに、わざわざ用意したホワイトボードと差し棒を使つて、「講義」を始めた。



* 前シリーズ第69話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈罷り出で居坐る蝦蟇の夫婦(めをと)にはあな可笑しやと聲掛けるかな 平手みき〉



【ⅳ】


「ち、ちよつと待つて下さい。わたしに泥棒のお先棒を担げつて云ふの!?」‐「それ以外にやる事があるか? 俺を誰だと思つてゐる。怪盗もぐら國王様だぞ!」

 其処にカンテラがひよつこり顔を出した。

「よ、やつてるかい?」‐「カンテラさん酷いです。この人、わたしに泥棒のやり方、教へやうと‐」‐「きみも分からん奴だな。泥棒が泥棒して何が可笑しい?」


 國王「ところでカンさんは何しに?」半ば直自棄(やけ)になつて國王は訊いた。「いやね、このコを連れて行かうとしてゐる現場で、用心棒は要らないか、と思つて」



【ⅴ】


「!!!カンテラさんが泥棒の用心棒だなて!」‐「その事は『プロジェクト』の仲本担当官も佐々キャップも認めてゐる。きみも早く認識を改めたらだうだ」

 カンテラは菜津川の氣持ちを知りつゝ、わざと意地惡をしてゐるのだ。「用心棒が必要ないぐらゐ、ちよろい現場だよ。トーシロ連れて行く譯だからな」‐「なんだ詰まらん」



【ⅵ】


 押し込む先は、地方の素封家の在京邸宅。其処に、だうしても故買屋Xが手に入れたい、と云ふヨークシャー・テリアの血統書付き、のがゐる。「今度は動物かあ」よくぞ買ひ手がゐるもんだ、と云ふやうに、カンテラ呆れて見せた。

「動物なら、女の子にもいゝか、と思つてね」

「親ごゝろだ、菜津川くん、行つてらつしやい」



【ⅶ】


「さて、トンネル掘りだ」‐菜津川、大もぐらに化けた國王を見て、再度驚愕。「【魔】ぢやないですか! わたしもう嫌!」‐「こんな事で弱音を吐くぐらゐなら、じろさんの使ひ魔は勤まらんな」

 カンテラの採用基準を滿たさなかつた彼女。しよんぼりしてゐる。「さあさあ、勇氣を出して、行つて來るんだ」......


 なんとかその犬をゲットした、國王と菜津川。「これで良かつたのかしら‐」菜津川の悩みは深い。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈それがしは蛙で御坐る雨蛙 涙次〉



 と云ふ譯で、なんだかんだ云つて、ヨークシャー・テリアの世話に明け暮れる菜津川・笑。「ジニー」と云ふ名のその犬は、彼女に良く懐いた、と云ふ。採用の可否は... 神のみぞ知る事であつた。これにて一卷の終はり。またね!!


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