第九話 入団、そして決意
次の日、酒場に入ると昨日と同じ席でこちらに手を振るカイの姿が目に入った
昨日と同じく、酒場は街の人々で賑わっている
足を踏み出そうとして一瞬立ち止まったのはカイの隣に、牛の頭の剥製を頭に被った男が座っていたからだ
男を凝視しながら2人と反対側の席につくと、シュバルツが尋ねるよりも先にカイが口を開いた
「紹介します。うちの傭兵団の団長『カルヴィ』です」
「カルヴィだ。こないだはカイが危ないところを助けてくれたそうだな?団長として俺からも礼を言わせてもらおう」
筋肉質な体つきから連想されるような力強い声でカルヴィは名乗ると、昨日シュバルツが読んだのと同じチラシをテーブルに出してきた
「うちに加入したいそうだが、このチラシは見たことあるか?」
シュバルツは苦笑した。前向きに検討するとは言ったが、加入するとはまだ言ってない
おおかたカイが説明を盛ったのだろう
「ああ、今のところ加入する方向で考えている」
「本当ですか!?」
思わず身を乗り出したカイを座らせると、カルヴィはこちらを見て尋ねた
「うちは一般的な傭兵団とは活動内容が少し違う。それは知っているな?」
シュバルツは頷いた
「それなら話が早い。では、こちらから幾つか質問させてもらうぞ」
そう言うと男は小さな紙と羽ぺンを取り出した
「カイの話では剣がめっぽう強いと聞いたが、前職は何を?」
「定職に就いたことはない。短い間だが、冒険者をやっていた」
「戦闘経験は?」
「人、魔物どちらともある」
「悪事に手を染めたことは?」
「幼少期は盗みをやっていたが、今はもうやっていない」
「人を殺したことは?」
「…ある」
シュバルツは一瞬迷ったが、今は正直に質問にこたえるべきだと思った
カルヴィのメモを取る手がピタリと止まったのが分かった
「何人だ?」
「一人」
「理由を聞いてもいいか」
「そいつは俺の大事な人の命を奪った。だから殺した」
シュバルツは再び悩んだが、本当のことを言った
それに対し、カルヴィは「そうか」と呟くと再びメモをとり始めた
それからシュバルツは故郷の場所や身寄りはいるか等を聞かれたが、出生に関する情報は自分でもほとんど覚えていなかったなかったため、全て「分からない」と答えた
「ふむ、分かった…じゃあ最後に一つ」
出生に関する質問を終えると、男は再び顔を上げてシュバルツに視線を戻した
「我々傭兵団はこの街の人々を守るために日々戦っている」
シュバルツはカイが注文してくれた骨付き肉を頬張るのをやめ、カルヴィの話をじっと聞いた
カルヴィは続ける
「戦いは常に命懸けだ。いつ仲間が、自分が死ぬかなんて予想できない。俺も戦いで死んだ仲間を何十人も見てきた。それでも見知らぬ人々を守り、助けるために自分の命を捧げる覚悟はあるか?」
シュバルツは少し悩んだ末に口を開いた
「この街の人々のために、この命を…捧げます」
カルヴィの言葉を復唱するように答えると、カルヴィはシュバルツに手を差し伸べて豪快に笑った
「そうか、そうか!じゃあシュバルツとやら、これからよろしくな。カイ、拠点まで案内してやれ」
「は、はい!」
そう言うとカルヴィは忙しいのか先に会計を済ますと、足早に酒場から出て行った
『人を助ける』それが一体何を意味するのかシュバルツはまだよく分かっていなかった
だが、傭兵団ならもしかするとその意味を理解し、自分の生きる目的を見つけられるかもしれない
誰か助けよう
リーナとヴァイザー、あの二人が自分にしてくれたように