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ダークガーネット 〜滅びゆく王国編〜  作者: 柴犬
第二章 傭兵団での日々
8/9

第八話 勧誘

ーーー フロイデンのとある飲食店 ーーー


 「いや〜本当にあの時は死ぬかと思いましたよ。シュバルツさんが来てくれて本当に良かったです!」

 「ああ、そうだな」


 シュバルツは前のカイの話を聞き流しながら約1週間振りのビールを一気飲みした

 そして、目の前の肉をガツガツと頬張る


 こんな贅沢な食事をしたのは光野郎とバーに行った時以来だった

 食べ物がなくて変な魔物の肉や、ギリ食べられるであろう草、果実を食べていたのがまるで嘘のようだ

 今なら不死の呪いを解かれても、死を選ばない気がする



 「そして、シュバルツさんのあの剣捌きと魔術!あれは見惚れてしまいましたよ!」

 「ん…まあな」

 

 さっきから食事に夢中で、塩対応をしまくっているが、一向にカイは話すのをやめようとしない

 2時間前に死にかけていたというのに元気なものだ


 カイは年は16歳だそうで、シュバルツより3つ年下だった

 背は低く、髪色はグレーで肩までおろしてあり、声も若干高いので性別が分からなかった

 1人称は「僕」だが、まだ男だとは断定するには早い


 「シュバルツさん、もう食事はいいのですか?まだまだ奢りますよ」


 正直、もう一杯ビールが欲しいところだが、流石に申し訳ないので断った

 

 「そんな遠慮なさらずに!すみません、ビールを一杯お願いします」


 心を読む魔術でも使っているのか知らないが、命の恩人に対してとはいえ、カイの奢りっぷりには苦笑せざるを得ない

 第一、16歳で人に飯を奢れるほどのお金を持っていること自体が驚きだ

 剣や防具を身につけているが、冒険者なのだろうか


 「カイはそんなに注文して大丈夫なのか?」

 「大丈夫です!今日は給料日だったので」

 

 冒険者には給料といったものがない

 となるとどこかの名家の子供だろうか?給料を小遣いと勘違いしている可能性もある

 いや、もしそうならダンジョンに一人で入り、死にかけているのを家の人が放っておくわけがない

 聞くべきか迷ったが、自分の350ルビーしか入っていない財布を見て、思わず口を開いた


 「カイは何の職業をしているんだ?」

 「傭兵です!」

 

 元気いっぱいの回答に、シュバルツは思わず目を丸くした

 傭兵といえば、「三度の飯より戦争」と言うような戦闘狂の集団というイメージが強かった

 こんな16歳の子供がやる職業じゃない


 驚いたあまり、喉に詰まったビールに咽せていると今度はカイがこちらに質問をしてきた


 「シュバルツさんは冒険者ですよね?シュバルツさんクラスにもなると、やはり日々稼ぐお金の量もすごいんじゃないですか?所属しているギルド名だけでも聞かせてください!」

 「ん…残念ながら、今の俺の全財産はこれだけだ」

 「え?」


 シュバルツが苦笑財布をひっくり返して入っていた350ルビーを見せると、カイは口を開けて固まった


 「それに、ギルドのようなものにも所属していない。今まで所属したこともない」

 「え…?」


 カイの表情を見ていると、なんだか夢をぶち壊してるみたいで申し訳ない気持ちになった


 「では…何か剣術に関わるお仕事をされているのですか?」

 「鍛冶屋でバイトをしたことはあるが、今は何もしてない。各地を放浪するなんちゃって冒険者だ」

 

 カイはとうとう絶句してしまった

 多分あれだ

 憧れの人を見つけたが、幻滅してしまったという感じだろうか


 「じゃあ、今は無職なんですか?」

 

 その言葉にシュバルツは頷いた

 

 「働く気は?」

 「目立つのはちょっと御免だな、ただ定職にはそろそろ就きたいと考えている。なんせ金がないからな」

 「な、なるほど…」


 カイは黙り込むと下を向いて、ついには黙り込んでしまった

 まあ自分の命の危機に颯爽と現れた救世主の中身がこんなんじゃ戸惑うのも当然だろう

 かける言葉を探していると、カイが意外なことを口にした


 「シュバルツさん、うちの傭兵団に入りませんか」


 シュバルツはその言葉に驚きながらも、一瞬間を開けて答えた


 「戦場に出るのは御免だ。戦争なんて物騒なものに巻き込まれたくない」

 「いや、うちはそういう感じじゃないんです」

 「…どういうことだ?」

 

 シュバルツは思わず聞き返した


 「うちは戦争に出て生計をたてるような傭兵ではないんです。僕らはこのフロイデンという街を拠点に活動していて、主に馬車の護衛や施設の警備の仕事、街の治安維持等をやっている、いわゆる自警団のような集団なんです」

 「…もっと詳しく聞かせてくれないか」


 シュバルツの言葉にカイは嬉しそうな反応を見せ、マシンガンのように話しだした

 長かったので要約すると


 ・傭兵団は民営で約300名で構成されており、元軍人や元商人等、所属している人々の種類は様々

 ・給料は月ごとにこなした仕事の量や難易度で決まる

 ・個人ではなく、主に5〜7名の班で行動し、班員と共に仕事をこなしていく

 こんな感じだ


 「なるほどね、よく分かったよ」

 「どうですか?」

 

 カイが身を乗り出して聞いてきたので思わずのけぞりながら答えた


 「すまないが、今すぐには無理だ。こちらにも予定や都合が色々あってな」

 「そうですか…」

 

 カイが深く落胆したので慌てて「前向きに考えている」と付け加え、明日またここで会わないかと提案した


 「はい!是非!また奢りますので」

  

 シュバルツは苦笑しながらも礼を言い、今日は一旦会計を済ませて解散することにした


 「じゃあまた明日!今日は本当にありがとうございました!」

 

 シュバルツはカイの声に右手で応えると、宿へと戻った


ーーー


 「ふう〜」

 

 部屋に入ってベッドに座り込むと、宿へ戻る最中に街の掲示板から引っぺがした傭兵団のチラシを眺めた

 

 「Wacker Kriegers」


 チラシの見出しにはそう書かれていた

 おそらく傭兵団の名称だろう


 説明を読むと、さっきカイが説明してくれたことがほとんど載っていた


 「『この街を共に守ろう!』か…」


 最後に書かれている文章を読み終えると、チラシを机に置き、シュバルツはベッドに倒れ込んだ

 正直悪くない話だと思うと同時に、これを逃せば一生まともな職業に就けない気もした


 「明日色々聞いてみよう」そう心の中で呟くと、シュバルツはまた深い眠りについた


 

 

 


 


 

 

 

 


 

 

 

 

 
















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