ものを言う
なんとかは口ほどに・・・
コロナという新型の肺炎が世界中で蔓延する。
世の中は、マスク姿の人たちが普通の光景になった。
俺たち高校生も学校に行くのマスク。
そして、昼に弁当を食べるときもマスク。
前を向いて誰ともしゃべらないで黙々と食べる。
なんとも味気ない毎日。
それでも腹は減る。
もう少しで昼だと思った時俺の腹が鳴った。
「ぐぅぅ~~」
あちこちからクスクスと小さく笑い声が聞こえる。
俺も「へへっ」と笑った。
ところが、腹の虫はまだ鳴りそうだと思い心の中で思った。
「ああ~~、腹減ったな」
いや、心の中で思ったんだ。
でも、声・・・いや正確に言うと腹が言った。
「こら!サトウ!しゃべるな!」と先生。
ええっ~!俺しゃべってないし。
俺は腹を見た。
その日を境に俺の腹はしゃべるようになった。
数日間は心の中で思う事が出てしまったりしたが、その後コントロールが出来るようになった。
口を開かなくていいので飛沫が飛ばず便利だ。
そのうちに仲間が増えてきた。
みんなコントロールが出来るようになるまで時間がかからなかった。
昼食時も向き合って食べるようなる。
なんせ口は食べるの専門だから。
おしゃべりは腹がしてくれる。
コロナになってからのの味気ない毎日が一変した。
しゃべりながら食べるのはやはり楽しい。
数か月するとクラス全員、いやこの現象が世界中に広がってきた。
ただ、大人はどうやらなかなかこれが出来ないらしい。
俺たち世代は「NEO人類」と呼ばれるようになる。
特に小さい子の方が腹は饒舌だ。
そうこうしているうちにワクチン接種が始まり、この新型も収束の兆しが見えてきた。
ただ、完全になくなったわけではなく他の感染症もあり、俺たち世代はマスクをつけ続ける。
最初は、いろいろと暑くて蒸れたりかぶれたり、また息苦しかったりしたが、いろいろな素材が開発され付け心地も段違いに良くなった。
部活のサッカーも思いきり出来るようになった。
ある日の放課後、俺はマネージャーの女の子から呼び出された。
前からかわいいなと思って気になっていたのでドキドキする。
もじもじしている女の子が顔をあげた。
「好きです」
彼女の目が言った。
なるほど目は口ほどに物を言うのか。
「俺も」
目で答えた。
なんとも世界は不思議でそして魅力に満ちている。
コロナ禍の時に思いつく。
そして昔、昔に授業中にお腹なったのとか思い出して。
さらにお腹の弱い私は、今でもしょっちゅうお腹が鳴る。
ブログに載せていた時も書いたんだけど、なんだか落語のようだ。