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就活生日記  作者: タカミ
1/1

メデューサ

人生で初めてのオンライン面接。

画面越しの“人事”という名の未知なる存在に、緊張と不安とちょっぴりの期待を抱いて挑んだ、あの日の記録。

これは、就活という戦場で繰り広げられた、私と“メデューサ”の短くも濃い、ある意味ファンタジックな邂逅の物語である。

9時54分

胸の鼓動が、時計の秒針よりも早く刻まれている。


あと6分。

たったそれだけなのに、ものすごく長く感じる。


クローゼットから、着慣れないリクルートスーツを取り出し、ぎこちない結び目のネクタイを隠すように羽織る。


何度も脳内でトークラリーをイメージトレーニングしながら、黒い文字で埋め尽くされたノートを手に、伝えたいことだけが真っ白なまま、パソコンの前に座る。


9時57分

先日届いたURLをクリックする。異世界転生でもするかのように、身構えた。


切り替わった画面の先に現れたのは——切れ長の目、突き刺すようなアイライン。氷属性のように白い肌、顎下まで伸びた触覚のような髪。


第一関門。人事部の人だった。


緊張と未知なる光景に、さっきまで黒光りしていたノートは一瞬で透明に。


目線はずらさず、指先の感覚だけを頼りに記憶を探すも、見つからない。もちろん待ってくれるわけもなく、メデューサは光線を放ってきた。


「では、簡単な自己紹介をお願いします。」


——記憶が消された。メデューサの光には、記憶を消す力があったことに、後から気づいた。


「はぁ、はぃ。」


「メデューサ大学、あっ、すいません。働け大学の、就 職太です。本日はよろしくお願いします。」


……はやい! もう終わってしまった。あれだけ大学での活動や趣味、特技、強みを考えてきたのに、名乗りだけで終わってしまった。


さすがのメデューサも、目が点になっていたが、それを誤魔化すように苦笑い。


そこからは、淡々とメデューサの光線を浴び続けた。


「志望動機をお願いします。」

「ピカーーン」(光線)

「私が御社を志望した理由は、まッ、まず経営理念に、キョッ、興味を持ったからです……。」


散らばった言葉を寄せ集め、なんとか形にするが、その努力も次の光線で破壊される。


「早く留めを刺してくれ……。」


ついには、

「あなたの思う仕事への価値観を教えてください。」


石化光線まで飛んできた。

1億年分の記憶喪失を味わい、数秒で世界は地獄と化した。


「ワァ、ワタシィ、の思う仕事への(カチカン)は……誰かのミライを変えるために働くことです……。」


エンマ大王様から“地獄行き”のお札を張られたような気分だった。


メデューサからはさらに、「なぜそう思うのか」「そのために弊社で何をしたいのか」と、ハラワタを掻き乱され、思考放棄。


予定より30分も早く終わった“初恋のようなお茶会”は、異世界の神話のように、静かに世界の片隅へと葬られた。



面接が終わった後、机の上には、ぐしゃぐしゃになったメモ帳と、ぬるくなったお茶と、言いそびれた言葉たちが残っていた。

でも、あのときの悔しさや情けなさが、今も心のどこかで灯火のように残っている。

次こそは、石になんかならない。光線にも負けない。

そう思いながら、私はまた、新しいURLをクリックする。

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