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- 第1話 新米電気工事士ことり -

「げっ!!低くない?」

壁の穴に顔を近づけ声を上げる。

「ことりやりやがった・・・間違ってるじゃん」

腕時計が10時を差す。

休憩時だ。


その時、小柄な少女が近づいてくる。


「はぁ、疲れましたぁ」


その少女は和むような雰囲気を醸し出している。

彼女こそが新米電気工事士のことりである。


あたしは童夢志保。

工事現場で電気工事の施工管理をしている。

キャリア歴5年のまだまだ新前だけど後輩が入ってきて先輩の威厳も出さないといけないので大変だ。


目の前の和むような小柄の少女が後輩のことり。

ことりを叱るのは凄く苦手だけど、今回は叱らないといけない。


「ことり、事務所の壁開口したのあんた?」


その問いに


「そうなのですぅ何かあったの?」


ことりはきょとんとした顔で返答してくる。


「高さ間違ってるし・・・」


あたしの言葉にことりはびっくりした。


「スイッチだったのでちゃんと1200で開けたのですぅ」


「それが間違いなんだよ!ちゃんと図面見た?」


あたしの問いにことりは即答する。


「スイッチの高さは1200だったのです」


私はことりの頭を撫でながら


「事務所はOAフロアだから100上がるじゃん。だから1300にしとかないとダメだよ!図面にもOAフロアの記載あるでしょ!」


あたしの言葉に蒼ざめたことり。


「失敗なのです・・・」


私は頭を撫でながら


「またあのうるさいおばさんのところに謝りにいかなきゃダメじゃん!勘弁してよ・・・」


「ごめんなさいなのです」


ことりは深々と頭を下げた。


「失敗は誰にでもあるし別にいいんだけど、デビュー戦の時のトラウマがあって・・・ちょっとビビる。」


「しーちゃんもそうなのですかぁ?」


ことりが質問してくる。


「デビュー戦の時は本当に大変だったんだから!」


「え?しーちゃん、どんな大変だったの?」


「え?そりゃ、もう挨拶に来いって言われて挨拶しに行ったらさぁ」


ことりが頷き相槌を打つ


「うんうん誰に挨拶しに行ったの?」


「躯体関係の業者だよ!」


ことりは少し考え


「鉄筋屋さんと大工さんですかぁ?おはようございますって言ったらいいのです」


さらっと返答してくる


「そうじゃないんだって!!あたしだってそうだと思ってさ。おはようございます。よろしくお願いします!」


ってあたしが言ったんだけど、全然話が通じなくて・・・


「おー!新入りか?挨拶しに来たのか?」


って言うから


「はい、よろしくお願いします」


って再度言ったの!

じゃあ「違うだろ?」って言われて

あ、挨拶の仕方が違うんだと思って、ちょっと昼前だったから

「こんにちは」

って言ったら

「いや、そうじゃないだろ?」

って再度言われて、あたしもうびっくりした・・・

どう答えていいのかなと思って、しばらく考えて


「新入社員で新米ですがよろしくお願いします」

って言ったら、ヘルメットをトンカチで叩かれるんだよ。

ヘルメットの上からだけど痛いし・・・


「とりあえず、上司に挨拶の仕方を習ってこい!」


って言うんだよ。

頭おかしいヤツいるとあたし思って怒りながら事務所に帰ったんだよ。


「困った人ですねぇ・・・挨拶してるのに叩いてくる人ダメなのです」


ことりは親身に話を聞き入れている。


それで事務所でその時の所長に


「あたし躯体業者の職長さんに挨拶したんだけど全然通じないんです。ヘルメット叩いてくるし・・・アイツ頭おかしいんじゃない?」


って怒って言ったの。

そしたら所長が


「それはビール券かアマギフカード等を持って挨拶しに行かないと・・・」


とか訳のわからない事言いだ所長。


「挨拶ってそんなのを渡す事って知ってるわけないじゃん!だいたいこの業界に入って間がないあたしがそんな風習知ってるわけないし・・・」


あたしが怒り口調で説明したらことりは驚いていた。


「まぁでも、今はそんな風習も無くなったけど、昔はそんなのだったんだよ!物渡すのが挨拶ってね・・・」


ことりは驚いていた。


「それが挨拶なのですかぁ?変わってるのです。挨拶はぁこんにちはとかぁおはようございますなのです。」


「もう、だから昔はそういうのじゃなかったんだって・・・今でこそそんな風習も徐々になくなってき、みんなが対等な感じでいい感じの業界に少しは変わってきたけど、もう本当マジで昔ヤバかったんだし、ぶっ殺してやろうかなと思ったもん!」


あたしの言葉に笑うことり。


「それがあたしが初めて行ったマンションの現場だったんだけど、ほんと最悪だった・・・戸数も445軒で12階建て、ワンフロアが大体30戸以上あるようなマンションだった・・・」


「すごぉく、おっきいね!」


ことりが驚く


「いやマジでおっきいんだって!それをさ、いきなり新米のあたしにやらそうとするんだよ。もうびっくりするって!それがデビュー戦だよ。」


あたしの怒りが徐々に膨れ上がり声が上がっていく


「それで建築の事務所に初見挨拶しに行った時、あたしが7人目だった」


「その現場で7人目?じゃあいっぱい人いるんだぁ」


ことりはほっとしたように言ってきた


「そうじゃないって・・・所長を除いて5人はもう辞めちゃってるんだって・・・墓場だったんだよその現場」



「マンションじゃなくて墓場だったのですかぁ?」


ことりは理解できず困った顔をする


「いや違うって、現場はマンションだよ!社員の墓場ってこと・・・」


あたしはしっかり説明をする。


ことりは理解したかのように相槌を返してきた。


「大変な現場なのです」


「だから言ってるじゃん、大変だったんだって・・・あたしが7人目で建築の所長に挨拶しに行ったら『あんたはいつまで?せいぜい頑張ってくれ』って言うんだよ、やる気出して就任してきたあたしにそんな言い方してくるんだよ!マジぶっ殺してやろうかと思ったよ!」


ことりはクスクス笑いながら


「しーちゃんさっきからぶっ殺しすぎなのです」


「もうマジでそれぐらい思うって!それでさぁ、その後もその後だよ!その現場請け負ってくれていた職人さんがいて、あたしまだ初めてだから全然現場の右も左も分からないので教えてくださいって言ったら、遠めの監督指さして、とりあえずあの監督にちょっと2階のロビーインターホンのボックスがズレちゃったから斫らせてくれって言ってこいっ!て言うんだよ」


頷くことり


「斫る意味が全然分かんなくて教えてくれってその職人さんにたのんだら、アイツに言ったら分かるって言うか、その建築監督の人にそのまま言いに行ったの。言ったらいきなりその監督があたしの胸ぐら掴んできて『お前舐めてんのか?』って言うんだよ。」


ことりは突然の展開に驚いた。


「あたしは言われた通り言っただけじゃん!何が悪いの?」


って思うとだんだん腹が立ってきてコイツをぶっ殺してやろうかなと思ったよ。


ことりはかなり笑っている。


「しーちゃんすぐにぶっ殺すのですぅだから墓場になったのです」


「いや、あたしのせいじゃないから・・・それで意味わかんなくて、あたしが何怒ってるんですか?って言ったら、『お前が斫るって言うからだろ!』って返してくるから。

じゃあ斫るってどういう意味なんですか?って聞いたら、

『それは壁や床を壊すことだ、しかも一昨日に吹き付け仕上げ終わった後だぞ!』

そう聞くとそれは怒ると確かにそう思ったよ。

でもあたしは斫るの意味わからずに、それをそのまま言ってこいって言われて、言っただけなのに胸ぐら掴まれてほんとに腹が立ったよ。マジぶっ殺してやろうと思ったし。」


「同じ人2回ぶっ殺されたのですぅ」


ことりは面白がって言っているが、あたしの怒りは沸点になりかけていた。


結局あたしにはどうしようもなかったし、何も思いつかなかったから



「もう斫らず直さなくていいってあなたが許可をくれたらそのまま上司に伝えておきます」

ってあたしが言ったらまた文句言ってくるんだよ。」



「許可出すわけないだろう!」

って怒りだすし。


「ずれていたらダメだよぉ」


ことりが言ってくる。


「でも直したらダメって言ったり、じゃあ直せって言ったり、もう何言ってんだ、かさっぱりわからないで、結局直したらダメって言ってたくせにもうなんか仕方ないから直せって言うからもうなにがなんだか・・・」


頷くことり


「だからボード開口間違えられたら私すっごい困るんだけど・・・謝りに行くのあたしだし」


その言葉を聞き、下を向くことり。



「ことりとりあえずボード補修のやり方わかる?直しといて、私はパテ補修の依頼してくるから」


このような毎日で心身ともに疲れている建築事務所へ行く。


工事現場には大きく分けて建設業者、設備業者に分かれる。

私は電気設備工事だから設備業者に分類される。

建物の形を作るのが建築その形のできた建物を彩るのが設備業者。


その設備業者には電気、通信、衛生、空調、その他と細かく分かれている。


建築はその昔、〇〇組と名乗っていた人や組織が多く。

これは中心核となるリーダーが1名いて、その1名に多くの職人がついて群れをなして動いていた。

だからそのリーダーの名を取って○○組ということが多かった。






とりあえず一旦事務所へ戻ろう。

所長のえびちんに報告しないと・・・


事務所に着いた。


「えびちん、ことりが事務所のボードを開け間違えました。」


私の言葉に、ピクリと眉を動かせるえびちん。


「童夢、三原とことりをここへ呼べ!」


怒り口調で話すものだから雫とことりを呼びたくない。

雫とはその工事現場の電気の職長をしている三原雫だ。

ことりの上司にあたる、部下の失敗は職長のミスであるということもわかるのだが・・・


呼び出された雫とことりが事務所に着いた。


「ごめんなさい。」

事務所に入るとともに雫の一言が響く。

それに続き、

「ごめんなさいなのですぅ」

ことりも続いた。


少しの沈黙の後、

「やってしまったものは仕方がない。原因はなんだ?」


えびちんの質問にいち早くことりが答えた。


「OAフロアの高さを見ていなかったのですぅ」


その直後、あの鬼のようなえびちんが


「今回のが事故でなくてよかったな。ことりの勉強になったんだったら安い事業料だ。仕上がってからの開け間違いだったら被害も大きかった。ことり、ついてたな!」


あのエビチンの言葉とは思えない。


建築事務所ヘは私とことりで謝りに行くこととなった。


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