第3章 勧誘作戦 ♢3
「いい加減にせんか、おまんら!!!」
———3日後、同じく昼休みの中庭にて。
あれからも、あれやこれやといろいろチャレンジしてみたのだが、一向にその効果は見られず、全て失敗。
ついには、ターゲットも俺たちの存在に気づいてしまい、そして今の状況に至る。
「毎日毎日妙なことやりおって、一体何が目的なんぜよ!!??」
......うん、めちゃくちゃ怒ってる。
それはもう、冷静に分析なんてしてる場合じゃないくらいには怒り狂ってしまっている。
いやまぁ......俺が言うのもなんだが、やっていたことがやっていたことだし、もし逆の立場なら俺も怒るだろうし、これに関しては仕方ないと思う。
「あなた......もしかして、筋肉にしか興味ないとか、そういう感じの人......? だから、これだけの属性の美少女たちを揃えても、何も感じない?」
「ちょっとレイちゃん! 思っても口に出しちゃダメでしょ!!」
......いや、お前のその発言もどうかと思うし、それ以前に俺もその中に含められていることをツッコんでほしい。
あの黒歴史は単なる事故でしかないし、それを抜きにすれば、美少女なんてものはたった2人しか存在していないんだ。
2人に全く魅力がないとは言わないけど、その少ない人数だけで決めつけるのは、いくらなんでも早計といったものだろう。
「......何言っとんのかよう分からんが、はっきり言って迷惑じゃき!!! これ以上俺に付きまとうなら、今度はこっちが強行手段を取らせてもらうぜよ!!!」
「「「............」」」
強行手段———彼の言うそれは、文字通り冗談で済まされるようなものではない。
一度戦いが始まってしまえば間違いなく周囲にも被害が出るし、あの化け物を相手に、今度も俺たちで止められるかどうかは分からない。
......さすがに潮時、か。
余計なことは考えずに、ここは怒りを鎮めてもらうことだけにシフトチェンジするしかない。
「......ごめん、流門。確かにお前の言う通り、俺たちのやり方が悪かった。
けど、誤解しないでくれ。俺たちはただ、もう一度お前と話を———」
と、そこまで言いかけたところ、なぜか俺の視界がぐるっと一回転し始める。
一体......何が起きているのか......?
そんな自分でも何が起きているか分からないでいる中、すぐさま背中に衝撃と、鋭い痛みが襲いかかった。
「......やれやれ。人間というのは、どうしてこうも諦めが悪いのか」
痛みに瞑っていた目を開けてみると、そこにいたのは流れるような空色の髪をなびかせる美青年。
見下ろされるような視線や、視界の大半を占める彼の姿を見るに、どうやら俺は、投げ飛ばされた上に馬乗りにされてるらしかった。
「なんなんだ、お前は......いつの間に......?」
「なんなんだ、とは随分なご挨拶だな。私とお前たちが会うのは、これで二度目だというのに」
「何......?」
二度目って......まさかコイツ、あのデカブツなのか!?
だが確かに、この異様な気配と頭に生えている2本の角———間違いなく、あの時の竜神と同じものだ。
あの時はもっと巨大な、まさしくドラゴンって感じの見た目だったけど、まさか人間の姿にもなれるとは驚きだ。
「ふん......あの人間に免じて少し様子を見ていたが、結局は最初のやつらと同じだったということか。
......大介は争いなど望んではいない。お前たちの心意気は、大変立派なものだと思うが、もう少しやり方を考えるべきだったな」
「っ、やめるぜよ、ミヅチ!!!」
そんな流門の制止もむなしく、水の刃を纏わせた手刀を、ミヅチが俺に向かって振り下ろす。
......この目は、本気だ。
コイツは本気で俺のことを殺しにきている———そう分かるくらいの至近距離であり、馬乗りにされているため体も動かない。
だが、そんな彼の手刀が届く直前に、フブキの小さな手のひらが迫り来るそれを受け止めたのだった。
「お前......私と同じ、サーバントか? しかも、かなりの手練れとお見受けできる」
なんて、驚いたように漏らすミヅチの顔面目掛け、フブキが逆側の拳でストレートを放つ。
しかし、二度目じゃさすがに先程のようにはいかず、人間離れした跳躍で、ミヅチは一撃を躱して見せる。
「なぜ、私に拳を振るう? お前には、私と戦う理由などないはずだ」
「あなたこそ、なんで奏に危害を加えようとする? 奏はあなたの思うような、悪い人間じゃないのに」
「違う。それはお前が、その人間の醜い部分を見ていないからそう思うだけだ」
「ミヅチ!!!」
と、着地を決めながら返すミヅチに対し、たまらず流門が怒声にも似た叱咤の声を上げる。
一定の距離を取り合い、まさしく一触即発のサーバント同士の睨み合いが続く中、先にフブキが、考えるような仕草の後口を開く。
「......ん。確かに、私にはあなたの言う難しいことはわからない。皆と違って、私は頭が悪いから」
「ああ。どうやらお前は、何一つとして人間の本質というものが理解できていないようだな」
そう返すミヅチの口調にはどこか哀れみのようなものが混じっており、嘲笑というよりかは、フブキの自分の言ってることを理解できないことへの嘆きのような、そんな色が入り混じっている。
瞳も俺を見る時のような敵意は感じられず、表情も先程とは違って少しだけ穏やかだ。
これは多分、フブキがサーバントであるからの話で、人間相手に彼はこんな様子は見せない。
同じサーバントであるフブキが、同じサーバントである自分と同じような状況に陥っているのを見て、そんな仲間意識に近い何かによる言葉だ。
だが———
「それでも私は、奏や皆と出会わない方がよかっただなんて思わない。記憶もなくて、何もわからない私のことを、奏や皆が優しく受け入れてくれて......確かに、あなたの方が長く人間のことを見てきたのかもしれないけれど、奏たちのことは私の方があなたよりもずっと長く見てきている」
そんなフブキの揺るぎない意思を前に、ミヅチは初めて動揺のようなものを見せる。
......これはあくまで推測でしかないのだが、彼はどこかフブキと自分を重ねて見ていたのだろう。
それが同じサーバント同士だからなのか、はたまた何か別の特別な繋がりでもあるのか、残念ながら今の俺には分からない。
今この場で分かるのは、2人が同じような存在でありながらも、違う道を進んできたということだけだ。
「......まぁ、それも結構。実際私も、大介にだけは似たような感情を抱いているわけだしな」
「だが」と、そこまで言いかけた辺りで、ミヅチの表情が再び敵意に満ちたものへと変わる。
「ならばこそ、理解できるだろう? 執着にも近い何かを抱く対象を守るのに、その他の全ては薄汚ない雑多でしかないということを」
それは、フブキに対して———というよりかは、彼女の周りに対する憎悪。
もっと言ってしまえば、人間そのものに対する憎悪を滲ませながら、再び俺に鋭く視線を向けてくる。
「......はっきり言ってやろう。貴様らが人間という存在である限り、必ずや大介を傷つけ、そして裏切る。
私や大介に悪影響を与える前に、今すぐこの場から消え失せろ」
......本当、聞けば聞くほどにこの2人はよく似ている。
フブキが力で俺を守ってくれるように、ミヅチは流門を他者から遠ざけることで流門を守る。
対照的で、されどもお互いのパートナーを想う気持ちは同じで、違う方法なれど、それぞれのやり方で俺たちを守り通す。
ミヅチが俺に敵意を向けるのもそれが理由なわけで、言ってしまえば、少し俺たちとは違う道を歩んでいるというだけの話だ。
あぁ、だけど......
(だったらなんで、そんな辛そうな顔してるんだよ......!!)
同じ想いを抱くフブキとは対照的に、彼の———否、それを聞く流門の表情も、同じくらいに歪められている。
———これだ。この違和感こそが、俺の中でずっと引っかかっている。
もしも、本当に彼らが心から俺たちのことを拒絶しようとしているならば、きっと俺もすぐに引き下がっていたことだろう。
確かに、不知火との賭けは成立しなくなるかもしれないが、決して誰かのことを踏みにじってまでやるようなことではないからだ。
だが俺には、どうしても彼らが心から他者を遠ざけようとしているとは思えない。
一体、何が彼らにそんな顔をさせてしまうのか......?
(———あぁ、そうか。そういうことだったのか)
今の俺に足りないもの、そしてなぜ彼らの心に俺の言葉が届かないのか———今ようやく分かった気がする。
「......分かったよ。そこまで言うのなら、もう話し合いはやめだ」
「そうか。なら、さっさとこの場から———」
と、ようやく殺意を引っ込めた彼の言葉をぶった斬り、俺はやっと出せたこの答えを口にする。
「だったら俺は、お前らに一対一を申し込む。言葉じゃねぇ......こっからは、漢同士拳で語り合おうじゃねぇか」
「「っ!!」」
なんて、口角を持ち上げる俺に対し、流門とミヅチはまるで信じられないもの見るかのような表情でフリーズする。
———そう。
これこそが俺に足りなく、そして先程ようやく出せた答え。
言葉がダメだというならば、それに代わる何かで知ればいい。
自分と相手の想いを物理的にぶつけ合い、相手にも自分自身のことを知ってもらう。
......少々古典的ではあるが、番長漫画でも、こういう時は決まってこうするに限る。
「ふん......ここまで話が通じないとは、本当に救いようのない猿だな。
いいだろう。お望み通り、今すぐこの場で貴様を———」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ。お前は少し黙ってろ、この蛇野郎が」
「なっ、蛇野郎だと!?」
と、先程までの冷静な態度を一気に崩し、ミヅチが怒りと動揺の入り混じった声を上げる。
うん、まぁそりゃ怒るよな。
あれだけ人間が嫌いだの醜いだなんて言ってるやつに、蛇野郎だなんて身も蓋もないことを言うんだから。
......だが、悪い。
お前がしゃしゃり出てきちゃ、これ以上話が進まない。
少しの間だけでいい。そのまま黙っててくれ。
「何を勘違いしてんだか知らねぇが、俺はもうお前のごちゃごちゃを聞くつもりはない。
俺の挑戦を受けるのか、受けないのか———流門 大介、他でもねぇ、俺はお前に聞いてるんだよ」
真っ直ぐと、影る表情の中に見開かれる翡翠色の瞳を、俺はジッと見据えた。
......さっき感じた通り、その瞳は何か違うものを見ており、そして怯えている。自分の中に踏み込んでくる俺の言葉に、震えているようにすら見える。
さっき俺が失敗したのは、まさしく彼の抱えるこの何かを知ろうとしなかったこと。
自分のことばかりを押しつけて、相手のことを全く視野に入れなかったこと。
うん......そりゃ当然だ、そんなんじゃ心になんて届くわけがない。
彼の抱えるこれを解決しない限りは、きっと本当の意味での仲間になんてなれない。
「......なぜ、そうまでして俺にこだわる。おまんには、俺にこだわる理由なんて、一つも———」
「あるんだよ。少なくとも、俺の方にはな」
「それは......俺の『力』か?」
違う———と返したかったが、ここで嘘をついたら多分、二度と彼の心は開かれない。
根拠なんてない。だけど、『力』という言葉を口にした時の彼の表情があまりにも苦しそうで......ここで偽りを語れば、今よりももっと壊れてしまいそうな気がして———
(いや、そうじゃないな)
こっちから本当の言葉を聞かせろなんて口にしておいて、俺が本心を言わないなんてのはフェアじゃない。
他に難しい理屈はない。
単純に、俺が気に入らないってだけの話だ。
「......この際だから正直に言うけど、確かに最初はそれが目的だったよ。もっと言ってしまえば、例の組織のリーダーに命じられたからってだけの話だった」
と、言いながら俺は彼らの近くまで歩き、自分の内にある本心を口にする。
「けど今は違う。俺は自らの意思でお前のことを知って———そして、本当の仲間になりたいと思った。
『力』がどうとかなんかでもねぇ、俺自身がそう思ったんだ」
......いやはや、こんなにも自分の本心を口にするのが勇気のいることだとは、夢にも思わなかったな。
流門のことを怯えているだとか、怖がっているだなんて口にしてはいるが、これでは人のことは言えない。
平然とした顔こそ作ってはいるが足はガックガクだし、ある意味では俺たちは同類、なのかもしれない。
「......おまんの名前、そういやまだちゃんと聞いてなかったな」
「宇野 奏。そんでもってコイツが、俺のパートナーの〈双雪〉フブキだ」
「宇野 奏に、フブキ......うん、いい名前じゃ......気に入った」
と、ゆっくり噛み締めるように漏らした後、彼は晴れやかな表情で顔を上げ———そして、番長としての仮面を被り、名乗りを上げる。
「俺ん名は、流門 大介!! 正義の番長———いや、ただ1人の漢として、宇野 奏、おまんの挑戦受けて立つぜよ!!!!」
次回投稿は、10月26日 日曜日 12:00と、
10月24日 金曜日 21:00です。
よろしくお願いします。




