第3章 勧誘作戦 ♢1
———翌日、昼休み。
“ケンカ番長”こと流門 大介の手がかりを求め、フブキとレイと共に、俺は隣のクラスである1年B組へと訪れる。
「流門 大介? それなら知ってるっすよ! 俺、アイツとは同じクラスなんで!」
......ビンゴ。
いやはや、こうもあっさりとぶち当たってしまうとは、我ながら本当に驚きだ。
学年もクラスも分からない故、名前だけを頼りに探すことになるかと焦ったが、一か八か愛澤の持つネットワークに賭けてみて正解だった。
「この時間だと......大体中庭の方にいるはずっすね。今から行けばきっと、間に合うと思いますよ」
「ああ、助かるよ。って———」
と、俺はそこで一旦言葉を区切り、大きく息を吸ってから言った。
「お前本当に関村か!? さすがにキャラ変わりすぎだろ!!!」
キレ長の瞳に、威圧感のある金髪のオールバック———間違いなく、そこにいるのは件の関村 守その人だ。
しかし、態度や口調は俺のよく知るそれと全くの正反対で、まるで悪戯がバレて誤魔化す子どもがするかのように、照れくさそうな笑みを浮かべる。
「もー、やだなぁ師匠は。俺ってば、前からこんなだったじゃないっすか」
「いや、違うよね? どう考えても、俺のこと師匠だなんて呼んでなかったよね?」
......これはあれか?
茨木童子が与えたあの力のせいで、後遺症が残ってしまったとか、そういうことなのか?
だから、あれだけ憎悪を向けていた俺に対して師匠だなんて言っているのか?
......よし。
五月雨先生のところに連れて行こう。
今すぐに。
「俺、あの時の師匠の言葉に気づかされたんです......自分にはまだ、未熟なところがありすぎるって。皆の言うように、御曹司っていう立場にあぐらをかいてるだけだったんだって」
だからって、いきなり師弟関係は早すぎるだろ———なんてツッコミは、彼のその真剣な表情を前に打ち砕かれる。
口調や態度こそそのままだが、先程までとは明らかに違う......至極真面目なトーンで彼は言葉を続けた。
「世間知らずなんて言えば聞こえはいいかもしれないですけど、結局はこれも、今までちゃんと見ようとしてこなかった結果です。
あの時の俺は、周りの言葉を一切聞き入れようとしなくて......カラオケ店の皆さんにも、とんだご迷惑をかけてしまいましたしね」
......こういう時、どういった言葉をかけるのが正解なのか、俺はいつも分からなくなる。
気にするな———とはとても言えないし、かと言ってこのまま彼を責め立てるというのも、なんだか違う気がする。
いや......おそらくは彼は俺にそうしてほしくてこんな話をしてきたのだろうが、これから前に進もうとしている人間に対して、それができる勇気など俺は持ち合わせていなかった。
「......店長言ってたぞ。お前が今度こそ、客として来るのを待ってるって。謝罪とか、贖罪のためにじゃなくてさ」
これは実際に店長から聞いた話なのだが、しばらく後にコイツは1人で直接謝りに行き、お詫びとして、経営難になりつつあるあのカラオケ店にスポンサーをつけるなんていう案まで持ちかけている。
そのスポンサーにするというのが他でもない、彼の父親の経営する『セキムラグループ』。
俺でも知ってるような有名な大企業がスポンサー......経営難になりつつあるあのカラオケ店にとっては、喉から手が出るほどに嬉しい話なのだが———
「ほんと、あの人もすごいっすよね......あれだけのことをした俺に対して、そんなことを気にする必要はない、とかって。
それに比べて俺は、罪滅ぼしのためにまた親父の力を借りようとして、挙げ句に断られて......ほんと、俺もアンタたちみたいに、もっと強い人間だったらよかったのに......」
「関村......」
......あぁ、そうか。そういうことなのか。
彼もまた、あの時のことをずっと悔やんでいるんだ。
自分の中の大切な誰かを想う心や、それを利用しようとする悪意に振り回され......最終的に、自分があれだけ憎悪していた最悪な結果を迎えてしまう。
———例えそれで、俺のような手遅れな状態にはならなかったとしても、傷はずっと残り、それと同じように苦しみが消えることもない。
「......だからこそ俺、決めたんです。ここで心を入れ替えて、これからは一生アンタについて行きます!!! アニキ!!!」
「重いし、さっきと呼び方変わってんじゃねぇか!!」
え、何、この感情の起伏の激しさ?
一応さっきまでずっと、めちゃくちゃ真面目なこと言ってたんだよね?
お前はあれか......シリアスな雰囲気になると、死ぬ病気にでもかかっているのか?
「くぅ〜〜〜〜!!!! これが噂に聞く師匠のツッコミ———!! キレがあって、とっっっっても素晴らしいっす!!!!」
「ん......それが分かるとは、さすがは私が見込んだ逸材......あっぱれ」
「はい! お褒めに預かり光栄です、レイの姉貴!!! これからもずっと付いていくっす!!!」
おいおい......曲がりなりにも、さっき俺に一生付いてくとか言ってたやつの発言じゃないだろ、それ。
レイもレイでちゃっかり姉貴なんて呼ばれているし、こんなボケをかましてくる時点で、本当に別人と入れ替わったとしか思えない。
「......つか、コイツと流門が同じクラスってことは、お前にとってもクラスメイトじゃねぇか。なんで気づかなかったんだよ?」
「ん。私、宗教上の理由で、興味ないことは覚えないようにしてるから」
「どんな宗教なんだ、それは」
......そう。
まさしくこれが、今回彼女をこの場へと連れてきた理由。
何を隠そうレイのやつ、実は関村と同じ1年B組の所属の生徒だったのである。
しかも、それが分かったのはつい最近......というより、先程までの愛澤との会話の中でのこと。
まさかの事実に俺も頭が混乱しかけたが、当の本人は「ん、そういえばそうだった」とのことで、まさしくレイちゃんクオリティを感じさせる一幕であった。
「それで、流門 大介のことっすよね? ここまで言っといてあれなんですけど、俺これ以上のことは詳しく知らないんすよ」
「? どういうことだ?」
なんて俺が訝しげな視線を送ると、関村は少し言いづらそうな様子を見せながらも答えてくれる。
「アイツ、ああ見えて俺以上にクラスで浮いてるんすよ。変わってるというか、なんというか......決して、イジメや無視されてるってわけじゃないんすけど、どこか壁を感じるっていうか......中庭にいるのだって、単に俺が近くを通ったから気づいただけなんすよ」
レイによると最近はマシになってきたみたいだが、そもそもの話関村も、最初クラスで浮き気味だった。
無論、当時の彼の態度というのもあるだろうが、一番の原因は大企業の社長の息子という、明らかに理不尽なもの。
妬みや嫉み———人間が自分よりも優れているものに対して抱く負の感情たちが、彼から居場所を奪い、そしてその歪みを促進させていった。
これらは全て、後々に不知火から聞かされた情報であり、レイや他のクラスメイト......ましてや、本人から聞いた話というわけではない。
......さっき言いづらそうな様子を見せていたのも、そんなかつての自分と流門とを重ねてのことだったとしたら、少し悪いことをしてしまったかもしれない。
「普段からずっと独りでいることが多いんすけど、誰かが話しかけると途端にテンションを上げて.....かと言って、それを喜んでいるというよりかは、無理やり相手に合わせてるような感じで......こう言ってはなんなんすけど、何を考えてるかよく分からないんすよね、アイツ」
なるほど......確かにそれは、俺にも分からない話ではない。
俺たちがアイツと対峙した時もそんな感じだったし、なんとなくではあるが、俺にはあのテンションが下がっている時の方が素に見えた。
......てっきり、俺たちに対してだからこそあんな態度を取っているのだと思っていたが、話を聞く限り違うらしい。
誰に対してもあんな感じとなってくると、ますますアイツの目指す番長ってのが分からなくなってくる。
「......とにかく、これでアイツの居場所は分かったんだ。鏡美も呼んで、さっさと探しに行こう」
「そうっすね。もしかしたら、またすぐどこかに行っちゃうかもしれないですし」
何をするにせよ、事を進めるには接触を図ることが必要不可欠。
昼休みも時間が限られているし、アイツがどこかへと行ってしまうその前に、新しい作戦を実行する必要があるだろう。
......それにもう一つ気がかりなのは、いきなり襲いかかってきたハスティルという存在。
奴があの程度で終わるとは思えないし、また何かしてくる前に、こちらも手を打つべきであろう。
「———っと、関村、最後に一つだけ聞いてもいいか?」
「ええ、なんなりと」
と、彼のまるで自分が次に何を言われんとするかを分かっているかのようなその視線にたじろぎつつも、俺はずっと心に引っかかってたことを口にする。
「その......アイツは、元気にしてるのか? ほら、俺アイツとは会わないって約束しちゃったからさ」
アイツ......というのは、名前を出さずともきっと伝わっている。
本当は俺に、そんなことを口にする資格などないというのも分かっている。
だが、関村は特にそれ自体を咎めるようなこともなく、ただ静かに———彼自身本来の言葉で応える。
「そうだな......わざわざ俺が教える必要もない、とだけ言っておく。
今のアンタは為すべきことを———隣にいるフブキのことを大切にしろ」
———絶対に、俺のようにだけはなるな、と。
そんな、答えと言うにはあやふやな言葉ではあったが、不思議と俺の脳裏には、あの心優しき竜人の姿が浮かび上がっていたのであった。
次回投稿は、10月19日 日曜日 12:00と
10月16日 木曜日です。
よろしくお願いします。




