表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少女と家族生活 〜たまたま契約したので、世界救ってみていいですか?〜  作者: MATA=あめ
〜優しき少女の未来を、救ってみていいですか?〜
45/49

第6章 “召繋師狩り”


 「鏡美(かがみ)。お前はもう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 俺のそんな言葉とともに、周囲(しゅうい)静寂(せいじゃく)が広がった。


 例えるならば、そこだけ時が止まったかのよう。


 俺たちだけがその場で静止(せいし)しており、遠くに見える生徒たちの(かげ)は変わらずに流れていっている。



 ———やがて、沈黙(ちんもく)(やぶ)るかのように、対面(たいめん)の彼女が口を開いた。



 「........いやだなぁ、宇野(うの)君。何言ってるの?」



 いつも通り、本当にいつもと変わらない(ほが)らかな笑みで、鏡美(かがみ)は俺の言葉を否定(ひてい)する。



 「“召繋師(リンカー)()り”って、確かあれでしょ......? なんか学園で(うわさ)になってるやつ。それと私に、なんの関係があるって言うの......?」


 「お前それ、本気(ほんき)で言ってんのか?」



 どこまでも(しら)()ろうとする彼女に、俺は決定的(けっていてき)一言(ひとこと)()()ける。



 「俺がこんなこと言うってことは、ある程度(ていど)(さっ)しはついているってことだぞ? いくら言葉で誤魔化(ごまか)そうが、外堀(そとぼり)簡単(かんたん)()められる。

 お前が何枚(なんまい)上手(うわて)でもない(かぎ)り、絶対に逃げることなんてできない」


 「............」



 刃物(はもの)のように(するど)い俺の言葉に、鏡美(かがみ)は何も言えずに()(だま)った。



 やがて、その表情(ひょうじょう)(かげ)りのようなものを見せ、どこか(あき)らめたように(つぶや)く。



 「........なんで......そう思ったの? 私、ヘマした(おぼ)えなんかないんだけど......」



 ———そう(つむ)がれた彼女の言葉は、普段(ふだん)面影(おもかげ)を残したままに、ゾッとするほど(つめ)たかった。


 一瞬、俺もそれに()まれそうになるが、負けじと俺も言い放つ。



 「........違和(いわ)(かん)は2つ。

 俺の知り合いに、“召繋師(リンカー)()り”事件(じけん)について調べてるやつがいるんだが、そいつのおかげで、奴が決まった時間帯(じかんたい)事件(じけん)()こしていることが分かった。それが、朝と放課後だ」



 俺の言う知り合いというのは、言わずもがなウィングさんのことだ。


 彼には俺の護衛(ごえい)並行(へいこう)して、独自(どくじ)に“召繋師(リンカー)()り”事件(じけん)についてを調査(ちょうさ)してもらっていた。

 


 それによって見えてきたのが、決まった時間帯(じかんたい)にしか()きていないという事実(じじつ)だった。



 「時間帯(じかんたい)が決まっていて、しかもその全てが学園内というおまけ()き。この強固(きょうこ)なセキリュティを(ほこ)る学園に、外部(がいぶ)(はん)侵入(しんにゅう)するとは考えにくいし、そうなると必然的(ひつぜんてき)犯人(はんにん)は学園の教師(きょうし)か生徒ってことになる。仮に、教師(きょうし)犯人(はんにん)だった場合———とか言う以前に、朝と放課後だけに固定(こてい)されてるって時点(じてん)で、学生のルーティン以外の何ものでもない」



 いつかウィングさんの言っていた、『人間である以上、相手にも都合(つごう)がある』という言葉。


 まさに、これがビンゴだったのだ。


 俺たちが学生である以上、やはり活動(かつどう)の時間は(かぎ)られる。


 休み時間じゃあまりにも短いし、ましてや授業中なんて論外(ろんがい)だ。


 となると、必然的(ひつぜんてき)に、やりやすいのは朝と放課後になる。



 それに対して、教師(きょうし)の場合は、授業を(おこな)わない空き時間があるため、時間に(しば)られることもない。


 授業中だって出歩けるわけだし、仮にターゲットがいなかったとしたって、5分休憩(きゅうけい)や休み時間を(ねら)えばいいだけだ。



 これは、イリーナ先生から確証(かくしょう)()ている。



 「さて。これで犯人(はんにん)はほぼ学園の生徒に(しぼ)()めたわけだが、いかんせん人数が多すぎる。

 ———そこで(かぎ)となってくるのは、事件(じけん)()きるタイミングだ。知ってるか、鏡美(かがみ)? ここ最近、“召繋師(リンカー)()り”事件(じけん)は、ピタっと止まったみたいだぞ? それもちょうど、クラス内二対二(タッグマッチ)期間(きかん)が始まった辺りにな」


 「......そんなの、(たん)なる偶然(ぐうぜん)じゃない?」


 「本当にそうか? ならばもう一つ、なんで“召繋師(リンカー)()り”|は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 「!」



 ———そう。



 ウィングさんの調査(ちょうさ)のおかげで、俺は(きり)の中での襲撃(しゅうげき)()に、鏡美(かがみ) 雛子(ひなこ)がその場にいた証拠(しょうこ)(つか)んでいた。



 それは、サウンド•フォックスのものと思われる、黒い体毛(たいもう)



 否、それだけではない。



 他にも事件(じけん)()きた場所で、同様(どうよう)痕跡(こんせき)複数(ふくすう)確認している。


 これは、彼女がその場にいたという決定的な証拠(しょうこ)


 

 ......だというのに、彼女は一度も被害(ひがい)()っていない。


 

 これこそが2つ目の違和感(いわかん)


 “召繋師(リンカー)()り”の事件(じけん)が、彼女を中心(ちゅうしん)に回っているという事実(じじつ)だ。



 「事件(じけん)()きるタイミング、そして朝の人が少ない中で、なぜかお前だけを対象(たいしょう)としない不自然(ふしぜん)さ。お前を中心(ちゅうしん)とした偶然(ぐうぜん)が、こんなに(かさ)なるなんてことがあるか? 

 ......ただ、まだこれだけでは、お前の言う通り本当に偶然(ぐうぜん)という可能(かのう)(せい)もある。

 ———そこで、最後の決め手になったのがジャミング•リザリング。あれは、脳波(のうは)特殊(とくしゅ)音波(おんぱ)をぶつけて、相手を錯乱(さくらん)させる(わざ)だ。今の今までずっと、手口(てぐち)だけが謎のままだったが、あの(わざ)を見てすぐにピンと来たよ」



 俺を(おそ)ってきた連中(れんちゅう)と、錯乱(さくらん)している〈メルト•ワイヴァーン〉。


 そのふらふらとした()(がら)のような姿は、俺の中ですぐに(かさ)なった。



 もちろん、あの時のアレは(たん)なる偶然(ぐうぜん)にすぎない。


 あくまで、天堂(てんどう)猛攻(もうこう)を止めるために、音で妨害(ぼうがい)できないか確認しただけであり、他に他意(たい)はない。

 


 ———ただ、そのおかげで、奴の()()へと辿(たど)()くことができた。



 「........さっきの条件(じょうけん)に当てはまり、なおかつそれに(るい)する力を持ってる奴は、俺が知る中ではただ1人。鏡美(かがみ)、お前だけなんだよ」



 再び、その場が静寂(せいじゃく)へと(つつ)まれる。



 ......やがて、鏡美(かがみ)は先程の敵意(てきい)を引っ()め、(あきら)めたような(かわ)いた()みを浮かべながら、こちらへと体を向けた。



 「そっか......私、また失敗(しっぱい)しちゃったんだね........。

 やっぱすごいなぁ、宇野(うの)君は。私じゃ、全然(ぜんぜん)(かな)わないや......」



 すると、表情(ひょうじょう)だけを(くも)らせ、声のトーンは変えずに彼女は()げる。



 「———うん、そうだよ。私があなたを(ねら)っていた、“召繋師(リンカー)()り”。たくさんの人を(きず)つけ、()()()()()()()()()()()()()()()()



 もはや、彼女は何も(かく)そうとはしない。


 しかし、その最悪すぎる告白(こくはく)に、俺は思わず息が()まりそうになる。



 ......分かってはいた。


 あの違和感(いわかん)を感じた時点(じてん)で、こうなることは分かっていた。



 けど、まだ信じていたい自分がいた。


 こんなのただの憶測(おくそく)だと、きっと何かの間違いだと、俺は信じていたかった。



 ———しかし、目の前に広がる現実(げんじつ)は、俺の(のぞ)みなんか(かな)えずに、ただ薄暗(うすぐら)()みを浮かべている。



 「......で、どうするの? あなたたちの追ってる“召繋師(リンカー)()り”が、こんな近くにいたわけだけど........それを知ったあなたは、一体どうするつもりなの?」


 「そんなの、決まってんだろ」



 胸に渦巻(うずま)くぐちゃぐちゃの感情(かんじょう)を全て()(ころ)し、俺は彼女の(ひとみ)()()ぐに見据(みす)える。



 「全力(ぜんりょく)で止めてみせる。これ以上、お前に誰かを(きず)つけさせたりはしない」



 ......その顔を見ていれば、彼女が何かに(くる)しみ、(のぞ)まずしてこんなことをやっていることくらい分かる。


 鏡美(かがみ) 雛子(ひなこ)という少女は、()(この)んで他者(たしゃ)(きず)つけたりなどしない。むしろ、自分が誰かを(きず)つけることを、誰よりも(おそ)れている心優しい少女だ。



 でなければ、あの事故(じこ)をいつまでも気に病んだりはしない。そんなのは、愛澤(あいざわ) 恋歌(れんか)に言われずとも分かる。



 だからこそ、彼女の優しさで、彼女(かのじょ)自身(じしん)(きず)ついていく姿はもう見たくない———!!




 「リンク•アライズ———〈双雪(そうせつ)フブキ!!!!」


「リンク•アライズ———〈音狐(おんこ)サウンド•フォックス!!!!」




 ———そんな2つの(さけ)びとともに、俺と鏡美(かがみ)(おも)いを()けた戦いが、今(まく)を開ける。



 「()加減(かげん)はなしだ......フブキ! 俺の足と〈共心(きょうしん)〉だ!!!」


 「らじゃー」



 前方から目を離さないようにしつつ、そう(こた)えてくれるフブキ。


 この〈共心(きょうしん)〉という力は、二つの感覚(かんかく)を一度一つのまとまりとし、それぞれ好きなように分配(ぶんぱい)するというもの。


 感覚(かんかく)共有(きょうゆう)するという特性上(とくせいじょう)無機(むき)(ぶつ)には使えないが、生物ならばどんな相手だろうと使用(しよう)できる。


 俺の脚力(きゃくりょく)と彼女の脚力(きゃくりょく)にそれを使った場合、彼女自身(じしん)脚力(きゃくりょく)に俺の脚力(きゃくりょく)上乗(うわの)せする、なんてこともできる。



 つまりは、俺がほぼ動けなくなる代わりに、今のフブキに2人分の脚力(きゃくりょく)(そな)わっているということ。


 生半可(なまはんか)反射神経(はんしゃしんけい)では、その姿すら(とら)えることはできない。



 「........けど、近づいてくるのさえ分かっていれば........サウンド•フォックス、サウザンド•ノイズ!!!」



 一瞬でサウンド•フォックスの元へと近づくフブキだったが、鏡美(かがみ)がそれを先読(さきよ)みで(とら)える。



 ———サウザンド•ノイズ。



 相手の耳を(つぶ)異音(いおん)が、再びその場へと響き渡るが———



 「フブキ!! サウンド•フォックスの耳と〈共心(きょうしん)〉だ!!」



 すでにサウンド•フォックスに肉薄(にくはく)していたフブキの手が、直前(ちょくぜん)にその黒い体毛(たいもう)(おお)われた背中(せなか)へと()れる。


 やがてその場に光が(またた)き、フブキとサウンド•フォックスの体を(つつ)む。



 「ガウ!? ガウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!?????」



 次の瞬間、サウンド•フォックスがその場で体をくねらせながら苦しみ(もだ)える。



 そう。


 今のサウンド•フォックスは、フブキの聴力(ちょうりょく)共有(きょうゆう)———すなわち、フブキの聴力(ちょうりょく)を全て移し、上乗(うわの)せしている状態だ。



 いくら音を(あやつ)れるといったって、聞こえてくる音までは遮断(しゃだん)できない。


 (みずか)らの異音(いおん)を、普段(ふだん)(ばい)聴力(ちょうりょく)で聞いたんだ。

 そのダメージは(はか)()れないものになる。



 「サウンド•フォックス!? ......くっ、ならば........!!」



 すると、苦しそうな表情(ひょうじょう)のままに起き上がり、すぐさま戦闘(せんとう)体勢(たいせい)へと



 「全て()()け!! コンプレス•ロア!!!」




 ()(はな)たれる、圧縮(あっしゅく)された衝撃波(しょうげきは)(かたまり)



 (すさ)まじい(あつ)暴威(ぼうい)がフブキ向かって飛んでいくも、フブキはそれをなんなく(かわ)す。



 ........ここ1週間、その(わざ)は何度も見てきた。


 確かに威力(いりょく)(すさ)まじいが、決して速度(そくど)があるわけじゃない。しかもソニック•ブームと違って器用(きよう)軌道(きどう)はできず、そのまま()()ぐと飛んでいく。


 不意打(ふいう)ちやダメ()しの(ちから)勝負(しょうぶ)にすらならなければ、(かわ)すこと自体(じたい)(むず)かしくない。



 「......はぁ......はぁ........これでも......ダメ......なんて........」



 (かた)で息をしながら、鏡美(かがみ)がそんなことを(つぶや)く。

 

 今の状況で一番厄介(やっかい)だったのは、俺の知る(かぎ)りではあの(わざ)だけだ。


 ソニック•ブームでは威力(いりょく)が低すぎるし、他の音は聴力(ちょうりょく)のないフブキに効果(こうか)はない。


 だからこそ、俺たちにとって一番脅威(きょうい)となる(わざ)が、先程の衝撃波(しょうげきは)(かたまり)


 それを分かっているからこそ、彼女の中には(あせ)りが(しょう)じている。



 「(あきら)めろ。本気(ほんき)を出したフブキに、お前が勝てるわけがない。訓練(くんれん)の時とはワケが違うんだ」


 「........ッ!」



 憎悪(ぞうお)とも言えるような、(うら)みがましい視線を向けてくる鏡美(かがみ)



 一応(いちおう)フォローはしておくが、決して彼女が弱いというわけではない。


 実際、訓練(くんれん)の時にはかなり苦戦(くせん)させられたし、彼女の搦手(からめて)無数(むすう)存在(そんざい)する。


 こちらが物理(ぶつり)攻撃(こうげき)しかできないのに対し、彼女には何通りもの戦術(せんじゅつ)があるのだ。



 普通に考えれば、距離を(かせ)げる彼女の方が何倍(なんばい)有利(ゆうり)なはず。


 だがそれも全て、()()()()()()()()()()()()()()()


 おそらく、彼女は俺を消すために、訓練(くんれん)(ちゅう)ひたすらデータを集めていたのだろうが、訓練(くんれん)(ちゅう)俺たちは一度も〈共心(きょうしん)〉の力は使っていない。


 もちろん、フェアじゃないからというのもあったが、一番の理由は“召繋師(リンカー)()り”に見られてる可能(かのう)(せい)考慮(こうりょ)しての選択(せんたく)だった。



 物理(ぶつり)攻撃(こうげき)(おも)なことには変わりないが、〈共心(きょうしん)〉の力には無限(むげん)可能(かのう)(せい)がある。


 力の原理(げんり)すら分かっていない彼女に、俺たちの手が読めるはずはない。



 「———ならばこっちも........遠慮(えんりょ)はしない........! サウンド•フォックス、ジャミング•リザウンド!!!」



 瞬間、サウンド•フォックスが口を開け、フブキ向かって何かを放つ。


 

 ———ジャミング•リザウンド。



 これこそ、天堂(てんどう)の〈メルト•ワイヴァーン〉戦で見せた彼女の(おく)()

 

 螺旋状(らせんじょう)に広がっていく特殊(とくしゅ)音波(おんぱ)が、フブキの思考(しこう)(みだ)さんと(せま)る。


 だが———



 「はっ、今のフブキに聴力(ちょうりょく)はないんだ。今さらそんな(わざ)が———」



 ......と、言いかけて俺は気づく。



 あの軌道(きどう)———フブキを(ねら)っているにしては、あまりにも広がりすぎている。


 速度(そくど)だって速くないし、あれでフブキに当たるはずがない。

 


 ———そもそも俺は、あの(わざ)についてをよく知らない。


 天堂(てんどう)猛攻(もうこう)を食い止めるために使った、錯乱(さくらん)状態(じょうたい)にさせる(わざ)


 あくまで、その程度(ていど)認識(にんしき)でしかない。



 彼女が〈共心(きょうしん)〉の力を知らないように、俺だってあの(わざ)を知らないんだ。



 それに、今までの“召繋師(リンカー)()り”の手口(てぐち)を考えれば、アイツは.........



 そうか。


 彼女の(ねら)いは、始めから俺だ!



 (ッ......! なんだ、これ........意識(いしき)が......朦朧(もうろう)として........)



 彼女の(わざ)をもろに食らったその瞬間、強烈(きょうれつ)なめまいが俺を(おそ)った。

 

 ぐるぐる回転(かいてん)としていく視界の中、全身(ぜんしん)に力が入らなくなっていき、俺はその場に倒れ()す。



 「どう? これが、ジャミング•リザウンドの真の力。脳波(のうは)直接(ちょくせつ)音波(おんぱ)をぶつけて神経(しんけい)(みだ)す......あの時はれんちゃんの歌があったし、加減(かげん)もしたからあれくらいで()んだみたいだけど......本当は、相手の思考(しこう)だってコントロールできるんだから」


 「............」



 その言葉通り、段々(だんだん)と頭の中がふわふわしていき、言いようのない脱力感(だつりょくかん)思考(しこう)邪魔(じゃま)をする。


 まるで、頭の中に 直接(ちょくせつ)手を()()まれたかのように、不快(ふかい)感覚(かんかく)が頭の中を支配(しはい)していった。

 



 そもそも(のう)という器官(きかん)様々(さまざま)神経(しんけい)(つな)がっており、(おも)大脳(だいのう)と呼ばれる部分がそこに指令(しれい)を出す。

 何かを食べたいとか、次はこれをしなきゃとか、そんな半分(はんぶん)()意識(いしき)()の行動でさえ、(のう)指令(しれい)によるものだ。

 

 しかし、この(わざ)は、そんな生き物の根本(こんぽん)に音で干渉(かんしょう)することで、自在(じざい)にコントロールできてしまう。

 まさに禁忌(きんき)の力としか言いようのない、音を(あやつ)ることの真骨頂(しんこっちょう)だ。



 (ダメだ........もう、力が.........)



 視界が(かす)んでいき、周囲(しゅうい)の音が(とお)くなっていく。



 ......まさか、彼女にこんな力があったなんて。


 ()たような力があるとは思っていたが、実際は俺の想像(そうぞう)(はる)かに上回(うわまわ)っている。


 なるほど。確かにこの力なら、あれだけの犯行(はんこう)をやってのけるだろう。




 ほんと、いつかの〈ハイ•ワイヴァーン〉の時と全く同じ状況だ。


 相手の強大(きょうだい)な力によって倒れ、無力(むりょく)(かん)(あじ)わいながら、意識(いしき)(やみ)(そこ)へと(しず)んでいく。



 また俺は......目の前の理不尽(りふじん)から彼女を......(すく)......え———



 「ッ!!」



 ———ない、なんて言ってたまるか。


 そう思った瞬間、俺の足は自然と一歩を踏み出していた。


 ふらふらと、よろよろと、まさに満身(まんしん)創痍(そうい)といった有様(ありさま)で、俺は少しずつ体を起こす。



 「嘘........私のジャミング•リザウンドを()らって、まだ立ち上がるの......!?」



 余裕(よゆう)のない、(おどろ)いたような表情(ひょうじょう)を浮かべる鏡美(かがみ)



 ......ほんと、自分でもなんで立ってられるのか分からねぇ。


 油断(ゆだん)してると、一瞬で意識(いしき)持っていかれそうだ。


 けど———



 「仲間(なかま)のために体張れないで........何が、チームだよッッ!!」



 そんな咆哮(ほうこう)とともに、俺は(みずか)らの足で立ち上がる。


 なんの理屈(りくつ)も、トリックもない。


 自分でも信じられないが、今の俺は、本当に気力(きりょく)だけで起き上がっている。

 


 「信じられない......まさか本当に、気力(きりょく)だけで........!?」



 まるで、幽霊(ゆうれい)でも見たかのような反応(はんのう)をする鏡美(かがみ)


 俺にとっては失礼(しつれい)(きわ)まりないリアクションだが、彼女からすれば仕方のないことなのだろう。


 なぜなら、自分にとっての最強(さいきょう)(わざ)を、なんの(さく)もなしに(やぶ)られたというのだから。



 「........なるほどな......こうやってお前は、色んな人を傀儡(かいらい)にしてきたのか。........で、誰なんだよ?」


 「........っ!」



 彼女のその引きつった表情(ひょうじょう)を見る(かぎ)り、俺の顔は、おそらく相当(そうとう)すごい剣幕(けんまく)になっているのだろう。


 それでも俺は、ふらふらと一歩、また一歩と踏み出す。



 「お前にこんなことをやらせてんのは........どこのどいつだ?」



 ———ずっと......考えていた。



 なぜ彼女は、こんな残酷(ざんこく)なことを()(かえ)していたのか?

 

 あの性格(せいかく)で、ましてや編入生(へんにゅうせい)である彼女に、こんなことをする理由があるのか?と。

 


 ここ1週間、俺は彼女と時間を共にしてきたが、やっぱり、あんな残酷(ざんこく)なことを(みずか)ら進んでやるとは思えない。



 考えられるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 元々(もともと)召繋師(リンカー)()り”という別の存在(そんざい)がいて、そいつに鏡美(かがみ)利用(りよう)されているという最悪(さいあく)なシナリオ。



 それならば、全ての辻褄(つじつま)()うし、途中で手口(てぐち)が変わった説明(せつめい)もつく。



 ......そんな、彼女に泣きそうな顔をさせてまで、ほくそ()んでるような野郎(やろう)に、冷静(れいせい)でいられるほど俺は大人じゃない。



 「違う........これは、自分の意思(いし)でやっていること........」


 「嘘だ。今さら、んなもん通用(つうよう)するわけ———」


 「違う!!」



 (するど)く向けられた言葉に、俺は踏み出していた足を思わず止める。



 「これは私の弱さの(あがな)いであって、()()()に言われたからじゃない!! 私はあの子を(きず)つけたこの力で、(つみ)(つぐな)わなきゃいけないの!!!!」



 およそ、彼女の声とは思えない大きな声が、その場に響いた。


 それと同時に、一筋(ひとすじ)(なみだ)が、彼女の(ほお)(つた)うのが分かった。

 


 (それが、お前の本心(ほんしん)なのか。鏡美(かがみ))



 その時の事故(じこ)を———愛澤(あいざわ) 恋歌(れんか)にケガを()わせてしまった時のことを、彼女はずっと......



 けどな、鏡美(かがみ)。違うんだよ。


 お前はもう、そんなことをする必要はないんだよ。



 「......ありがとな、話してくれて」



 不思議(ふしぎ)と、先程までの(いか)りが()りを(ひそ)める。



 彼女の言葉で少し頭が()えた。


 おかげで———俺がやらなきゃいけないことが、今見えた。

 

 

 「なら、なおさら引くわけにはいかないな。お前の心を利用(りよう)しているそのくそ野郎(やろう)は、俺が必ずぶん(なぐ)る」


 「っ!」


 

 彼女が(きず)つけたと(おも)()んでる相手は、とうの昔に彼女のことを許している。


 ならば、彼女に(つみ)()いているのはそいつなだけであって、他には誰もいない。



 ......なんだ、複雑(ふくざつ)そうに見えて、実はこんな簡単(かんたん)なことだったんじゃないか。



 「ダメだよ......そんなことしたら絶対ダメ!!!」


 「なんでだよ? 今の話聞いたら、誰だってそうなるだろ」


 「ならないよ!! そしたら、私の(つみ)は、どうなるの!?」


 「そんなの、全部終わってから考えればいいだろ。俺だけじゃなくて、愛澤(あいざわ)一緒(いっしょ)にさ?」


 「なんでそこでれんちゃんが出てくるの!! 


 「人数は多いに()したことはない。アイツなら、俺よりもいい方法(ほうほう)を見つけてくれそうだし」


 「〜〜〜〜〜〜宇野(うの)君の分からずや!!」



 いい方法(ほうほう)も何も本人(ほんにん)なわけだし、アイツなら上手く伝えてくれると思ったのだが、どうやらそれでは納得(なっとく)がいかないらしい。


 体をわなわなとさせ、敵意(てきい)()ちた目でこちらを(にら)みつける。



 「なんのために私が1人でやってると思ってるの!! それじゃ、私の罪滅(つみほろ)ぼしにならないでしょ!!」


 「罪滅(つみほろ)ぼしを1人でやらなきゃいけないなんて、一体誰が決めたんだ?」


 「っ......!! 仮にそうだったとしても、私がしてきたことは消えない!! 召繋師(リンカー)()り”だって、やってた事実(じじつ)は変わらないんだよ!?」


 「ああ。だから、くそ野郎(やろう)をぶん(なぐ)った後で、被害者(ひがいしゃ)全員(ぜんいん)(あやま)る。ちなみに、もし相手が(なぐ)りたいって言ってきた場合は、俺が()わりに(なぐ)られてやるから安心(あんしん)しろ」


 「だから、なんでそうなるの!?」



 もはや、我慢(がまん)限界(げんかい)と言わんばかりに、鏡美(かがみ)(いか)りの声を上げる。



 「〜〜〜〜本当っ、宇野(うの)君ってぶきっちょ!! どうしてこう、短絡的(たんらくてき)発想(はっそう)しかできないの!! この考えなし!!!」


 「なんだとぉ......! お前だって、なんでもかんでも1人で(かか)()んで、どうにかしようとしてるじゃねぇか!! このぶきっちょ女!!」


 「それを言ったら、宇野(うの)君だって! フブキちゃんの新しい服を、女装(じょうそう)してまで買いに行こうとしてたじゃない!! 言ってくれたら、私のお(ふる)あげたのに!!」


 「今それ関係ねぇだろ!! つか、誰から聞いたんだよそれ!! 後で(くわ)しく聞かせろ!!!」



 もはや、何の言い合いか分からないような方向へと話が(ころ)がる俺たち。


 (あるじ)2人のくだらない言い争いに、フブキも、そしてサウンド•フォックスも、お(たが)いに目を見合わせてるのが視界に入る。



 「それに今さら......()()()(ゆる)してくれるわけがない......ここで私が逃げたら、()()()は絶対、れんちゃんや他の皆を........」


 「だったら俺を(たよ)れよ!!!」


 「っ!!」



 俺のそんな声に、鏡美(かがみ)はようやく顔を上げる。



 「お前の(なさ)けないところも、ぶきっちょなところも、初めて会った時から知っている。今さら(たよ)ってきたところで、悪いなんて思わない。

 俺ならばお前の力になれる。......だから、もっと信じてくれよ」



 〈ハイ•ワイヴァーン〉の時だってそう。


 勇気(ゆうき)があるから一歩を踏み出せるけど、不器用(ぶきよう)(ゆえ)に、空回(からまわ)ったり、1人で(かか)()もうとする。


 その優しさがあるからこそ、周りを()()まんとしてしまう。



 ......けどそれって、結局は自分の自己(じこ)満足(まんぞく)でしかないんだ。


 そいつが気づいてないだけで、周りには、そいつのことを(おも)ってくれるやつがいる。

 そいつの力になれないことを、()やんでくれる仲間(なかま)がいる。


 鏡美(かがみ)の場合は、俺や愛澤(あいざわ) 恋歌(れんか)。サウンド•フォックスやフブキだって、きっと彼女のことを(おも)っている。



 大事に(おも)うからこそ(きず)つけたくないっていう気持ちも分かる。


 けどそれは、相手だって同じこと。


 それで(かか)()んじゃって苦しんでる姿を見せられちゃ、見てるこっちだって(つら)いんだよ。



 「......でも、無理だよ......勝てるわけない........いくら宇野(うの)君でも、()()()に勝てっこなんてない......」


 「本当にそう思うか?」


 「え?」



 (おどろ)いたように顔を上げる鏡美(かがみ)に、ニヤリと、俺は不敵(ふてき)口角(こうかく)を上げて見せる。



 「俺はお前の力を——— “召繋師(リンカー)()り”の()の手を、自分で跳ね返した男なんだぜ? 今さらコソコソ(かく)れてるような卑怯者(ひきょうもの)が出てきたところで、相手にすらならねぇよ」



 ———その瞬間、対面(たいめん)の彼女は大きく目を見開いた。


 言うならば、思いっきりハンマーで(なぐ)られたかのような衝撃(しょうげき)、彼女らしく表現(ひょうげん)するならば、(はと)豆鉄砲(まめでっぽう)を食らったかのような様子(ようす)で、鏡美(かがみ)はそのまま動きを止めた。



 ......やがて、観念(かんねん)したかのように、鏡美(かがみ)はその場にペタンと(すわ)()む。



 「本当に......いいのかな......? 私なんかが、また迷惑(めいわく)かけて........」


 「だから、そう言ってんだろ?」



 (すわ)()鏡美(かがみ)に、俺は自分の右手を差し出す。



 「安心(あんしん)しろ。お前の(おも)いも、(つみ)も、全部俺が受け止める。だって俺たちは、最高の仲間(なかま)なんだから」


 「う......うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」



 誰よりも優しき狩人(かりうど)は、内に()もりし(なみだ)を流したのであった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ