最終章 幕引きと始まり Side:???
「とマぁこレが、今回ノ件の結末ってわケだ」
とある部屋。やけに広く、そして仰々しい一室にて、マリスはそんな言葉とともに肩をすくめた。
わざとフードを目深に被っているため顔は見えないが、その声は珍しく肉声。
しかしそれは、決して本人の気まぐれなどではなく、そうしなければならない相手と対峙していることの表れだ。
「............」
禍々しい模様のイスに腰を掛け、悠然と頬杖をついている1人の男。
その服装に関しても、【執行者】の紋章が刻まれた、赤ではなく黒を強調した、明らかに他とは違うもの。
着崩しなども一切なく、余計なアクセサリーもつけていないため、逆に、放つ威圧感に凄みが増している。
「......そレにシテも、まさカ本当ニ単騎で乗リ込ンでっちマうとはなァ。とンだバカもいタもンだ。
こレは———もウ一度、再教育ガ必要なんジャなイか? なァ、上司様?」
「........ああ。そうだな」
そんなプレッシャーを物ともせずに、ペラペラと話し続けるマリスに、男はようやく体を起こした。
その纏っている服と同じ漆黒の瞳が、マリスの姿を捉える。
「いくら貴様が嗾けたとは言え、それであんな暴挙に出るなど非常識だ。
【執行者】の一員として、絶対にあってはならない」
「いやいや。全部アイツのせイみたイに言ってルけドよ? これハ、テメェの責任でモあるンだゼ?」
「なに......?」
男が目を細めたのに気づいたのか、気づかないのか、その重い空気感にはそぐわない、実に軽い調子でマリスは続けた。
「部下ノ失態は上司ノ責任。例え勝手ニやったコとだろウとも、それハ上司ノ監督不行届ニなルんだヨ。
......だから、『ごめんなさい、次からは気をつけます』デ済むト思ったラ大間違いなンだヨ。分かる?」
「........ほう?」
マリスのその挑むような物言いに、男も静かに目を細めた。
......これは、明らかな挑発だ。
無論、男もこのマリスという人物が、年がら年中他者に悪意を振り撒いてないといられない、可哀想な人間だということは理解している。
今回の件だって、興味本位で勝手に首を突っ込んでるだけだということも。
だがそれでも、今の言葉は完全なる侮辱。
彼の正義を、真っ向から否定してるのと同義。
自分自身をバカにするなどはどうでもいい。だが、その信念を汚すようなことは、玉座に座る男にとっては許されざる行為。
———まさに一触即発の空気。
すぐにでも、殺し合いが始まってもおかしくない緊張が走る。
だが———
「........忠告心いる。俺も、そしてアイツも、後にしかるべき罰を受けよう」
「............」
そんな悪意に屈することもなく、男は冷静だった。
あくまでも淡々と意見を受け入れ、謝辞を述べる。
男が下した裁きは、悪意にとっては何よりも屈辱的なものだった。
「........つまンねーヤツ。これだからテメェは出来損ないなンだヨ」
「ああ。貴様がそう言うのならば、そうなのかもしれないな」
「........ッ!!」
自分の悪意に靡かない男に対し、マリスが苛立たしげに舌打ちする。
恨みのこもった視線を、その暗闇の奥より覗かせながら。
......やがて、荒っぽくその場で踵を返し、ドアを思いっきり蹴飛ばしながら去っていくマリス。
後は勝手にしろとでも言わんばかりに、その場に静寂を残して。
「............はぁ。全く、相変わらず非常識なやつだ」
マリスが去り、1人その場に残された男はため息をついた。
勝手に首を突っ込み、勝手に好き放題やったあげく、そのまま怒ってどこかへと行ってしまう。
自分の思い通りならないと分かった途端にこれだ。
これでは、幼い子どもとやっていることは変わらない。
......いや、子ども以上に会話にならない分、マリスの方が余計にタチが悪い。
もはや、人としての礼節がどうこうではない。
頭の作りや言語能力が、根本的に違う生き物なのだ。
「しかし【レジスタンス】......奴らは一体何を企んでいるんだ........」
考えても仕方のない狂人のことを忘れ、男は思考を切り替える。
......此度の件、大きく分けると、“被験体X”の奪取、そして幹部との乱闘及び討伐の2つ。
たった2日で、奴らにはこれだけのことを起こされた。
しかも、長らく動きを見せていなかったのにも関わらず、だ。
こうして改めて文字にすると、その規模の大きさは凄まじい。
......やはり、今回のリーダーは何かが違う。
なんというか、今までの真っ当なやり方ではなく、根本的なやり方がまるで違う。
例えるなら、敵を倒すためなら手段を選ばないような、自分たちの主張を後回しに、敵を排除することだけを目的としているような。
そんな、おぞましい思惑が、今回の行動からも垣間見える。
それに、これらの件全ての渦中いるあの少年という存在も気になる。
今の今まで姿を見せなかったはずなのに、突如として目の前に現れ、あの怪物を手中に収めた。
全ては仕組まれたことなのか、あるいはただの偶然なのか。
果たして少年は何者なのか、考えれば考えるほど、謎は深まっていくばかりだ。
———だがそんなのは、彼の正義の前では些事でしかない。
奴らがなんであれ、これだけのことを起こしているのは事実。
目の前で犯された罪に対し、男がやるべきことは変わらない。
「———貴様らが学園の秩序を乱す存在ならば、俺は容赦なく断罪するだけだ。
それが———」
———〈3王〉としての役割。
そんな、【執行者】の頂点に座する“3王”の1人は、ただ静かに、その漆黒の瞳を細めた。




