序章 プロローグ
———夢を、見ているような気分だった。
空想や物語でしか見ないような、あまりにも非現実的な光景。
煌めく粒子が宙を舞い、次々と一つの形を成していく。
朧げながらに浮かび上がるシルエット。
それが、人の形をしていることに気づいた俺は、思わず目を見開いた。
「———!?......女、の子........?」
現れる影の主。
———それは、少女だった。
ほのかな灰色の髪をなびかせる、今の現代にはふさわしくない、どこか太古の忍を思わせるような、奇妙な装束を纏った小柄で可愛らしい少女。
雪のような白い肌。水面を体現しているかのような青の瞳。そして、形の良い桜色の唇が、彼女の可憐さをよりいっそう際立たせていた。
どれも、一つ一つが意識を吸い寄せる不思議な魅力がある。
だが、それよりも———
何よりも、俺が目を奪われていたのは別にあった。
「ぁ————————」
彼女の周囲を煌めく、宝石のような雪。
光を反射し、各々が放つ異なる色によって生まれる、擬似的な虹。
その中を悠然と佇む彼女の姿は、控えめに言って、尋常じゃないくらい美しい。
「———お前、は........?」
ぽつり、と。
気がつくと、俺はそんな言葉を漏らしていた。
少女は俺の言葉を聞くと、どこか戸惑うように、けれども何かを絞り出すかのように、無機質で、鈴の音のような声で言葉を紡ぐ。
「個体名......〈フブキ〉。それ以外のことは......何も覚えていない........」
———フブキ。
彼女との出会いが、俺、宇野 奏の物語を再び動かした。