酒の席
「酒はお好きですか?」
「ええ」
「でしたらここ、お気に召すかと。私のお気に入りなんですよ」
静と香がやってきたのは、小さな居酒屋だった。
個室があり、騒がしくなく、且つお酒が美味しいことで有名だという。
「予約した、雀です」
通されたのは、小さな個室だった。卓を挟んで向かいに座る。酒とつまみを適当に注文すると、静は席を立った。
「どちらへ?」
「洗手间に」
数分後、静が帰ってくる。
静は椅子に腰掛けると、徐ろに鞄の中身を卓に出した。
「静さん?!」
「やはり」
静が取り出したのは、小さな黒いチップだった。
「これは、位置情報を国に送るためのもの」
「……」
「あなた、凰の国の官僚ですよね?」
雀静は、じっと香を見据える。
(落ち着け)
できる限り、平静を装う。雀静はじっと目を見据えたまま動かさない。少しでも目を動かせば、気持ちはおろか脳味噌の全てを読み取られそうだった。
香の身体に力が籠もる。
「やはり、そうですか」
雀静は目を少し動かす。
(何者なんだ、こいつは……?!)
敵に知られた以上、国家任務は失敗。帰れば家族も皆殺される。香はガクリと崩れ落ちた。
「終わった……終わりだ」
「朴琳さん」
崩れ落ち、錯乱状態になった香の肩を、雀静はがっしりと掴む。
「落ち着いて」
「落ち着いていられるかよ!!」
気が付けば、香の顔はぐちゃぐちゃになるほど涙で湿っていた。
「どうして、どうしてっ……!!」
「琳さん」
正しく間違いのないことをした、習った通りに。
(知られるはずがないのに……!!)
「琳さん!」
「……?」
「……あなたの本当の名前は?」
「え……?」
(こいつ、なんで俺が偽名だってことを)
「私も、昔、あなたと同じ凰の国の官僚だったんです」
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