国籍
翌日。
この日、休みを取った静は、ある人を訪れていた。
「頼まれていたもの、確認しておいた」
「ありがとう」
好々爺の雰囲気を纏ったその中老の男は、1枚の紙を差し出す。年齢に相応しくない若々しさをもつ男は、かつて東亜の国の官僚だった。名前は奕辰という。
静とは、酒の席で仲良くなった。
「やはり……」
「朴琳という男は存在しない」
奕辰に頼んだもの、それは朴琳の国籍確認だった。
「バレたら俺が捕まるんだから」
「分かってる」
「そんな簡単に入国できるものなのかね」
「入国管理官に賄賂でも渡したかな」
鳳の国では、賄賂の授受を伴う不正入国が社会問題化している。
「摘発者だけであれだけの人数。おかしくはない」
「しかし……こいつは何故国籍の偽造を?」
「あ、確かに」
「不正入国だけなら、国籍の偽造までする必要ないだろう。賄賂を渡して入国管理官を買えば済む話なのに、わざわざ東亜から来たって言う必要がない」
「……」
静は、顎に手を当て、じっと考えた。
その夜。
静が朝明に戻ると、ちょうど同じタイミングで香が帰ってきていた。
「静さん」
「おかえりなさいませ、朴さま」
静は頭を下げる。
「静さん、ありがとうございました。いろいろと」
「いえ」
「お礼に、お酒でもご馳走させてください」
「……」