優しい人
少し改稿しました
「宇春」
「お父さん」
深夜一点。
客たちが寝静まった頃、暗い部屋で宇春は帳面をつけていた。
静は電気をつけ、宇春の側に座った。
「宇春、まだ起きてたんだね」
「これ書いたら寝ようかなって」
「そうか」
こうして客たちが寝静まった後に、その日あったことの記録を帳面につけることが宇春の日課だった。
「ん?この月餅は」
静が手に取ったのは、香が買ってきた月餅だった。
「朴琳さまがね、お礼にって買ってきてくれたの」
「お礼?」
「優しい人よね」
「……」
「あ、お父さんも頂きなよ……お父さん?」
「いや。何でもないよ」
「明日の朝ご飯は、少しサービスしようかな~」
「料理長にまた怒られるよ」
お客様に対し、サービス精神が働きやすい宇春だが、いつも思い付きで急に動くので、よく関係者に怒られている。特に朝明の料理長、紅马が振り回されがちだ。
「確かに……あの马 (ウマ)、怒ると怖いから」
「こら」
「でも、何かの形で恩返ししたいな」
「そうだね。……さ、書けたら寝なさい」
「はーい」
静は、そっと部屋を出る。
(朴琳……ね)
静は顎に手を当てる。
(朴という名字、出身国に合わない言語と目の色……)
朴琳は東亜の国から来たと言っていた、
東亜の国民とは限らない。しかし、朴琳が話す言語と目の色、出身地。全てがちぐはぐなのだ。
静は自身の控室に戻ると、帳面を取り出した。
「やはり、合わない……」
朴という名字は凰の国の南にある華の国の人に多く、東亜の国の人でこの名字はあまり見かけない。加えて、朴琳さまの目の色は少し深棕色だった。これは鳳の国や凰の国の人に多い目の色だった。他の国の人では、あまり見かけない。
東亜の国の公用語は、日语だ。
(考えられるとするなら……)