看守 2
「香…!!」
名前を呼ばれて香が振り返ると、雪が立っていた。
「お前」
看守の1人が宇春に食ってかかろうとするが、年長の看守に制止された。
「ここでなら、話しても良い」
「ありがとうございます」
香は脇の拘束を解かれ、ふらふらと雪のもとに近づく。雪は香の身体を抱きしめた。
「ごめんなさい、先輩」
雪は何も言わずに黙っている。
死を待つだけの後輩に何か言いたい。
だが、言葉をかければ、雪も同罪とみなされ、一族は全員跡形もなく処刑される。
雪は黙っていることしかできない。
「魔が差しました。全て俺の責任です」
「……」
「温かい食事と布団、恋、ああ……楽しかった。幸せでした。でも、自分の幸せのために多くの人を巻き込んでしまった、家族、先輩、大好きな人も」
「香……」
「今日中に判決が下って、執行されるでしょう。そしたら俺は……」
「ごめん、ごめんな」
「先輩、これだけは言わせてください。先輩のもとで働けて幸せでした、ありがとうございました。先輩と食べた拉面美味しかったなあ……」
「香、」
香が雪の言葉を遮る。
「ご結婚おめでとうございます。産まれてくるお子さんの成長、お祈りしてます」
雪が呆気に取られていると、鼻をすすりながら看守が香の脇をつかんだ。