連行
「違う、話を聞いてくれ」
香は連行されながら、必死に男たちに訴えかける。目には涙が浮かんでいた。
朝明の表には、車が止まっていた。その周りには、観光客や野次馬がわらわらと集っている。
「お前の共犯者ももうすでに捕まっている」
官僚の男が言った。
「は……?」
男が車の扉を開けると、手足を拘束され、力なく笑う宇春がいた。
香は戸惑う隙も許されず、ドンと押されるように車に放り込まれる。
「おとなしくしていろ。逃げるなよ」
扉が乱暴に閉められた。
「あーあ、捕まっちゃったね」
宇春が言う。気丈にふるまっているようだが、その声はかすかに震えていた。
「ごめん、俺のせいで……」
取り返しのつかないことをした。香はガタガタと震える。
「香のせいじゃない」
「俺……、俺」
「……」
沈黙が訪れる。
「これからどうしようか」
宇春が言う。
官僚の脱国罪は、凰の司法の場で、ほぼ100パーセントの確率で有罪になる。待ち受けるのは、関係者全員、極刑の未来だ。
少しして、先ほどとは違う男が乗り込む。
「行くぞ」
車が動き出した。
「……雀静、張多も拘束した。凰国の領地に入った時、手錠をかける」
「はい」
「分かりました」
車は、鳳と凰の国境に差し掛かる。
「降りろ」
男に促され、香と宇春は車を降りた。目隠しをされ、手錠をかけられた。