被疑者
风蓝の街は、人が多く行き交っていた。
張多曰く、风蓝は観光客しかいないという。
とりあえず、情報収集も兼ねて、近場の飯店に入ることにした。
「搾菜と粥で」
「あいよー」
あっけらかんとした店主の老婆が返す。凰を出て、早、半日。家で最後に夕食を取ってから、香はまだ何も口にしていなかった。
(それだけではない)
老婆がご飯を差し出し、口を開く。
「兄ちゃん、観光客かい?」
「あ、ええ」
「そうか。风蓝はね、良いところだよ~」
「そうなんですね」
「子湖とかが有名だけどね、海辺から見える夕陽が綺麗なんだよ。ドラマの撮影でよく使われるんだ」
「へえ」
「兄ちゃん、今日はどこに泊まる予定だい?」
(きた)
「朝明という宿で……でも、場所が分からなくて」
「朝明か、ここから5分、東に歩いたとこだよ」
「へえ」
「あそこの主の娘さん、良い子なんだよね」
「娘さん?」
「お父さんと娘さんの2人でずっと頑張ってるの」
「そうなんですね」
「娘さんの名前、宇春っていうんだけど、爸爸のためにっていつも言ってるのよ。静さんも、良い娘さんに恵まれて、羨ましい限りよ」
「静さん」
「ええ。雀静さん」
香は冷静な面持ちだった。なるべく怪しまれないように。
(雀静……)
国家任務の被疑者だった。
大規模国家機密漏洩事件で処刑された男の関係者で、警察からマークされている。
香は店を出ると、怪しまれないように朝明に向かった。現在の時間はおおよそ下午两点。
(行くか)
朝明は、朱色の外壁に、銀色の装飾。
2階建ての小さな建物だった。
「予約した、朴琳です」
「お待ちしておりました」
受付に着く。香は適当に受付を済ませた。
「お客様、いらっしゃいませ。ようこそ、朝明へ」
丁寧で穏和な声が響く。
「支配人の雀静と申します」
雀静と名乗るその男は、顔を上げると、ゆっくりと笑みを浮かべた。香は悟られないように息を呑んだ。
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