飯屋
掃除を終え、2人は掃除道具を返しに行った。
「よし、お昼にしよっか!」
ちょうどそこに白月が通りかかる。
「お、宇春」
「月」
「今から昼か?」
「うん。李ちゃんも」
白月がチラッと香を見る。香はドキリと体が動いた。
露骨に白月の顔がゆがむ。
「俺、そんなに怖い?」
「え?」
「月、強面だから昔から怖がられててさ。ちょっと敏感なんだよね」
トントンと宇春が白月の肩を叩く。
「笑顔つくっても怖がられるの結構くる」
「仕方ない、仕方ない」
昔からの幼馴染2人がじゃれ合う。香は複雑な思いで見つめていた。
「李さんだっけ」
「は、はい」
「俺こんな顔だけど怒ってないから。……だから、仲良くしてくれると嬉しい」
「……はい!もちろん!」
白月がぎこちなく笑う。それにつられて、香も笑った。
「さて。メシ行くか!」
○●○
昼時の飯屋は混んでいた。
3人が選んだのは、地元の名店の麺屋だった。白月のお気に入りらしく、宇春も何度か来たことがあるらしい。
「奢りだ!」と、宇春曰く珍しく上機嫌な白月が言った。香はちょっと高めの担々麺を頼んだ。
「李ちゃんさ」
白月が言う。
「宇春のこと、よろしく頼んだよ」
「え?」
「宇春のこと」
「ちょっと、何急に」
宇春がトンと白月の肩を叩く。
「宇春、こんなんでも苦労人だからさ」
「ちょっと、酒飲んでる?」
茶化すように笑う宇春だが、少しさみしげな表情をしていた。
「幸せになってほしいんだよ、俺は。幼馴染として」
「……」
香は茶化すわけでもなく、真剣な眼差しで見ていた。
「本当は高校はおろか、大学まで行ける学力があったのに、中学出てからずっと親父さんと2人きりで朝明を経営して」
「……」
「何言われても、何されてもニコニコして耐えて。だからさ……って。ごめん」
「……」
宇春のいつもの笑顔は消え、ただ、俯いていた。
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