新しい彼
「荷物ここでいい?」
「ありがとうございます」
買ってきた荷物を香と宇春で手分けして、香の部屋に運んだ。
(あれはやっぱり演技、そうだ、うん)
テキパキと動く宇春の横顔を香は、じっと見つめる。
さっきまでの甘い雰囲気は消え、いつもの宇春に戻っていた。
「どうした?」
宇春が怪訝な表情を浮かべる。
「なんでも、」
「凰から持ってきた荷物はどうする?」
「ああ……」
それは香にとって悩みの種でもあった。
機器類にはGPSが入っており、朝明から少し離れたこの場所に持ってきたら怪しまれてしまう。かといって、下手に壊したりすれば本部に知られてしまう可能性があった。
「今はとりあえず客室に置いてあるけど……」
消え入りそうな声で渋い顔をした香が呟いた。
そのさまを見た宇春が、ぽんと手を叩く。
「あそこなら!」
○●○
「……何?」
眉間に皺を寄せ、電卓と帳面を睨むその男は、白月といった。朝明では、静や宇春の補助を行っているらしい。
白月は、宇春の古くからの知り合いで、学校の同級生だとか。
不機嫌な表情の白月に物怖じせず、宇春が口を開く。
「荷物をさ、預かってくれないかなーって」
「荷物?!」
「うん、李のやつを」
「お前、正気か??俺が変な目で見られるだろう。宇春の彼氏の荷物を俺が持ってたらおかしくないか??」
白月には一応、半分嘘の経緯を話してある。
『観光で来た朴琳という男と宇春が付き合い始め、結婚も視野に入れているため、宇春の家業である朝明の仕事を手伝うことになった』
実際は、密偵のような目的で来ていたし、名前も違うし、付き合ってもいないが……。
「第一、彼氏の荷物ならお前が持ってろよ」
正論を突かれ、2人はたじろいだ。白月が睨む。
「……さては」
「えっと」
「部屋が狭いからって荷物押し付ける気か!!」
香は思わず面食らってしまった。
そしてそれは宇春も変わらないようで、2人してポカンと口を開けた。
「悪いな、兄ちゃん。広い部屋を用意できなくて」
「あ、あ、いや」
「……仕方ない。預かってやるよ」
宇春と香は心底安堵した。
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