買い出し 2
(き、きまず……)
宇春は演技上手なようで、買い出しの最中、誰に会っても香が不審者扱いされることはなかった。
(もう少し違うやり方もあったんじゃ)
……とも、思うが、今更後には引けなくなった。
必要な服や日用品を買い揃えていく。
鳳の製品は、凰よりも比較的安価で質が良かった。物流も安定しているのか、小さな店でも商品が補充されていた。元は同じ国だったと史実で習ったが、統治者が違えばこれほどまで差が出るのかと香は愕然とする。
(こっちで生まれたかった)
こんなこと考えていたら、向こうでは統治者への不敬罪で処刑台行きだ。
「なーにやってるのっ、李」
気がつけば、宇春が覗き込んでいた。
「ごめん、ちょっと」
「あらあら」
衣服を売っている店の店主が微笑む。
「しかし、あの宇春ちゃんがね。おめでたいわ~」
「えへへ」
「彼氏くん、宇春ちゃんを頼むよ!」
店主にぽんと肩を叩かれる。香は驚きの混じった愛想笑いを浮かべた。
「さ!買うよ!」
ニカッと宇春が笑った。
宇春は演技上手だ。可愛らしい表情を心得ている。
香は小さく笑った。
「これと、これ、これもください」
衣服を、宇春は次々に買っていった。その量に目を見張らせた香は、宇春を呼び寄せ耳打ちをする。
「俺お金そんなに……」
凰から支給された資金もある程度なくなってきていた。
衣服だけでその資金はとうに尽きてしまう。
「出世払いにしてもらおっかな」
「え」
「嘘だよ。半分奢り、ちょっとだけ出世払い」
「宇春ちゃーん」
店主が呼ぶ。宇春は钱包を広げ、支払いに向かった。
○●○
「結構買ったね!帰ろっか!」
空が橙色になってきた。人混みの中、宇春と香は並んで歩く。なぜか香よりウキウキとした表情の宇春を見つめながら、ゆっくりと歩をすすめていた。
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