買い出し 1
(潜伏生活ね……)
香は、宇春から使っていいと言われた部屋で当面暮らすことになった。在留資格の可否自体は1か月ほどで分かるため、それまでの間、朝明で働きながらの生活になる。
「準備が出来たら教えてね」と宇春に言われていたので、香はとりあえず身支度を済ませる。
身支度といっても、結んでいた髪をほどく程度になる。凰からはそれ相応の荷物しか持ってきていない。香はどうしようかと悩んだ。
○●○
朝明の中に入ると、宇春が既に待っていた。
人1人いない、従業員用の空間に、いつもと雰囲気の違う宇春が座っている。
「お待たせしました」
「いえ。大丈夫ですよ」
「あの……」
「じゃ、行こっか!」
「え?!」
宇春は香の腕を組んだ。まるで恋人のような雰囲気に香は思わず離れる。
「ど、どういう……?」
「外では、恋人ということにしましょうか」
「あ、ああ」
(びっくりした……)
顔に出ていたのだろうか。宇春の顔がムッとなる。
「変な意味はありませんから、ご安心を」
「あ、はい……」
「観光客の香さんと、旅館で働く私が付き合い始めたってていにした方が、知り合いに会っちゃってもまだ話が通りやすいですから」
気を遣わせてしまった、と香は思った。
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