協力 2
「えっと」
オロオロとする香をよそに、静が口を開く。
「在留資格の届けはもらってきた」
「そうなんだ、あとは書いて出すだけか」
宇春が顎に手を当てる。
「身元保証人は?」
「私がなるよ」
「お父さんが?」
「うん」
「分かった。……香さん、一通りは聞いた?」
「聞きました」
「それなら話は早いね」
香はただ口を開けたままポカンとしていた。
「書類書いたら誰が出す?」
宇春が言った。
「私が出すよ」
「分かった。あとは、鳳での暮らしだね」
「暮らし……」
香が俯く。宇春が口を開いた。
「うちで働くのはどう?」
「え?!」
「確かに、いいな」
静が頷いた。
「ちょうど1人、住み込みで働いてくれてた掃除の人がやめちゃったから。どう?香さん」
「いいんですか?」
「もちろん。掃除の人には話しておくから」
ニコッと微笑む宇春と対照的に、香は浮かない顔をしていた。
「嫌かな……?」
静が様子を伺う。
「全然!ただ」
香がブンブンと首を振って否定する。静と宇春が続く言葉を気にするような表情を浮かべていた。
「申し訳ないなって」
香の言葉を聞くと、2人はフフッと笑った。
「もー、それは無しだよ」
「そうだね。申し訳なさは感じないでいいよ」
「……ありがとうございます」
「その代わり、しっかり働いてね?」
冗談めかして宇春が笑う。3人の間を流れる空気はいつしか優しくなり、和やかになった。
少しお酒もたしなみながら、談笑していた。
静が口を開く。
「旅館では、違う名前で呼ぶようにしたいね」
「確かに。本名とか偽名だとバレちゃうし」
「香さん、旅館では李でいいかな?」
「はい、」
「分かった」
その日、少しお酒を嗜んだ3人は朝明へと帰った。
翌日、在留資格の届けを出し、香の潜伏生活が始まった。
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