協力 1
「大丈夫?」
静が口を開く。宿泊者の対応を終え、宇春も交え、少し話すことになった。
申し訳なさから俯いていた香を2人は心配そうに覗き込む。
旅館を副支配人に任せ、香たちはあの居酒屋に来ていた。静が香の正体を突き止めた時の個室と同じ部屋だった。
「人いないから安心して話していいよ」
静が微笑む。張多の家族が経営する店だということもあり、店内はほぼ貸し切り状態だった。事情を知っている張多の計らいであることは香にも想像がついていた。
「父から聞いています」
宇春が口を開く。香は驚いて顔を上げた。
「え……?」
「父を、私を、殺そうとしてたんですよね。香さん」
(本名まで……)
「宇春」
「この先どうするつもりですか?」
「……」
宇春はまっすぐ香を見据える。香は俯いた。
「脱国、するんですか?」
「……したい、そう考えています」
2人の様子を静は交互に見つめる。卓を挟んで向かい、重々しい空気が場を支配する。
「分かりました」
宇春が言った。
「え、」
「協力します」
呆れたようにも、悪戯を思いついた子供にも見えるように宇春が笑う。
「父のことでしょうから、脱国を唆すだろうし」
宇春が静に目線をやる。黙って聞いていた静が口を開いた。
「……仮に今、私たちを殺して、君が手柄を上げて帰っても、また同じようなことをやらされる。かつての私がそうだった。あの国ではどれだけ偉くなっても、死の恐怖と常に隣り合わせだ」
「……」
宇春が、少し姿勢を直す。
「それで、何をすればいい?香さん」