国家任務
改稿しました
警務省の官僚の朝は早い。
「おはようございます」
挨拶をしながら、李香は自分の席に向かう。席につくと、仕事に手を付けた。
大学を卒業し、官僚試験に首席で合格した李香は、国家防衛のための任務を担う警務省第一課に配属された。
今年で二年目になる。
しばらく経った頃だった。時刻は上午十一点。
同僚たちが 午餐を食べに行くために続々と席を立っていた。香もそれに続こうとしていた時だった。
「李香、ちょっと」
上司の朴雪に声を掛けられ、別室に呼ばれた。
「国家任務、ですか」
「ああ。次の国家任務の担当、李香に決まった。おめでとう」
警務省が担当する国家任務は、凰の国の威信がかかっている。そのため、24歳の香の立場では、普通は任されることはない。
「期待してるぞ、李香」
香は頭を下げる。顔は綻んだままだ。
いつもは厳しく、『仕事中は笑うな』と檄を飛ばしている雪も、部下の出世の一報には嬉しかったらしい。ニコニコと微笑みながら、部屋を出ていった。
その日の夜、国から支給されている香の携帯に、国家任務の詳細が入った。
○●○
国家任務、当日。
「……」
史実で習った姿とは、だいぶかけ離れていた。
香が降り立った地は、一荣。多くの人が行き交っているのに、街は全体的に清潔感があった。
「鳳の国の首都なんですよ」
運転手の老夫が口を開く。からからと笑い上戸なその老夫は、張多といった。凰の仲間に駅で降ろしてもらった後、土地勘がなく彷徨っていた香を見つけ、格安で乗せてやるよと気前よく話してきた。香はありがたく乗せてもらった。
知らない鼻歌を歌っていたので、何かと聞くと、鳳の国で有名な歌手の曲だった。
(懐かしい)
祖国の凰でも、有名な歌はあったし、有名な歌手も居た。夜に妹と歌っていて妈妈に怒られたこともある。
香は少ししんみりとした気持ちになった。
車に乗ってから早30分、身の上話から鳳の国の話まで、話が尽きなかった。
1つ目の街を抜け、田舎の茨道を越える。ガタガタと走りにくい道ではあったが、凰の国よりは整備されていた。史実では、鳳の国の文明は我が国よりも劣っていると聞いていた。
(どういうことだ……)
「さ、着いたよ~。琳さん」
馬車で1時間をかけ、着いたのは风蓝という地だった。偽名の効果もあり、張多は、香が凰の人間だとは気づいていないようだった。
相場より遥かに安い金50を払い、車を降りた。
(移動賃を節約できたのはありがたい)
国家任務に入るにあたり、凰の国から外貨である金を支給されているが、限りがある。なるべく金は使いたくない。
香は張多に会釈を返すと、风蓝の街を歩き始めた。
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