謎の男 1
「すみません」
「はいよ、いらっしゃい」
风蓝の街に飯店を開いて50年。20で旦那と結婚してからずっと老婆の毎日は変わらない。毎日のように行き交う客に飯を出してきた。
(おや、見ない顔だ)
この街は観光客が多い。常連といえば限られる。
顔立ちが鳳の国の人ではない。老婆は感じた。
(この顔立ちは、国外の人だ)
華の国でも、亜の国でもない。欧の人のようだが、少し違う。老婆はとある優しい目つきの顔を思い出した。
朝明に泊まると言っていた青年は、無事にたどり着けただろうか。
「すみません」
老婆はビクリと体を震わす。
「注文ですね」
「ええ。粥と麻婆豆腐を」
「はいよ」
顔を伏せたまま、その人物は言った。
(ま、いいだろう)
「すみません、少し伺いたいのですが」
「はいよ」
「この辺に朝明という旅館はありますか」
「朝明ですか。でしたら、ここから歩いて5分ですね。地図を出しましょうか」
「ありがとうございます。助かります」
「いいよお」
「朝明は有名な旅館なんですね」
「ええ。この辺の看板的な老舗の旅館なんですよ」
「泊まられる方多いんですか?」
「ついこの間もね、朝明に行きましたよ。確か1か月たたないくらいでしたね」
「なるほど……」
その人物は、粥と麻婆豆腐を食べ終わると、老婆に会釈を返し、店を出ていった。
ありがとうございます!!