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命の恩人 1
「へいへい、久しぶりだね」
静は朝明から少し離れ、海辺にある商店に来ていた。
「お久しぶりです、張多さま」
「"さま"って。多でいいよ」
「いやいや。命の恩人ですから」
張多はニカッと笑うと、タバコをふかした。
「出租车の仕事は慣れましたか?」
「ああ。おかげさまでね」
「そうですか」
「週に3日は出租车、あとは女儿に代わって店番。楽しい毎日だよ。……それで、今日はどうしたんだい?」
「例の件で」
「そうだったね」
静は張多と向かい合う。
「脱国をしたいと」
「ちょっと待ってな」
張多は店の札を裏返す。
「貸し切り……」
「その方が静さんも話しやすいだろう」
「ありがとうございます」
静は香のことを詳しく話す。張多は真剣な眼差しで聞いていた。全て話し終えると、張多は頷いた。
「なるほど……分かった」
「協力していただけますか」
「……」