回顧
「朴さま」
一緒に居ると怪しまれるので、別々に朝明に戻った。朝明の正面に回ると、宇春が箒で掃除をしていた。
香は思わず宇春に釘付けになる。いつもは1つで髪をまとめ上げているが、今日はお下げ髪だった。
「お部屋戻られますか?」
「ええ、まあ」
「かしこまりました」
香は、ハッと我に返り、部屋に財布と支給された携帯を取りに帰った。
○●○
時は少し遡る。
朴琳さまは本当は違う名前だという。
宇春は静から昨日の夜、知らされた。朝明では、稀にスパイらしき客が泊まりに来ることがある。なのでそう珍しい話ではない。ただ、宇春が引っかかっていたのは、朴さまの出身地だった。
「凰の出身なんだ……朴さま」
宇春自身、記憶はないが昔、凰に住んでいたらしい。
若き日の父、静は私を連れ、柵を超え脱国した。
凰に居た頃の記憶はない。その頃の写真を見ても、何も覚えていない。
「小さかったから……なのかな」
私には、母が居たらしい。名は雀水月。
脱国できずに、柵を超える前に憲兵に撃たれたと聞いているが、よく覚えていない。暗闇を彷徨っていて、目を覚ました時には、茅葺き屋根が見え、誰かに看病されていた。なぜか体は動かなかった。
(頭が痛くなってくる……)
宇春は考え込むのを止め、箒を掃いた。