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スパイの男   作者: Suzura
13/43

親子と或る男の葛藤


「あら、おかえりなさい」


朝明の前で都合よく、宇春と会った。


「どうしたんだい?」

「お客様が体調崩されてしまって、林檎の買い出しに」

「まだ店開いてるんですね」

午夜しんやまで開いてる店もあるんです。従業員は皆帰ってしまったので」

「なるほど」

「お父さんと朴さま、どうして一緒に?」


香と静は、顔を見合わせる。


「さっき会ったから、お酒を呑んでたんだ」

「そうでしたか。朴さま、大丈夫でしたか?」

「え?」

「父、お酒を呑むと泣き上戸になるんです」

「ちょ、」


静と宇春は顔を見合わせて、笑う。それにつられて、香も笑った。


「?」

「いえ、素敵だなって」


恥ずかしそうに親子は笑う。さみしげな表情をし、香は自室へ帰った。


○●○


月明かりに照らされた客室で香は、堂々巡りをしていた。


「……」


殺すか、殺されるか。


「……」


香は布団に仰向けに倒れ込む。


「……低い天井だったんだな」


凰の国の正しい知識を身に着け、誰もが羨む官僚になった。屋根の上に登り、世界を見渡した気でいた。


(どうする、俺)


「失礼いたします」

「はい」


女性の声が響く。

戸が開き、入ってきたのは宇春だった。

 

「突然失礼いたします」


思わず香は飛び起きた。


「どうかされましたか?」

「お電話をおかけいたしましたが、繋がらなかったので」

「あ、」


おそらく客室の電話は鳴っていたのだろう。

 

「考え事していて気づきませんでした……」

「そうでしたか、失礼いたしました」

「いえ。……それで、ご要件は?」

「こちらを」


宇春が差し出したのは、香の手帕ハンカチだった。


「帰ってきた時に落としたのかな」

「明日お渡ししようかと思いましたが、おそらく大切なものでしょうから……」

「……ありがとうございます」


香は手帕ハンカチを受け取り、握り締めた。


この手帕ハンカチは、大学受験の時、緊張のあまり手汗が酷かった香に母と妹がくれたものだった。


「……朴さま?大丈夫ですか?」

「……え?」


宇春は何かを教えるように、頬を指で示す。


「涙」

「ああ、……あはは」


香は頬の涙を拭う。


「泣いてる。俺」

「大丈夫ですか?」

「すみません」

「謝らないでください」

「……」

「何かあったんですか?」

「……大丈夫です」

「……分かりました。失礼いたしました」


宇春が部屋を出ようとした、その時だった。


「もし、自分か他人か、どちらかを殺すとしたら、宇春さんならどっちを選びますか?」

「え?」

「ああ、すみません。変なことを」


宇春は少し考え込むと、香の前に座った。


「選べません。そんなの」

「?!」

「選べなくて当然です」

「……そうですよね」


香は、俯いた。



何を思ったのだろう。


香の頬を伝う涙を、宇春はそっと拭った。


香は驚いたまま、固まる。


「何か力になれることがあれば言ってください」

「……」


宇春は、頭を下げると、部屋を出ていった。


ご覧頂き、ありがとうございます!!!!!!

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