ある家族の話 3
「これは」
(水月……!!)
「お前たち、脱国か?」
銃を構えた憲兵が水月に歩み寄る。水月は両手を挙げたまま、じりじりと後ろに下がった。
「おい、戻ってこい!この女を殺すぞ!」
(無理だ……)
「分かりまし、」
「行って!!」
水月が叫んだ。
「でも」
「宇春と逃げて!私のことはいいから!」
「できない!!置いていけない!!」
「お願いだから!!」
静の足はガタガタと震えていた。カチャッと引き金を引く音がした。
「お願いがあります、憲兵さん」
「なんだ」
「逃げるつもりはありません。ただ、2人に」
「……許可しよう」
憲兵も思うところがあったのか、水月から目を逸らしていた。静と水月は、鉄柵越しに手を絡めた。
「今までありがとう。ごめんね」
水月は優しく微笑みながらも、頬を濡らしていた。
「いやだ、いやだ、水月…水月!!」
静はぐちゃぐちゃになるまで泣いていた。
「お願い、生きて。行って!!宇春を頼むね」
錯乱状態の静は、ひたすら茂みを走る。
数m走った頃、乾いた銃声音が響いた。
憲兵によって引き金が引かれた。
真っ赤な鮮血が降り敷きった雪を染め、水月は鉄柵に縋るようにぐったりと倒れ込む。
静は立ち止まらずに走った。
憲兵は、鳳の領土を走り行く静には、発砲しなかった。脱国者を見逃せば、憲兵自身も処刑されるのに。
○●○
森を抜け、街が見えてきた。朝日が眩しい。
息を切らしたまま、静はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
不自然な様をしていた静に、声がかかる。見上げると、40代くらいの男性が心配そうに覗き込んでいた。
その顔を見て、静は子供のように泣きじゃくった。
「どうぞ。干し柿しかなくてすみません」
静は頭を下げる。
睡眠薬を飲んで以降、宇春は目を覚ましていない。
男性の奥さんが側に寄り添ってくれている。
宇春の様子を静は心配そうに見つめていた。
「……あなた、もしかして凰の国から来られましたか」
「え……?」
「図星?」
「……はい」
「生活のあてはありますか?」
「……ないです。何も考えずに来てしまって」
「名前は?」
「雀静、娘は雀宇春です」
「この子の妈妈は?」
男性の奥さんが静に問いかける。静は黙って俯いた。
「そういうことでしたか……」
この夫婦は、やたら察しが良かった。
「とりあえず、今日はここに留まってください。宇春さんがこんな調子では先にも進めないでしょう」
「……」
「私達、立場上名前は言えませんが、凰の国からの脱国者の支援をしてるんです」
奥さんが呟いた。
「え?」
「僕達の仲間は国中に居て、ある程度の知識と実績もあります。……信じていただけますか?」
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