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スパイの男   作者: Suzura
11/43

ある家族の話 3


「これは」



(水月……!!)    



「お前たち、脱国か?」  


 

銃を構えた憲兵が水月に歩み寄る。水月は両手を挙げたまま、じりじりと後ろに下がった。



「おい、戻ってこい!この女を殺すぞ!」

    


(無理だ……) 



「分かりまし、」


「行って!!」

 


水月が叫んだ。



「でも」


「宇春と逃げて!私のことはいいから!」


「できない!!置いていけない!!」


「お願いだから!!」 



静の足はガタガタと震えていた。カチャッと引き金を引く音がした。 


「お願いがあります、憲兵さん」

「なんだ」

「逃げるつもりはありません。ただ、2人に」

「……許可しよう」



憲兵も思うところがあったのか、水月から目を逸らしていた。静と水月は、鉄柵越しに手を絡めた。

 


「今までありがとう。ごめんね」



水月は優しく微笑みながらも、頬を濡らしていた。



「いやだ、いやだ、水月…水月!!」



静はぐちゃぐちゃになるまで泣いていた。




「お願い、生きて。行って!!宇春を頼むね」




錯乱状態の静は、ひたすら茂みを走る。




数m走った頃、乾いた銃声音が響いた。



 


憲兵によって引き金が引かれた。

真っ赤な鮮血が降り敷きった雪を染め、水月は鉄柵に縋るようにぐったりと倒れ込む。





静は立ち止まらずに走った。





憲兵は、鳳の領土を走り行く静には、発砲しなかった。脱国者を見逃せば、憲兵自身も処刑されるのに。




○●○




森を抜け、街が見えてきた。朝日が眩しい。


息を切らしたまま、静はその場に崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」


不自然なざまをしていた静に、声がかかる。見上げると、40代くらいの男性が心配そうに覗き込んでいた。


その顔を見て、静は子供のように泣きじゃくった。 



「どうぞ。干し柿しかなくてすみません」


静は頭を下げる。


睡眠薬を飲んで以降、宇春は目を覚ましていない。

男性の奥さんが側に寄り添ってくれている。


宇春の様子を静は心配そうに見つめていた。


「……あなた、もしかして凰の国から来られましたか」


「え……?」


「図星?」


「……はい」


「生活のあてはありますか?」


「……ないです。何も考えずに来てしまって」


「名前は?」


「雀静、娘は雀宇春です」


「この子の妈妈は?」


男性の奥さんが静に問いかける。静は黙って俯いた。


「そういうことでしたか……」


この夫婦は、やたら察しが良かった。


「とりあえず、今日はここに留まってください。宇春さんがこんな調子では先にも進めないでしょう」


「……」


「私達、立場上名前は言えませんが、凰の国からの脱国者の支援をしてるんです」


奥さんが呟いた。


「え?」


「僕達の仲間は国中に居て、ある程度の知識と実績もあります。……信じていただけますか?」






 





ご覧頂きありがとうございます!


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