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スパイの男   作者: Suzura
10/43

ある家族の話 2


深夜十点しんやじゅうじ


「寒くないか?」

「大丈夫よ」

「じゃあ、行くね」


静は宇春の頭をぽんと叩くと、戸を開け、外に出た。襟を立て、白い息を吐いた。


「行ってきます」


静は暗闇に消えていった。


「妈妈」

「宇春、果汁ジュース飲もうか」 

「……うん」


宇春は水月から出された果汁ジュースを飲むと、

少しして、ぐったりと眠りについた。飲み慣れた果汁ジュースに、睡眠薬を微量入れたのだ。


慣れない地で幼い宇春が暴れてしまい、脱国の足手まといになる可能性があった。




水月は、最大限の防寒具を宇春に着せた。

そして、眠りこけている宇春を水月は自身の身体に紐でくくりつけた。


朝になれば、私たちがいなくなったことに誰かしら気付くだろう。時間に余裕があるわけでもない。


正直、無謀だ。


それでも、賭けてみたかった。


「ごめんね……宇春」


眠りこけ、ぐったりとしている宇春の頬を水月はそっと撫でた。



北陽ベイヤンを出ると、森が見えてきた。


北陽の子供たちがよく遊び場にしている森でもある。


水月は、森の中の静が待っている場所に向かう。まだ宇春は起きる気配がない。


「水月」


静の声が聞こえる。辺りを見渡すと、木の陰に隠れていた静が手招きをしていた。


「宇春は」

「眠ってる」

「そうか」


静は川の方を見つめていた。


「警備は今の時間なら薄れているはずだ」

「分かったわ」


予め、小さな鞄に最低限の物は用意してきた。


水月は身体の紐を外し、宇春を静の身体にくくりつけた。


静たちが見据える向こうには、鳳と凰を隔てる国境があった。国境のすぐそばには、それぞれ2mを超える鉄柵が張り巡らされている。


「登れそうね」

「ああ」


(有刺鉄線じゃなかったのが幸いか)


「行くぞ」


宇春を抱えた静が先に鉄柵に手を掛け、登り切って柵の向こうに着地した。

 

「大丈夫だ!」

「分かった、」


水月も後に続いて、鉄柵に登ろうとした時だった。


「何をしている!」

 

ずかずかと歩いてきたのは、鉄柵を警備する憲兵だった。手には銃を携えている。

 

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