僕が保育所の調理師になった安易な理由
僕には大好きな人がいた。
それは、ブログで出逢った譲くん。
譲くんは、幼稚園の先生だった。
毎日、幼稚園での出来事を、ブログに綴っていた。
辛かったこと、楽しかったことを、本当に毎日綴っていた。
よくこんなに、毎日いろんな事が起こるものだと。
何にもない日が無いくらい、子ども達と過ごす日々は、とても充実してる風に見えた。
そんな彼に少しでも近づきたくて、僕は、たまたま持ってた調理師の免状を利用して、保育所の調理師になってみたのだ。
それからは、自分も子ども達と接するようになり、譲くんが毎日綴っている気持ちが、なるほど、少しずつ理解できるようになった!
子どもに囲まれることより、料理を作ることより、
何より、彼と一応同業でいられることが嬉しかった。
譲くんの記事に、コメントを書くようになった。
共感できることが増えて嬉しかった。
彼がいちいち丁寧にリコメを入れてくれることが、更に嬉しかった。
毎日毎日、譲くんの記事を読み、コメントを書き、
リコメを心待ちにしていた。
あるとき、譲くんの記事の中で紹介されていた講師の研修会が、割と近くで開催されたことがあり、僕は個人的に参加してみることにした。
とても楽しい研修会だった。
しかも…
なんと!
譲くん本人が、その研修会に、お手伝いで来ていたのだ!
憧れの、大好きな譲くんに…
僕は、ついに本当に会うことが出来たんだ!
想像通り…いや、それ以上に…
実物の譲くんはステキな人だった。
まさか、本当に会えるなんて、夢にも思ってなかった。
運命とか、縁とかを感じた。
それからも、ブログ上の付き合いは、ずっと続いていた。
いつかまた、会いたいね、とか。
同業ならではの悩みを語りながら呑みたいな、とか。
淡い期待を持ちながら、譲くんへの思いは募るばかりだった。
だけど、ある日の記事で…
彼は、結婚の報告を綴った。
そっか。そーだよな…
こんなにステキな人なんだもの。
ちゃんとフツーに結婚して、
そーれはもう、ステキなパパになるんだろうな。
僕がもし、女の子だったなら…
ちょっとは希望があったのだろうか?
いやでも、今僕は、子どもたちに囲まれて、とても充実した日々を送っている。
今の僕があるのは、間違いなく譲くんのおかげなのだ。
現在、彼と繋がっていたブログは、残念ながらなくなってしまった。
でもきっと、彼は今でも毎日、一生懸命子どもたちと向き合っているのだろう。
いつかもし…彼が奥さんと離婚して、
そしてまた、偶然出会うことがあったなら、
勇気を出して言おうと思う。
『僕と一緒に保育所を共同経営しませんか?
譲くんが園長で、僕は食品衛生責任者になります』