「お前要らないよ」と言えた勇者の解放生活
流行りに乗って書いてみた。
「お前はクビだ。もうパーティから出て行ってくれ」
「分かった。今まで世話になった」
とある場末の居酒屋。勇者一行の中で最も使えないと思われている支援職である付与術師の男・エリオットはリーダーの勇者・アレオこと俺にクビを宣告され素直に受け入れた。
ここまで長かった。これでやっと俺は解放されるのだ。
世間からは最も使えない付与術師なんかを入れている無能だとか任命間違えているんじゃないのかとか散々な言われようだが、実は逆である。
最強の付与術師であるこいつの力によって、俺たちはここまで来れた。魔王の配下である四天王を3人まで倒し、魔王の首まであと少し……
違う。俺の望んでいた人生はこんな波瀾万丈に満ちたものでも英雄譚のような物語でもない。自由な農民ライフである。
それもこれも急に体を焼くように現れた聖印とかいうふざけた痣と有能過ぎる周りの面々の過剰な囃し立てとサポート…ついでに勇者だけが扱えるチート級の専用装備のせいである。
でも、それもここまでである。散々悪態を演じ、仲間からの信用度は皆無。逆に有能かつ聖人君子なエリオットは追放される…どちらを見限るなんて明らかである。昨今流行りの追放ものでざまぁされる側に居残るのなんて居ないだろ。
それに噂では他国に勇者が現れて、当然ながら俺以上に有能なので期待値は天井知らず…専用装備も一般村人並みの俺が使うより遥かにいいだろうし。
さて、こっちもとっとと行方くらますとしよう。
それから数ヶ月後である。
まあ、酷い目に遭うのは仕方ないので割愛しよう。故郷に帰ったら勇者の故郷で小遣い稼ぎをしようと目論んでいた村の連中から罵倒されたり、結婚を約束していた幼馴染は既に寝取られて結婚妊娠していたり…マジ滅びろって思っていたら、俺を探しに来た国の連中と魔王軍の戦闘に巻き込まれてマジ滅んだ。
追い出されていたから被害は免れたけども、自由な農民ライフはだいぶ遠のいた…ちくせう。
噂では、エリオットと他の仲間たちは件の他国勇者と合流して残りの四天王と戦っているらしいが、「あいつは四天王の中で最強」らしく苦戦しているとか何とか。まあ、他国との連携とか戦勝後の利益とか色々と複雑な事情あるんだろう。
どのみち、俺にはもう関係ない話である。というか、あそこでエリオット追放しておかなければ帰ってきても寝取られの上小遣い稼ぎの客寄せパンダ扱いだった事を考えれば今の状況の方が恵まれているんですが、それは…
とりあえず、人里近くの荒地を開墾して農民ライフをやっていこうと思う。それしかやりたくない…
それから更に数ヶ月後…
それなりの畑とそれなりのボロ家、自給自足というにはまだ遠いがそれなりの生活が出来ている。
かつて勇者修行という名目でそれぞれのエキスパートに鍛えられた経験もそれなりに活かせているのは皮肉な話ではあるけども。
剣豪のハヤテ、魔導士のルチカ、賢者のシリル…今思い出すだけでも地獄のような日々であった恩師兼仲間の面々である。
なお、風の噂では最後の四天王に敗れ重傷を負ったそうな。いや、俺より強い連中が勝てない時点で俺逃げて正解だったじゃん。
最もそれで戦線復帰する気力も無ければ資格も既に無い。件の痣は畑で栽培した薬草の効果で綺麗に無くなったわけである。やっぱり何かの間違いだったんじゃね?
あの追放劇から1年と少しが過ぎた頃…
どうやら、最後の四天王を倒したらしい。他国勇者の犠牲と引き換えに。
その噂は俺の栽培する薬草の効能を聞きつけ買いに来るようになった商人から聞かされたものである。
かつての仲間たちは身体になんらかの欠損をし、満身創痍。更には勇者装備も四天王を道連れにした勇者と共に永遠に失われたとか何とか。
あれ、これ人類負けフラグじゃね…なんていうのはとっくの昔に知ってますがな。俺みたいなのが勇者に起用された時点で。
だからこそ、俺は自給自足を目指しているし、取引相手は人間だけでなく魔族もをモットーにしている。
お陰で、薬草特需である。何故か他所の薬草より1.5倍くらいの回復量を誇る自家栽培薬草は人気があって作付面積も徐々に増やしている。但し、俺1人で管理しているので限界はある。
普通なら農場ものなんだからヒロイン登場とか追放された面々が寄ってきてって展開あるだろうに、俺のところはそれが無い。転生した時点で運を使い果たしているだけだと割り切っている。
とりあえず、これからは魔族側に媚びていこうと思う。
それから更に数ヶ月経過…
最後の一角であったエリオットも遂に墜ちたという。まあ、仕方ないんじゃないかな…さすがに勇者だけでなく剣豪を欠いた人間側にとっては決定的な戦力の違いが生まれるわけである。
特に俺が作った新製品、体力増強ポーション…こと栄養ドリンクとエナジードリンクの得意先である魔王軍の進撃は凄まじいものである。
魔王公認という名目は伊達ではない。魔族の誰しもが用法容量を守って飲んでいるのである。
一方、人間側にも卸してはいたが身バレした結果命を狙われてしまう結果になった。が、そこは贔屓の魔王軍。護衛まで寄越してくれ、研究者やら作業従事者まで手配してくれる始末。
完全に転生する種族間違えてました。
その後、魔王軍は各国の首都を制圧し世界は魔王率いる魔族が牛耳る事になった。
その立役者の1人がかつて勇者を押し付けられて魔王軍に加担した農民だったと歴史書に記される事は無かったが、それを示すかのような魔王の言葉が残されている。
「自覚してない転生チート野郎ほど慎重に扱わなければならないものはない」と…
少しでも話題になれば連載あるかも…