上石高等学校
「良いじゃん良いじゃん。ラッキーじゃん!」
ぎゃはは。と高笑いしたのち無責任に言いのける。
「美佳は他人事だから笑えるのよ・・・・・・」
恨めしく睨んでみたら、さらに爆笑された。人の顔見て笑うとは不躾な。
この子は因葉 美佳。中学からの友人だ。
私たちは今、校庭の脇にあるベンチに腰掛けて放課の開放感を味わっている。
・・・・・・いや、開放感は美佳だけで私にはないんだけど。主にマネージャーの件のせいで。
「でも、ホントラッキーなんじゃないの?」
美佳は笑いながらも、語る。
「この学校では、碁特に入りたい人は少なからず居るんだから。マネージャーとは言えそこに入れるのは恵まれてるよ」
多分ね。と付け加えて、缶コーヒーに口を付ける。
碁特とは、囲碁特別室のこと。
この学校、上石高等学園は他校と比べ特殊だ。
全国で唯一、囲碁を学ぶ『碁学科』が存在する。
より強い棋士を育成するために、日本中から才能ある子供を集め、最強の対AI棋士を作りだし、勝利する。
夢物語のような与太話のような机上の空論を本気で目指している。
「人間がAIに統治されて、その対抗手段として囲碁が制定されて、囲碁の棋力がステータスとして認知されて・・・・・・」
一息ついて美佳は缶コーヒーをあおる。その缶には『砂糖たっぷり特盛り激甘カフェオレ』と書かれている。
「絶対にAIに勝って、自由を掴み取る。・・・・・・そんなことを考える人もいるんだよ」
なんだろう。少し美佳の雰囲気が変わった気がした。
真面目な顔をしたまま、言葉を繋ぐ。
「ぅえ・・・・・・コーヒークソ不味い・・・・・・胸焼けが、吐き気が・・・・・・あ・・・ぐぇ」
その後の美佳については割愛。そりゃ不味いだろうな。私ならまず買わない。
私は考える。
AIとの対局『人類解放戦争』に臨むには、碁特に選ばれなければならない。
碁特・・・・・・囲碁特別室は、碁打ちのエリートが入る、特別な教室。
そのエリートの中の更なるエリートのみが、AIへの挑戦権を得ることが出来る。
「何年前の話してるのよ」
私は溜め息交じりに答える。
過去二十戦、解放戦争は人類の敗北続きだ。
数十年前なら、本気でAIに勝つ意気込み、熱量が日本中に溢れていた。らしい。
そのためなら、命をかけ、己の全てを捧げる覚悟すらあったのだろう。
しかし。人類はAIに勝てなかった。
そして、本気でAIに勝とうと考える人なんて殆ど居なくなった。
実際、直近の過去三戦は人類の不戦敗だ。
そりゃそうだ。
誰だって負けたら殺される。そんな対局したくないでしょ。