妾の戦いはこれからだ!
※モンゴルのテントみたいな建物の名前は『ゲル』です。
戦いを終えて……。
選手控室になっているモンゴルッポイ名物の大型テント、ゲロの中に戻る妾たち。
「ぐわー、疲れたぞー!」
妾は東洋風のスパイシーな香を、鼻腔で存分に味わいながら備え付けてあるベッドにダイブする。
「ムウ、悪いが妾を踏んでくれないか」
「えっ? まさかエクレアさんにそんな趣味が?」
「違う、マッサージだ。ダメージは早めに抜かないといけないからな」
ああ、そういうことですか。と納得したムウは、うつ伏せになった妾のふくらはぎの辺りを踏む。
ああ゛ー、ぎもぢ良いー。
妾はぶにぶに踏まれながら、今回の闘いを振り返る。
「実際戦ってみたが、やはり妾は相当弱いな」
「まあ、上級者向けの設定ではあると思いますが、特にどういった所が?」
ぶにぶに。ごああー、痛気持ちいいー。
「まず『斬刃トルテ』の使い勝手が良すぎて、『暗黒サンダー』が死に技になっている。これでは必殺技を2個しか持ってないのと同じだ」
「うーん、ブラサンは飛び道具が消せるから波動昇龍対策にはなるのですが、今回は投げキャラ相手でしたから使いどころが少なかったかもしれませんね」
と言いつつ、ムウはスライドして腰の辺りを踏み始める。
がああ゛ーっ、そこそこー。効く効くー。
「それに『月刀ショコラ』は無敵時間が無い上に、当たり判定が小さいから通常攻撃からほぼ繋がらない。これでは迂闊に撃つこともできんぞ」
「めくるか画面端に追い込むか、使い所が限定されますし、エクレアさんは被ダメージ1.3倍ですから火力頼みの相討ちも狙えませんもんね」
ムウはさらに北上して、妾の背中を踏む。
おほほー! そこっ、いいー! イッちゃいそうだ!
そして、背中の凝り固まっているところを見つけたのか、かかとでぐりっぐりっと集中的に踏み出した。
まあしかし、高性能のザッハと超必殺技はそれなりに使えるから、まったく戦えない事もない。それに『挑発』にも色々使い勝手があって侮れん。
能力の差をトリッキーな立ち回りでカバーする戦い方は、楽しくてクセになりそうだな。
「あはん、いやん、そこっ、イクイク、イっちゃうっ! クセになりそーっ!」
「エクレアさん、セリフと心の声が逆になってますよ」
「おおっと、それは失敬」
ムウはクスクスっと笑い声を上げる。
「エクレアさんって冷酷冷徹で残忍な方との評判でしたが、意外とそうでもないですね」
「そうか? 妾は敵と見なした相手には全く容赦せぬから、その評価もあながち間違いではないがな」
全身くまなく踏んでもらい、身体がほぐれた妾はムウとともにアフタヌーンティーを楽しむ。
「うむ、闘いの後のお茶はうまいな!」
「でもまあ、エクレアさんとエビフライの対戦相性は2:8ですからね。正直良く勝てたと思いますよ」
「そうだったのか?」
なんと、ほぼ負け確の数値ではないか。
ダイアグラムが全てではないにしろ、接近戦キャラ同士で2:8か……。他のキャラなら1:9や0:10もあり得るという事か?
「今回、他にどんな奴が出場ておるのだ?」
妾の問いに、ムウは黒革の手帳をぱらぱらと広げ。
「まずは前作でも主人公だった、『アーサー王子』ですね」
「また、あの暑苦しい奴か?」
シャトーブリテン王国のアーサー=カラステーキ。『炎の剣士』の異名を取る、剣術と火炎魔法の使い手。
主人公らしく典型的な波動昇龍型で、「炎剣っ!」「焼竜剣っ!」はFOKを代表する必殺技。
金髪碧眼の容姿と熱血な性格もあいまって、男女共に人気を博しているが、「ウェルダンッ!」という勝利ボイスは正直ダサい。
「次に、ホボ・ブラジル王国の王『シュラスコ=ロドリゲス=ゴンザレス』」
「シュラスコ……? 聞いた事の無い名だな」
「この方は今回からの初参戦組ですね。カポエラを主体とした『ロドリゲスモード』と柔術を主体とした『ゴンザレスモード』を、切り替えながら戦うスタイルです」
「ほう、それはまた独特な性能の持ち主だな。手合わせするのが楽しみだ。他には?」
「以上です」
………………は?
「いやいや、前作FOKでもプレイヤーキャラ8人+四天王で12人だったではないか。妾を含めてもたった4人な訳がないだろう! 前作で妾を倒した『聖姫騎士ミルク』は出ないのか?」
すると、ムウはもじもじと言いにくそうに。
「すいません、伝えそびれてましたけど、実はこれ『体験版』なんです……」
「体験版……。どういう事だ? さっぱり意味が分からないが」
「今回のFOK2は、アーケードじゃなくて家庭用ゲーム機から発売されるんです」
?????
「そんなバカな! 対戦格闘ゲームなのになぜアーケードではなく、性能が劣るコンシューマーなんだ!?」
妾の当然とも言える抗議を受けて、ムウは嘆息しながら。
「今は格ゲー離れ、ゲーム離れの時代でして、単純にアーケード機で出すだけでは採算が取れなくなってしまっているんです」
「いつの間にそんな事に? ……それにしたって、家庭用だけとはあんまりではないか? かのK◯Fだって、PSに移植された時はロード時間が長すぎてカップ麺が作れてたぞ?」
ロード時間を短縮するために、ずっと同じキャラで対戦してたりしてたぞ?
「今はコンシューマー機も性能が上がってますのでそんな事はありませんよ。むしろライバルはスマホゲームと呼ばれているぐらいですから」
「なんと……?」
「今のゲーム業界は、まずはコンシューマー版やスマホゲームの売れ行きを見て、勝負できそうならアーケード機に逆移植するという時代なんです」
「妾がしばらくアーケード離れをしている間にそんな事になっていたとは……」
あの、20数年前の熱狂的なアーケード格ゲー時代はすでに終わりを告げ、冬の季節が到来していたということか。
世知辛い世の中だな……。
「でも、コンシューマーも悪いことばかりではありませんよ。追加配信で新キャラとかを次々に導入できますし。世界中のゲーマーと対戦ができますし」
「まあ、妾は別にコンシューマー機自体を否定している訳ではないが……」
「あ! 今、速報が飛び込んで来ました!」
「なんかニュース番組みたいだな」
「さっき言われていた『聖姫騎士ミルク』さんは、今回ラスボスになられるそうです」
「何だと!?」
聖姫騎士ミルクこと『ミルクレープ=ホイップクリーム=ホワイト』は、前作のヒロイン。
レイピアと光魔法の使い手でスピードタイプ。格ゲーでは珍しく回復術を使う、清純派キャラだったが。
「公式設定では前作でエクレアさんを倒した後、その功績が神々に認められて『天界』に昇ったとされています」
「ほう? そんな奴が、なぜラスボスに?」
「ところが、今度はその神々が世界を滅ぼそうと画策しているそうで、ミルクさんはその尖兵として遣わされるそうです」
また、壮大な話になって来たな。
「前作は、世界の王たちvs黒雷女帝エクレアという図式でしたが、今回は王たちと神々の対決という筋書きのようです」
「ほう……。それはなかなか楽しそうな世界観だな」
これは、製品版が出るのが楽しみだ。
「待てよ? 聖姫騎士ミルクがラスボスになったということは、今回のヒロイン枠はやはり妾という事か?」
「いえ、新ヒロインは今度の新キャラで、エクレアさんはネタ枠です」
わくわくしながら尋ねる妾を、ばっさりムウは斬って落とす。
「あ! でも、隠しキャラに『力を取り戻した黒雷女帝』というキャラが出るみたいですよ!」
「何っ!? 本当か!」
「今のエクレアさんは、本来の力を天界に封じられているという設定で、『エクレアさんでノーコンティニューでクリアする』と使えるようになるみたいです。衣装は制作スタッフのこだわりで、ヴ◯ンパイアシリーズのモ◯ガンみたいなエロい感じらしいですが」
「妾はまともな服を着せてもらえないのか?」
確かに前回ラスボスで出た時も、第2形態がそんな感じだったが。
「まあしかし、それが本当なら妾は『影の主人公』ともいえる破格の扱いとも言えるな。俄然やる気が湧いて来たぞ!」
「エクレアさんは、本当に前向きですね」
「では、製品版を楽しみに待つとするか」
「ここで結果を出せば、アーケードに返り咲きもできますし」
「要は、妾の働き次第ということか!」
よーしっ! まずはスカートをピラッピラめくって、世の男性ゲーマーどものハートを鷲掴みにしてくれようぞ。
ハーッハッハッ、ハッハッハーッ!!
ファイターズ・オブ・キング2(体験版) ~悪役格闘令嬢、黒雷女帝エクレアの受難~
GAME OVER
続きは製品版でお楽しみください(?)。
(おまけ)
エクレア様「ムウ、もともとFOKは『王vs王』の戦いで、いわゆる国盗り合戦だったと思うのだが」
ムウ「そうですね、負けた王は自らの生殺与奪の権のみならず、領土や領民、全てのものを奪われる仕組みになってます」
エクレア様「では、現在の妾の立ち位置はどうなのだろうな? 妾は前回のFOKで敗れたから、領土どころかビタ一文も持って無いのだが」
ムウ「そこはちゃんとしたもので、エクレアさんが負けたらそれ相応の罰を受ける事になっています」
エクレア様「妾に恐れるものは何も無いが、どんなペナルティだ?」
ムウ「負けた後、コンティニューしなかったら、エクレアさんの身体が爆発四散します」
エクレア様「まあ、もともとこの命は拾い物だから、今さらだな」
ムウ「そして、上からデカい『完』の文字が降ってきます」
エクレア様「それは、源◯討魔伝の終わり方だな」
おしまい
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
挿絵by、砂臥 環 様!