ROUND 2 ~反撃開始!~
ヒュルルウゥゥ、とうなる風に乾いた赤土とミニスカートが舞う。
眼前に広がる、モンゴルッポイの荒涼な大地。
妾はそこに立ち、黒髪ツインテールを揺らしながら、ほぼパンツ一丁の巨漢と再び対する。
「あれだけ恥をかかせられて、よくまあ逃げずに現れたのう、お嬢ちゃん?」
「……」
『モンゴルッポイ王国』の王、エビフライ=ハーンの安っぽい挑発をあたかも戦いの前菜のように味わいつつ、妾はうつむき黙ってやり過ごす。
「がーっはっはっ! 言葉も無いようだのう」
侮ってかかるエビフライ。ハッハッハ、それこそこっちの思う壺。
もう一押しとばかりに、妾はよよよとしなを作って「やめて……」と言う。(↓↙←+START)
思えば、妾とて初めから最強であった訳ではない。
こう見えても妾は泥水をすすり、地べたを這いずり回り、パキスタンで修行の限りを尽くした結果、黒雷女帝と名を馳せるまでに至った、言わば『叩き上げ』。
侮蔑? 嘲笑? 上等上等。
今はただ、ルーキーの頃に戻っただけ。ここから再び積み上げるのみ!
『エクレア、バーサス、エビフライ! ラウンド2、ファ……』
「斬刃トルテッ!!」(↓↙←+強K)
ガッッ!
フライングギリギリのところで放つ、胴回しからの回転蹴り。
初段の駆け引きでの油断を誘いつつ、初見の技で意表を突く!
「ぐはっ!?」
間合いが離れていたのでカス当たりだったが貴重な先制。そして180度広げた脚が、再び半月の軌道を描いて炸裂する。
「斬刃トルテッ!!」(↓↙←+強K)
ガガガッ!!
「ぐはあーっ!?」
同じ技ではヒットを取りにくいというセオリーを逆手に取り、エビフライはガードも敵わずまともに食らう。
まあ、妾のモロパンに見とれた可能性もあるがな!
「ぐっ、モンゴリアンッ!」
グオンッ!
男からナタのように降り下ろされる両手の手刀『モンゴリアンチョップ』を素早くバックステップ(←←)でかわし、序盤の優位を確定させる。
奴の体力は4分の1くらいは減ったか?
新技・斬刃トルテ、威力は申し分無し!
すかさず、妾はジャンプからの蹴りで『めくり』を狙う。
ビシッ!
「くっ!」
これは、上段のチョップで迎撃される。
さらに負けじとしゃがみキックを放つも、ドバシッと向こうの足払いと相討ちになり、双方のけぞりながら距離が離れた。
再び体力メーターを確認する。
げっ!? もう追いつかれてるではないか!
これが、被ダメージ1.3倍の弊害か?
と、一瞬目を切らした隙に迫り来る巨体。妾は蹴りで牽制しようとするが。
「ぬうりゃ!」
「!?」
吸われるように身体を掴み取られる。
こいつ、投げ間合いが広い!
必殺技投げなら相当のダメージを覚悟せねばなるまい! と思っていたら。
「フンフン、フンフンッ!」
「またかーっ!」
エビフライが繰り出したのはサバ折り。さっきのラウンドと同じように、妾の胸(巨乳)に顔を埋めてくる。
「くっそお、このおっぱい星人め!」
「なんとでも言え、フンフンフン!」
妾は強引に(レバガチャ)身体を引き剥がすと、バク宙で後ろに飛び退く。
以前なら、ここで飛び道具と対空の月刀ショコラの、いわゆる『波動昇龍』戦法でゴリ押しなのだが……。
「どっせーい!」
「なっ!?」
宙返りからの着地の瞬間を狙って、男はスケートをするかのように地面を滑りながら、頭から突っ込んで来る。
突進技の一種か!?
ドゴオッッ!
「ぐうっ!」
ダウンまでは食らわなかったが、妾は後ろに大きく吹き飛ぶ。
さらに、摺り足で詰め寄る男からもう一度間合いを取ろうとしたが、妾はすでに画面端に追い詰められていた。
いつの間に?
「がっはっは! 逃げても無駄だ!」
やばいっ、ハメられるっ! エロい意味じゃなくて!
「エクレアさん! ジャノンプです!」
突如、戦場に響く幼女の声。
ジャノンプ? ジャンプか!? 相変わらずゲーメストは誤植が多いな!
妾はとっさに真上に飛び上がる。
「もう一度、↑か↗!」
すると画面の端に足がかかる感覚が。もしや?
「ひゃっほーいっ!」
「なにいっ!」
妾は相撲男の頭上を越える大ジャンプを放つ。
これは格ゲーのヒロイン枠がよく使う技、『三角跳び』!
もしかして、FOK2のヒロインは妾か? 妾なのか!?
目を剥くエビフライに、妾は『めくる』ようなジャンプキックを繰り出す。
めくりとは、相手を飛び越えつつ打撃(主に蹴り)を繰り出す業。
妾はお尻で男の脳天に一撃を食らわせながら、すかさず背後に回り込む。
そして、無防備をさらしたその背中に。
「月刀ショコラッ!」(→↓↘+強P)
ザシュッ、ザシュッッ!
妾は男の背中を手刀で斬り上げながら、月弧の軌跡を煌めかせた!
「ぐわッはあっ!?」
対空性能を失ったとはいえ、威力だけはトップクラスの『月刀ショコラ』。
さらに技を裏側から食らわせることでノックバックが逆に働く。つまり、エビフライは妾に向かってのけぞる事になるため、本来なら単発攻撃の月刀がカウンター気味に2発入る。
名付けて、『裏撃ち・月刀ショコラ』!
相手の体力ゲージが、一気に残り5分の1にまで減少する!
「ぐおおおっ……、くそがあっ!」
怒りとともに、突進してくるモンゴル相撲男。おそらくこのモーションは前のラウンドで妾を沈めた乱舞技。
と妾は簡単に見切り、しゃがみ弱キック×2で相手の突進をつぶす。
「があっ!?」
そして、キャンセルからの『暗黒サンダー』ではなく、ここは超必殺技で締めくくらせてもらう。
妾が両手を突き出すと、前方に黒き雷霆が球状に拡がる。
本来なら覇王翔◯拳のような巨大な超必飛び道具。しかし、飛ばなくなった今は近・中距離用の打撃技として使うっ!
「ブラック・ライトニングッ!!」(→←↙↓↘→+強P)
バリバリバリバリバリッ!!
「ぐおおおおおおおおおーっ!!」
ぐおおおおーっ……! ぐおおおおーっ……!(ダウン時のエコー音)
7hitの文字が頭上に灯り、帯電のエフェクトを迸らせながら、エビフライは地面に叩きつけられる。
『エクレア、ウィン!』
「ハーッハッハッ、妾は名前ほど甘くはないぞ!!」
勝利を告げるアナウンスの中、妾は男を見下しつつ勝ち台詞を放つ。
こうして妾は慣れない接近戦を制し、ようやく1つのラウンドを取ることができた。
*
「やりましたねー、エクレアさん!」
魔法使いのような姿をした幼女が、小躍りしながら声をかけてくる。情報屋のムウだ。
「ムウ、先ほどのアドバイスは良かったぞ。あれが無ければ危ないところだった」
「いやあ、エクレアさんが『あとは闘りながら慣れて行くさ』とか言って、次回への引きを意識して何も聞かないで行くからですよ」
ハッハッハ、痛いところを突くな。
『う……、うおおおおおーーーっ!』
そうこうしていると、感電状態から脱し、エビフライは雄叫びを上げて立ち上がった。
「がーっはっはっ! それでこそ、オイドンの嫁さん候補よ!」
「「…………は?」」
はあ? 嫁さん? 誰が?
「オイドンは偉大なるモンゴルッポイ王国の礎を築くため、絶賛婚活中! オイドンが優勝した暁には、この大会に出場しとる女子共をまとめて伴侶にするつもりじゃあ!」
「何だと……?」
「なんですって……?」
いま明かされる、モンゴルッポイ王のハーレム願望!
エビフライはポンポンと自分の腹をさすりながら、妾の身体をなめるように値踏みする。
「当然おヌシもその中の一人だが、少々線が細いのう。オイドンの嫁になった暁には、たっぷりジンギスカン鍋を食って、胸だけでなく全体的にぽっちゃりになってもらわんと、のう?」
確かに、倒した相手の生殺与奪の権は勝者に有るのが、FOKのルール。
もし妾が次のラウンドで敗れれば、ジューンブライドまで待った無し!
「エ、エクレアさん……」
心配そうに妾の方を見るムウ。しかし!
「ハーッハッハッ、ハッハッハーッ!!」
「!?」
「王たるもの、それくらい好色であって然るべき! だが、妾は男に負けた事が無いのでな、妾は妾より強い男でないと嫁ぐ気にはならぬぞ?」
「がっはっはっ、言うのう! ならばオイドンが、おヌシに勝った『初めての男』になってやろうかのう!」
「ハッ! 田舎者風情がなにをほざくか」
どのみち、負ければ全てを失うのがFOK。
ならば、何が相手だろうと恐れず前に突き進むのみ!
「インターバルはもう要らん! すぐに対戦を始めるぞ!」
「いいだろう! 貴様に『黒雷女帝』の威厳を見せつけてやろうぞ!」
「いや、エクレアさんにはまだ技のコマンドをレクチャーしないといけないのですが……」
「大丈夫だ。あとは闘りながら慣れて行くさ」
「さっきも同じ事言ってましたよね? じゃあ、とりあえずインストカードを渡しておきますよ!」
そう言って呆れたように、ムウはアーケードの筐体に張り付けてあるコマンド表を投げ渡して来る。
こんなモノがあるのなら、最初からそうしてくれれば良かったのだがな。
「オイドンは、おヌシを必ず嫁にする!」
「ならやってみろ! このロリコンデブ! あと、ぽっちゃりマニアにおっぱい星人野郎!」
「エクレアさん、女帝の威厳を忘れてますよ!」
『エクレア、バーサス、エビフライ! ファイナルラウンド、ファイッ!!』
※パキスタンは格闘ゲームのメッカだそうです。
(用語説明)
『めくり』:
相手を飛び越えつつ攻撃(主にジャンプキック)を繰り出す事。
相手を飛び越えるか飛び越えないかのところを打点とすると、ガードのコマンドを入れる方向が分からなくなる効果がある。
また、めくりの利点としては、通常なら打撃を加えた時に背中の方向へノックバック(のけぞり)が発生するが、相手の背面から攻撃を加えた場合、背中側にのけぞる事で密着した状態が持続するため、最大威力・最大段数の連続技を決める絶好の機会となる。




