INTERVAL 2 ~エクレアの基本性能~
目の前の、魔女っ娘ロリッ子ボクっ娘が妾に問う。
「まず、最初に確認しておきますが、エクレアさんは自分が格闘ゲームのキャラクターである事を自覚してますか?」
「無論だ」
妾は帝国皇帝『エクレール=G=ショコラレート=バレンタイン』であるが、同時にFOKのラスボス『黒雷女帝エクレア』でもある。
意識の中に刷り込まれたものであるため、仮にどちらが本当の自分かと聞かれても答えようは無いが。
インターバルの時間も残り少ない中、妾は情報屋ムウの質問に手短に答える。
「でしたら話は早いですが、あなたはいま『FOK』の2年後に当たる、『FOK2』の世界に来ているのです」
つまり、続編ということか?
「前作で非業の死を遂げたあなたは若返った姿で転生し、再び世界制覇を目指す……。というのが、2のあなたのストーリーなのです」
なぜか、エッヘンと言わんばかりに胸を張るムウ。
ふーむ、今はやりの異世界転生という奴か。
いや、世界観を同じにしているなら、『同世界転生』とでも呼ぶべきか。
「しかも、今回はラスボスではなくプレイアブルキャラクターとして。ですから、あなたは前作の特徴を引き継ぎながらも、性能が全く違う事を理解してください」
なるほど。生まれ変わったと考えれば、多少の仕様変更は是非も無し。
「では、妾の飛び道具『暗黒サンダー』が前に飛ばなくなったのは?」
「ブラサン(ブラックサンダーの略)はあまりにも強すぎたので、大幅に弱体化しています。相手の飛び道具を打ち消す事はできますが、イメージとしてはほとんど打撃技になりました」
「そうなのか!?」
飛ばなかったのはバグではなかったのか……。
「とはいえ、モーションは飛び道具のままなので、発生も硬直からの戻りも遅いため連携には組み込めません。せいぜい弱パンツの後に繋げるくらいですね」
弱パンツ?
「こういうことか?」
妾はちょっとだけパンツをチラッと見せて。
「ブラックサンダァーッ!!!」(↓↘→+P)
「違いますよ! 弱パンツじゃなくて弱パンチです!」
「パンツと言ったのは貴様だろうが」
「そんなことは言ってません。ボクはちゃんとパチンと言いました」
言ったのか言えてないのか、どっちだ?
「では、無敵の対空『月刀ショコラ』が撃ち負けしたのも仕様変更の影響か?」
「ガトーは、上昇中の無敵が無くなりました」
「何っ!?」
対空技なのに無敵時間が無いだと!?
「しかも、技の発生が遅くなってますので、対空としては正直頼りないです。火力だけは高いので本当なら相討ちを狙いたいところですが……」
「そんな馬鹿な! パワーMAXの月刀ショコラは、10割削る即死コンボだったというのに!」
相手の連続技にすら割り込んで、虐殺しまくって来たというのに!
「ガ上一ショコラに、もうそんなバカみたいな性能はありませんよ」
「何だ、そのガ上ーショコラというのは?」
「なんですか? その『がうえいち』というのは。金田一の友達ですか?」
ムウはおうむ返しをした後、馬鹿を見るような目を妾に向ける。
「いや、それはさっき貴様が」
「ボクはそんな事言ってません。ちゃーんとガトーショコタンと言いました」
しょこたん?
言い間違えにも気付かず、ぷうっと頬を膨らませる魔女っ娘ロリッ子。
こいつ、先刻まで流暢にしゃべってたはずなのに、攻略情報になったら急に『誤植』が目立って来たな。
いちいちツッコむのも面倒なので、これからは意訳するぞ。
「まあ、画面端に相手を追い詰める事ができれば少しは違うかも知れませんが」
「だったら、『メルティキッス』を使えば良かろう。あれならどこにいようが画面端に追い込める」
『崩壊キッス』は突進系の一種で、高速で相手を捉えると滑るように運んで行き、画面端に叩きつける技。
後は永久パターンにハメるも良し、魅せるコンボに繋げるも良しで思いのままだぞ。
「メルティは、2ではボツになりました」
「何ぃ!?」
「あの技はゲームバランスが『崩壊』するので削除されました。あと、相手の攻撃も飛び道具も跳ね返すバリア技『夕闇トリュフ』も削除対象です」
「何だとっ!?」
道理で、あの時トリュフが出なかった訳だ!
「その代わりと言ってはなんですが、エクレアさんには新必殺技が搭載されていますよ。コマンドは逆波動キック(↓↙←+K)です」
おおっ! ようやく妾にも春の訪れが?
「その名も……、『斬刃トルテ』!」
「こうか!」
妾は脚を180度に開いて空中で回転し、弧を描くように豪快に叩きつける!
スパーンッ!
空気を断ち斬る刃の音が、テントの中に鋭く響いた。
「これは……!」
「ザッハトルテはケズリ能力が高い突進技で、発生も早いですから通常技からのコンボも繋げます。起き攻め(相手のダウンに重ねて仕掛ける技)にも使えますよ」
「確かに今までの技と違って、しっくり馴染む感覚がある……」
「と言っても、正直なところ今のエクレアさんには、これしかまともな技が無いのですが……」
確かに、使える。使える技ではあるのだが……。
妾はゴスロリ衣装のスカートをつまんで見せる。
「この格好でこの技を使ったら、パンツが丸見えになるのだが」
ミニスカートだから、パンチラどころかモロだぞ。
「それは、エクレアさん担当プログラマーの熱いこだわりです」
「嫌なこだわりだな」
性癖なのか? コンプラ的に大丈夫か?
「あと、ずっと気になっていたが、ちょっと妾が動くだけで乳がぷるんぷるん揺れるんだが」
ぷるんぷるん♡
「あ、そこはスタッフ全員一丸となって力を入れたところらしいです」
「本気出す方向が間違っているだろう」
という訳で、現在の妾の持ち技をまとめると。
①飛ばない飛び道具『暗黒サンダー』。
②対空性能が無い対空技『月刀ショコラ』。
③パンツを魅せるための突進技『斬刃トルテ』。
……これは、俗に言う無理ゲーではないのか?
「さらに、エクレアさんに残念なお知らせがあります」
「まだあるのか?」
頭を悩ませる妾に対し、またしてもムウは追い討ちをかける。
「エクレアさんは他の人達と比べ、被ダメージ率が1.30に設定されています」
「何……!」
つまり妾は、常に1.3倍のダメージを受けるハンデを背負っているという事か!?
紙装甲ではないか! 体力ゲージの減りが早いはずだ!
「ストリー設定では、あなたが今まで滅ぼしてきた国や人々の怨念、そして転生の際に受けた呪いによるものと言われています」
「なるほど……。妾が今までやって来た、悪行のツケという事か……」
すると、ムウは申し訳なさそうにおずおずと告げる。
「ですが、実際の裏話をすれば、本来エクレアさんは2に登場する予定では無かったそうなんです」
「……何だと?」
「スタッフがダメージ調整のテストプレイのために、ゴスロリニーハイで打たれ弱いエクレアさんを冗談で作ったところ、プロデューサーが気に入ってプレイアブルキャラに昇格されたらしいんです」
妾は、ぷるぷると肩(と胸)を震わせる。
「つまり、妾は『悪ふざけ』から生まれた存在だったという事か……?」
「エクレアさん?」
沈黙する妾に、ムウは慌てた様子を見せたが。
『ハーッハッハッ、ハッハッハーッ!!』
「!?」
「面白い……。面白すぎるぞぉっ!」
ゴゴゴゴゴオッ! と黒雷のオーラを放ちながら、妾は大いに嗤った。
「怒っているんじゃなかったんですか?」
「ハッ、妾は元々死んでおったのだろう? だったら、技が使えなかろうがお色気要員になろうが、生きておるなら儲けモノではないか。妾はなんとツイておるのだ!」
ハーッハッハッ! と高笑いをする妾に、ムウは幼い顔に笑みを湛える。
「さすがは前作のラスボスですね。ボクの目に狂いはありませんでした。やはり、命あってのものだねっ♡ということですね」
ニュアンスは合っているが、そんな可愛らしく言われてもな。
『エクレア選手、次の試合の準備をお願いします』
インターバルの終了を告げるアナウンスが流れる。
「あっ、まだ通常技や超必殺技の説明が終わってないです!」
「いや、これだけ理解かれば上等だ。要は接近戦主体のキャラに変わったという事だろ? あとは闘りながら慣れて行くさ」
情報屋ムウをテントに残し、妾は再び戦場に向かう。
弱体化したからといって、甘く見るなよ?
現世に甦った妾の恐ろしさ、2の世界の者共に篤と刻みつけてやろうぞ!
(用語説明)
『削り・ケズリ』:
必殺技などで、ガードの上からダメージを積み重ねる事。
多段でヒットする技の場合、ガードの上からドガガガガとダメージを与える事が出来るため、『ケズリ能力が高い』などと表現する。