ROUND 1 ~下方修正極まれり~
【操作説明】
レバー操作(8方向):→↘↓↙←↖↑↗
パンチ:P(あるいは弱P、強P)
キック:K(あるいは弱K、強K)
挑発:STARTボタン
「………………む?」
意識を取り戻した妾は、まず自分の首を触る。
斬れていない。繋がっている。
「むむむ?」
妾は飛ばされたはずの首をかしげる。
なぜだ? 妾は死んだはずでは?
「ここは……?」
荒涼とした空の下、見渡す限り広がる赤土の大地に、なぜか妾は立っている。
乾いた風が吹き抜ける大平原。
やたらと胸元と太ももの辺りがスースーする。
「……な、何だこの格好は!」
気がつけば妾はドレスではなく、胸元がガバッと開いた服と、黒のミニスカートと膝上ニーソックスを身につけている。
妾がキョロキョロ見回すと、黒髪のツインテールと巨乳(自慢ではないが)がぷるんと揺れる。
なんだ!? この、ロリではないゴスロリファッションは!!
齢三十五にして年甲斐もない姿に慌てる妾とは対照的に、馬やヒツジの群れがのんびりと草を食んでいる。
また、ところどころに一族郎党が住まうような大きなテントが点在している。
おそらく、これは遊牧民族の住居。たしか名前は……『ゲロ』?
「がっはっはっ! どこの令嬢かは知らないが、こんな可愛らしいお嬢ちゃんがオイドンの相手だとはのう!」
「!?」
目の前に現れたのは、パンツ一丁の大男。
いや、無駄に胸筋を見せつけるような、腕だけを覆った長袖チョッキと、ドラ◯エのスライムみたいな形の帽子をかぶった奇妙な格好。
妾は、男に氷の目線を向ける。
「貴様……、その風体から察するに、変態だな?」
妾に何の相手をさせる気だ?
「違う! オイドンは『モンゴルッポイ王国』の王、『エビフライ=ハーン』! これはモンゴルッポイ相撲の衣装だ!」
モンゴルッポイ王国……、相撲闘士?
「そもそも格好の事を言うなら、おヌシも大概だと思うがのう」
「むっ」
「がっはっはっ、FOK1回戦からオイドンに当たるとは、お嬢ちゃんも運が悪いのう」
たぷたぷとアゴを撫でながら、居丈高にものを言う男。
お嬢ちゃん? それに、FOK……だと!?
「それは一体、どういう……」
『エクレア、バーサス、エビフライ! ラウンド1、ファイッ!』
「何っ!?」
「があああっ!」
まったく状況を飲み込めないまま、聞き覚えがある試合開始の合図が響く。
筋肉ダルマは出会い頭にタックルを仕掛けて来た。
「くっ!」
妾はとっさにバックステップ(←←)を踏み、距離を取る。
よく分からないが、相撲闘士とFOK。
この2つから導き出されるのは、ここが闘いの場であり、目の前の男は倒すべき相手という事。
ならば、考えるのはとりあえず。
「貴様をブチのめしてからにしようか!」
妾は右腕を振りかぶる。構えた右手に黒い雷のエネルギーが集まる。
食らえっ!
(↓↘→+P)「ブラックサンダーッ!」
妾は雷弾をサイドスローのフォームで放つ!
だがっ!
「なっ!?」
ボッ! と目の前に球形の雷が発生したかと思うと、パッと弾けて消えてしまう。
無限の射程を持つ『黒き稲妻』なのに、どういう事だ?
なら、もう一発!
(↓↘→+P)「ブラックサンダー!」
(↓↘→+P)「ブラックサンダー!」
(↓↘→+強P)「ブラックッ、サンダーッ!!」
続けざまに技を繰り出すも、ボッ、ボッ、ボンッと一瞬だけしか発動しない。
「なぜだっ?」
『暗黒サンダー』は恐ろしいほどの発動速度と弾速、さらに追尾機能をも備えた、妾の代名詞とも言える飛び道具のはずなのに。
「前に飛ばないだと!?」
これは……、もしやバグか?
「がっはっはっ、おヌシ何を遊んどる?」
「!!」
頭上に射した影に上を見上げると、巨大な尻が浮いている。
上空からのヒップドロップか!?
「ハッ、妾に空中技で挑むとはな!」
妾は高速反応で対空技を繰り出す。
発生0F(0/60秒、コマンド入力からタイムラグ無し)にして、上昇中は完全無敵の!
「月刀ショコラ!!」(→↓↘+P)
ドガッ!
「ぐっ!?」
だが、予想に反して弾き飛ばされたのは妾。
技の出がかりを潰されただと!?
『ガトーショコラ』は見てから出しても余裕で勝てるはずなのに!?
「な、なぜ……?」
エビフライは突き出た腹をポンポンと撫でながら。
「がっはっはっ、お嬢ちゃんの細腕でオイドンの『アルタイ山脈落とし』に勝てるわけが無かろう!」
「いちいちお嬢ちゃんと呼ぶな!」
女帝に対してなんたる言い草!
さらに男はダッシュで間合いをつめてくる。意外に素早い!
妾は体勢を立て直すと。
(↓↘→+K)「夕闇トリュフ!」
すかさず前方にバリアを展開しようとしたが、今度は発動すらしない!
「なっ!?」
「ぬおおおうっ!」
大きくスキを見せた妾は男に掴み取られる。投げを打たれるのか!?
だがエビフライが選択したのは、サバ折り!
「フンフン、フンフンッ!」
「ぐああああっ!」
ミシミシミシッと骨が軋む音が響く。だが、それよりもなによりも。
この男、妾の胸に顔を埋めて来おるではないか!
「フンフン、フンフンッ!」
「ぐああああーっ!」
鼻息荒く、さらに力を込めてくる筋肉ダルマ。
屈辱的な状況から抜け出すべく、妾は全力(レバガチャ、ボタン連打)でもがく!
ガツッ!
「がっ!?」
ヒジが男の顔面にヒットしたおかげで、妾はかろうじて戒めから脱出する。
しかし、体力ゲージに目を向けると、残りはすでに2割を切って点滅していた。
「まさか!? たったあれだけの攻防で?」
さらに、エビフライはパワー溜め動作を取っている。
まずい!
男の集中を削ぐために挑発行動(STARTボタン押し)を取ったが、なぜか妾は「うっふーん」と言いながら、ピラッ♡とスカートをめくって白いパンツを見せる。
挑発は挑発でも、意味が違うっ!!
ジャキン!
「ごおおおおおっ!」
パワーゲージがMAXになったエビフライは、身体を発光させながら突っ込んで来る。
これは突進技……、いや、乱舞系の超必殺技か!?
「ならば!」
妾は両腕を大きく広げて構え、両手に暗黒の稲妻を纏わせる!
「ブラック……、ライトニングッ!!」(→←↙↓↘→+強P)
数々の格闘王を葬りさった超必殺技。妾は前方に巨大な雷撃を放った!
だが!
「!!」
頼みの綱の超必すらも、ボンッと一瞬で消え失せてしまう!
ドゴォ! ドガガガッ、ガガガガガーッ!
「うわあああーっ!!」
うわあああーっ……! うわあああーっ……!(ダウン時のエコー音)
乱舞技の餌食となり、妾はダンプカーに跳ねられたかのように吹き飛ぶ。
こ、こんな筋肉ダルマに、妾が完封されるとは……。
『エビフライ、ウィン!』
「がーっはっはっ! ジンギスカン鍋を食いたいのう!」
妾は消え行く意識の中で、モンゴルッポイ王の勝利を告げる声と勝ち誇ったセリフを聞く。
こうして、妾は何もすることが出来ないまま、第1ラウンドを落とした……。
(用語説明)
『パワーMAX状態』:
パワー溜め動作や敵からの攻撃の蓄積により、パワーゲージが満タンになった状態。
攻撃力が上昇し、超必殺技が撃てるようになるが、一度撃ったらMAX状態は解除される。
『超必殺技』:
体力が1/4以下の時、もしくはパワーMAX状態で撃てるようになる技のこと。
威力は高いが撃った後のスキが大きいなど諸刃の剣のような技。
パワーMAX状態の時は1回だけだが、体力1/4の時は連発出来る。
なお、体力1/4以下の時かつMAX状態で超必殺技を出すと、エフェクトが派手になりさらに威力も上がる。通称『MAX超必』。