表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その探偵、天才魔術師  作者: 深夜翔
9/16

復活の犯罪者③

社長が連れられて行った後、俺達は当初の目的通り3階を巡回……探索していた。

人が多くなった事も影響してか、他の警備に来ている魔術師にも多く出会った。

やはりこの大きさで通路が複雑だと移動が大変だと言う。ただ、3階にも地図がある事を聞けたので無駄に探す手間は省けた。

「そう言えばさ…」

念の為にもう一度地図を確認し、再び3階を見て回っていた時、ふと気づいたように榊原が声をかける。

「犯人が停電させて何かしようとしているのなら、停電しないと出てこないと思ったんだが」

「確かにそうだな。一瞬だけブレーカーを落としてみるか」

「それが出来ればいいんだけど……機械とかがあるかもしれないのに勝手に落としたら危険じゃないか?」

「ならば、犯人が見ているであろう場所にだけ細工でもするか」

「細工……?」

今度は一之瀬君が怪訝な顔で声を出す。

まぁ細工って言葉が少しあれだったか。

「えっと……榊原さんは驚かないんですね」

「ん?ああ、この状況でやる細工って言えばあれしか無いからな。実は高校生の時に何度かやってるんだよ。学院祭とかのステージの時にね。まぁ裏方の仕事だったから知ってるのは俺を含めた数人だけ」

俺の過去の話をしても何にもならんだろうに…。

「細工は歩きながらでもできる。さっさと移動するぞ」

「神谷って自分の事話されるの嫌いだよな」

「そうだな」

ここで無理に反論するとめんどそうなので適当に流す。案の定、微妙な表情をする榊原。

一之瀬君の興味あります見たいな視線が刺さるが、口が動く前に足を動かす。

何故か残念そうな顔をする2人を連れてさらに探索を続ける。細工をすると言った以上は、もう一度同じ通路も通らなければいけない。

時間には余裕があるものの、早めに行動に出たいので急ぐことにしよう。


そして、それから数十分。

どうにか2時前に準備、細工を完了した。

細工を完了と言うのは何だか悪者のような台詞だが、まぁやってる事は同じようなモノだ。

「この後は?」

ラックが微妙に眠そうな声を出す。

俺は時間を確認する。

相手が時間を設定していたという事は、その時間に何かがあるのかもしれない。

もちろん無いかもしれないが、どちらにせよ時間にシビアに動かざるを得ない。

「まだ少し早いが一旦社長室に向かう」

「了解。………悪い電話だ」

移動を開始する直前に榊原のスマホが音を鳴らす。

「先に移動しているぞ」

電話の相手がだいたい予想がつくので、ここで待っている必要も無い。第一、榊原もこれからする事を分かっているので一緒にいずとも大丈夫だろう。

一之瀬君を連れて社長室に向かう。

「あの……亮さん、これから何をするんですか?」

「ああ、犯人側が停電を企んでいると見て、それを利用する。まぁ見てれば分かるが、なるべく離れないようにな」

「な、なるほど……了解です…」

具体的に説明をするのはここでは避けたい。

何となく状況を理解したのか申し訳なさそうに了解した。

「やっと着いた」

思ったよりも遠くにいたようで途中から時間に急かされ走って来た。時間まで後5分。

とりあえず息を整えて扉をノックする。

「失礼します。警備の神谷です」

「あ〜どうぞ〜」

中からとてつもなく緩い返事が聞こえる。

あまりに緊張感の無い返答に、こちらだけ丁寧なのも馬鹿らしくなったので普通に扉を開ける。

中に入ると、椅子に腰掛けコーヒーを飲んで寛いでいる社長がいた。

「突然で悪いんだが、2時15分に何か無いか?」

入るなり突然の質問に、中にいた副社長と社長が顔を見合わせて首を傾げる。

「特に無いなあ……だからこうしてコーヒー飲んでるわけだし」

「私の方でも特に何もございませんね」

「そうか……」

俺も一通り部屋を眺めるが、午前に来た時と変わった場所は無い。強いて言うなら社長の雰囲気だけ。

社長が狙いでは無いか。

別の可能性を考えようとして、疑問が浮かぶ。

「そのコーヒーっていつもこのくらいの時間に?」

「んー?そうだな。ピッタリという訳では無いけど、毎回2時とか、そんくらいに休憩するし」

残り3分。

「副社長も同じものを?」

「ええ、私も1日ずっと張り詰めているのは大変なので」

何となく犯人のしたいことが分かったような気がする。

「にしても…ふぁ〜やっぱりこの時間は眠くなってくるなぁ……」

「社長、しっかりと……してください…」

考えがまとまるのと、目の前で2人が寝始めたのがほぼ同時。そして残り1分。

「あ、あの…亮さん?どういうことなんでしょうか…お二人共寝てしまいましたけど」

「おそらくだが、そのコーヒーに睡眠薬か何かが入っていたのかもしれない。……犯人は、この時間に社長達が休憩するのを知っていたのだろう」

軽く調べた感じは、特に異常は無い。純粋に寝ているだけのようだ。

「さて……」

そろそろだと時計を確認すると同時に、スマホから時間を知らせるアラームがなる。俺は音を消すよりも早く、パチンッと小さく指を鳴らした。

「ひゃっ」

瞬間、この部屋からみえる場所全域が停電……暗転した。いや、ように見えた。

突然の暗闇に、一之瀬君が小さく悲鳴のような声をあげる。

もちろんここにいる全員が例外なく暗闇で何も見えない。ただし暗闇に覆われたのは僅か10秒。気づけば何事も無かったかのように辺りを電球が照らす。

そこには、驚いた顔の一之瀬君と……もう1人。

手に小型ナイフを握った女が部屋の中央に。

「わっ……だ、誰?」

「………」

今日は、一之瀬君がいつもより女の子っぽい反応をするな。

女の方は部屋の明かりが付いた事に動揺しているようで、こちらに反応しない。

「さて、どうしてこんな事をしたのか話して貰おうか」

「…!なっどうして……失敗した?」

俺から話しかけると、意識が戻ってきたように慌て始める。電気が復活したのが相当驚いたらしい。

「明るくなるのが早すぎるって顔だな。残念ながら、停電は元からしていない。俺が魔術で暗くしただけだからな」

「なっ何故!」

頭の整理がついたのか、俺の発言に反応する。

「何故?機械のある部屋に電磁波の魔術が設置されていておかしいと思わないわけが無いだろう…」

「なんで知ってるの…」

「雇った奴らがハズレだっただけだ。それよりもこちらの質問にも答えてもらおうか」

俺は1歩近づく。

「くっ…"トランスパレント"」

女が口に出すと、視界から女の姿が消える。

透明化……魔法か、留学生だったのか?

「一之瀬君、扉を塞いでおいてくれ」

「は、はい!」

こうなると、女がとる行動は2つ。さっさとその場を離れるか、何としても目的を達成させるか。

「"エリアディフェンス"」

とりあえず、社長の周りにバリアを張る。範囲型の防御領域だ。

外国の魔術、魔法を見るのも使うのも久しぶりだ。

言語が日本語以外の魔術は、一般に『魔法』と呼ばれる。魔術と魔法は厳密に違うとされていて、分かりやすいもので言うと使用する際に消費するものが違う。魔力と言っても場所によってそれが指すものが違うと言うことだ。後は地域の魔力の特徴などが関係する場合もある。

しかし、日本は古くから優秀な魔術師が多かったので、日本で使われる魔術は全て日本のものだ。

なので、日本での『魔法使い』はかなり珍しい。

……今はそんな事は気にしている場合ではないか。

「"熱源感知"」

透明であろうと、存在そのものを隠さない限り体温を隠すことはできない。しっかりと感知に女の姿が引っかかる。

「"拘束"」

俺は無力化するため帯を放つ。

地面から湧き出た帯は、一直線に女に向かって動く。それに気づいた女は、自分の位置がバレている事に驚きながらも迫り来る帯を見事に切り裂く。

どうやら中々の腕を持っているようだ。

透明化が効かないとわかると、身体強化の魔術に切り替えたのか急ぐように走って社長へとナイフを振り下ろす。しかし、そこには防御領域を設置済み。

キンっと甲高い音を立ててナイフが弾かれる。

「なっ?!」

防御膜に弾かれたその一瞬を逃す手はない。

切り裂かれた帯を修復し、再度無力化を図る。

「同じ手をッ!」

先程と同じ様に帯を切ろうとナイフを構えるも、そのナイフが帯を斬ることは出来なかった。

「人を強化する魔術があって、物を強化する魔術が存在しないはずが無いだろう」

「な……二重構築ッ?!」

珍しくはあるが、そこまで驚くものか?

が、女は防げないと分かると弾かれる反動を利用し机の反対側に飛ぶ。

「"重力場"」

「きゃっ!」

体が空中にある状態で、周りの重力が極端に重くなり地面に叩きつけられるように落ちた。

一之瀬君が魔術を使ったのだ。タイミングもバッチリ、流石だ。

しかし相手は強化魔術を使っている。

立ち上がるのに苦労してはいるが、案外すぐに体勢を立て直す。

俺は隙を見計らって強化魔術を使うと、女の懐へ踏み込み相手の防御に合わせて拳を振るう。

案の定手をクロスにし防御したが、そこに追い打ちを仕掛ける。

「"衝撃波・風"」

すると俺の拳から波紋上に風か巻き起こり、勢いよく女を吹き飛ばす。純粋な衝撃波とは違うので、手が骨折したりと言うことは無いはずだ。

壁には薬が入った棚が並んでいるので、念の為に障壁を女の後ろへと展開。吹き飛ばされた女は障壁へとぶつかる。

「"シャドウバンド"」

衝撃で怯んだところに、あんまり活躍が無かったラックがこれみよがしに女を拘束する。

影を使った上級魔術。

「ラック、海外の魔術なんてどこで覚えたんだ」

「ご主人の本棚の中に日本以外の本が入っていて、気になったんだ。これはその副産物的な?」

さては天才か。

いやまぁ結果的に女を拘束できたのだから良しとしよう。

「さて、先程の質問に答えてもらおうか」

俺はもう何度目かの同じ問いを投げかける。

「どうしてこんな事をした?」

「………」

話す気は無い……か。

魔術を使えば話させる事はできるが、尋問のようになる事は警察の正式な許可がいる。

こっそりやろうすれば、訴えられるのはこちらだ。

「神谷!」

どうしたものかと考えていると、入口から榊原が戻ってきた。タイミングがいい。

「如月はなんて?」

「ああ、社長に付いてなんだが……」

「あの女は闇取り引きをしていた!私たち社員に黙って!」

榊原が詳細を話す前に、それまで黙っていた女が叫ぶように言い放った。

「あいつは……私の…私の人生を…狂わせた癖に

自分は偉いからと……犯罪に手を染めて…あんな適当な人間が……あんな…」

何かを思い出したのか、涙を流しながら恨むような目で訴えてくる。

「私には…母親しか居ない。その母も未だに判明されていない病気で、後何年持つか分からない。だからせめて、私が何か功績をあげて…立派になったところを見せてあげたいと、必死に勉強して、研究して、成果を出そうと努力した。もちろん、社長にもレポートや論文を見せたけど…却下されて。諦めずに何度も…。

なのに…あの女は、そのレポートも論文も!見ずに却下していた!ろくに中身も見ないで!私は聞いたんです……何度目かの提出をしに社長室に来た時扉越しに。『あんなモノ見る必要は無い。価値がない。本人が気付かぬうちは当分無理だろう』って」

なるほど。必死に頑張ったモノを、真っ向から否定されて、その意味も分からないとあれば恨みもするだろう。

「しかも、当の本人は社員に黙って」

「そうか…。それで、そっちは何か弁明があればどうぞ」

俺は机の上に突っ伏して寝ているように見える社長へと声をかける。

「…あははバレてたかー。結構自信あったんだけど」

すると、案外素直に顔をあげて苦笑いする。

そう、この社長、初めから寝てはいなかった。寝たフリをして俺たちの行動、話、全てが聴いていたわけだ。中々の策士だな。

現に攻めてきた女と一之瀬君は、驚いた表情を見せる。

「えっと…大山琴香おおやまことか…でいいよね?あの時の話を聞かれていたのはびっくりだけど、多分勘違いしてるんだ」

社長は机から立ち上がると、横の棚を開けて、中から数十枚のプリントを取り出す。

「君は初めてこれを出しに来た時に、私が質問した事を覚えているか?」

社長は紙を持ったまま椅子に座り直すと、和やかな顔で続きを話す。

「何のために書いたのか、何を目的としているのかって言ったはず。それに対して、母親に立派な姿を見せたいと。もうすぐ亡くなってしまうかもしれないからと、そう言ったね」

しかし、そこまで言葉にした社長は、唐突に真剣な表情を作り、女、大山を真っ直ぐに見つめた。

「私はそれが気に入らない。聞いた話、君の母親はまだ50代だと言うじゃないか。なんで諦めた!どうして死ぬ前に…なんて悲しい事を言うんだ!解明されていない?発見されていない未知?ならば解明すればいい、研究すればいい。何故治そうとする努力をしないんだ?何のための薬だ!」

社長の声は冷静だが、言葉の重さ、何より目がその怒りを雄弁に語っていた。

社長は、見捨てていたのではなく、考え直して欲しかったのか。残された時間ではなく、その先の未来を作り出すために。

「え……いや…だって…社長は…犯罪を…私はこの目で見たんだ!」

「??さっきも言ってたけど…犯罪って?」

この感じ、やはり何かが食い違っているように見える。

「榊原、調べて貰った情報の続きを話してくれ」

「何かあると思って調べさせたんだろ?案の定、情報が出てきたぜ」

榊原は警察官らしく内ポケットからメモ帳を取り出すと、如月に聞いたのであろうメモを読み上げる。

「月に1回、そこの社長の口座から数十万の金額が下ろさせているらしい。用途なんだが……」

「そうだ!やつは会社の金を何かの犯罪に使って……本人の…口座?」

「えーっと、そのお金はこの近くの孤児院に寄付されていると言うことが分かった」

「「!!」」

榊原からの発言に、女と社長が各々驚きの表情をする。

「そうか」

彼女の言っていた犯罪、取引と言うのはおそらくその現場なのだろう。社長に対して恨む程の感情を持っていたのであれば、その行動をおかしいと尾行でもしたのかもしれない。

そこでその現場に居合わせてしまったと。

「社長。隠していたモノを探して申し訳無いが、念の為に説明をしてもらっても?」

俺が説明を求めると、社長は軽くため息を付いて苦笑いした。

「まさか調べられたとはね。しかもあれを見られていたなんて…誤解させてしまったのは悪かったよ」

社長は謝罪の言葉を発して立ち上がり、先程の資料とは別のファイルを取り出す。

「実は、私は孤児院出身でね。まだ赤ん坊の時に両親が死んでしまったらしく、物心ついた時には既に孤児院にいたんだ。

もちろん不自由無しとはいかなかったけど、私にとって優しく育ててくれたあの場所が家だった。でもまぁ…世の中そんなに甘くは無くてね。その孤児院を経営するためにはたくさんの金が必要だった。

国からの支援があるとはいえ、子供が1人病院に連れて行くことも困難だった。

ある時、そこで育ててくれた女性の1人……シスターってイメージが強いと思うけど、そんな立場の大人が重い病で亡くなった。私の面倒を見てくれた、私の中で1番母親に近い人が。自分の治療費をけずってまで私たちのの面倒を見ていたんだ。

それを聞いて私は決心したんだ。大きな会社で薬を作って、救うって。孤児院を……守るとね。

まぁそこから色々あって今に至るんだけど…定期的にその孤児院にお金を渡しているんだ。院長はいらないと言うんだけど、私が押し付けて渡している」

これだけで守れるとは思ってないけどね…と自虐気味な笑いを見せる。

「そ…んな……全部…私の勘違い……?ハハハなんだ…そっか…。馬鹿だなぁ私…」

社長の話に彼女は涙を零しながら笑っていた。

涙で濡れているのに、とても乾いた笑みを。

「探偵さん…ありがとうございます。間違っていることに…気がつけたので…。私、お母さんに謝って来ないと…」

「……それはまだ早いだろう」

俺は確信を持って答える。ここで諦める事は許されない。背負っているものがあるのだから。

ただ、彼女の笑みを本物にする事ができるのは残念ながら俺ではない。

俺は何か考えがあるだろう人に向きを変える。

ファイルを開いたまま何かを考えて固まっている社長へと。

「何となく心を読まれているような気がするなぁ…。あんまり深く読みすぎるのもどうかと思うよ私は」

「悪いな。そういう人間な者で」

短くやり取りをした社長は、大山に近づいて傍にしゃがむ。下を向いて項垂れている彼女を覗き込むように。

「私はまだまだやるべき事がある。まだ救える人が山ほどいるはずだからね。そんでまず手始めに身近にいる誰かを思う女性を救うために薬を開発して見ようと思うんだけど……君も手伝ってもらおうかな。もちろん拒否権は無いがね」

泣き崩れていた彼女は、そんな社長の言葉にハッとする。ゆっくりと顔を上げると社長と目が合ったようで、顔を赤くして俯いた。

「わ、私なんかが……いいんでしょうか……殺そうとして…」

「言っただろう?拒否権は無いとね。社長命令だからね……おっと探偵くんの前だとパワハラで捕まっちゃうかな?」

どうやらこちらはこれで解決のようだ。

「残念だが、探偵にそこまでの権利は無いな」

とりあえず社長の照れ隠しに乗ってあげる事にする。

後のことは俺が口を挟む意味も無い。

邪魔しないよう、俺たちはしばらくの間部屋の外で待機しているとしよう。


【月会製薬 屋上】

社長室内の2人を待つため、暇つぶしにと俺たちは屋上に足を運んでいた。

正確にはもちろんやるべきことがある。

「亮さん、良かったですね。社長たち、仲良く慣れたみたいですし」

仲良く……とは少し違うかもしれないが、こういう発言が、一之瀬君はまだ子供であると実感する。

正直、日頃の行動や発言だけ見るとその辺の大人よりもよっぽど大人びて見える。が、知識の量…語彙力などはまだまだ中学生なのだ。

「ただ…本来の目的とは違いましたね」

「いや、目的を達成できるかは分からんが、少なくとも予想通りではあった」

「……?どういうことですか?」

俺は屋上の奥に進み、深呼吸をする。

その行動に、一之瀬君は不思議そうに見つめる。

「相変わらず偽る事は得意なんだな」

話しかけた相手は、屋上に来てから1度も言葉を発していない1人。俺の言葉に目を細めた榊原に。

「なんの話だ?」

気づいていてとぼけるのか。

「まず…、何故如月に連絡してくれと言った時に、外で待機している部下に頼まなかった?

時間があるとはいえ、潜入中に誰かに電話なんてかけないよな」

もはや隠す気は無いのか、ニコニコと笑う榊原のような誰か。一之瀬君は、まだ分かっていないのか顔をキョロキョロしている。

「んで、電気室に行った時。明らかに誰かが入って来た事を残す汚れ。何より小窓近くの違和感。どうせ小動物にでも"変身"して通ったんだろ?中に入ってからさらに魔術を使った。ついでに誰か……いや、俺に来たことを伝えるためにワザと足跡を残した。違うか?」

「………何故俺だと?」

「俺がお前の……あのの魔術を忘れるわけが無いだろ。あれだけ強い違和感を感じれば嫌でも気づく」

「ふっ…それもそうか……」

その男はやれやれと首を振り笑った。

すると俺の視界が…実際には榊原の体がぼやけるように変化している。デジタルのテレビにノイズが走るようなイメージだ。

「俺の魔術を見破れるのは、後にも先にもお前だけだよ…亮」

魔術が解け、しっかりと視認できるようになり目に入ってきたのは白髪の男。瞳は青く、整った顔立ちの俺と同じくらいの身長。

「相変わらずだな、俺はあの時死んだと思っていたんだがな、ギル」

「俺も死ぬかと思ったがな。ちょっとした対策をしていただけだ。亮と違って魔力の質が良くはないんでね」

呆れ顔で悠長に話すギル。

からよく話す奴だった。他人の目を気にして、自分の事は後回し。そして、努力家。

「あ、あの……この人は…?」

戸惑っていた一之瀬君が気を取り直したようで、小さく質問する。そういえば説明無しに話し始めてしまったな。

「あいつは、今回の俺たちの目的の人物だ。"ギルト"。今朝の事件の犯人もこいつで間違いないだろうな」

「えっ?!」

俺の顔をとギルを交互に見て驚きを隠せない様子だ。犯罪者と知り合いだって言えば当たり前か。

「それで?こんな所で正体を明かさせて…捕まえるか?」

「……本当は今すぐにでも捕まえて、1発ぶん殴りたいところだが。今回はどうやら助けて貰ったようだからな。見逃してやる」

俺は一之瀬君を見て頭を撫でる。

わけが分からないとあたふたしているが、仕方の無いことだろう。

大山に雇われていたのだろう魔術師が社長室から出て来た時に、壁に寄りかかって倒れていたのだ。

おそらく、失敗した時に物量で何とかしようと推しいる準備をしていたに違いない。

あの時、扉の前には一之瀬君が守っていた。

襲われていたら、怪我では済まなかったはずだ。

「さて、なんの事だか」

本人はとぼけているが、どうせ倒したのはこいつなのだ。仮だとは思わないが、助けられた事実は確かだ。

「それにギル、お前は社長たちの事を知っていたな?予告状が偽物と気づいていて何をしに来たんだ」

「ああ、別に興味はなかったんだがな。お前が来ると言うんでな。伝えたい事があった」

「俺に?何を」

聞き返せば、ギルという一人の男が、心配するようなそんな顔をする。

そして、ただ一言。

「気をつけろ、狙われているぞ」

その瞬間、テンプレのように強い風が吹き、気がつけばその姿は見当たらなかった。


【月会製薬 社長室】

屋上で一悶着あった後、社長室に戻ると副社長、社長、大山が仲良く話をしていた。

というか、社長が全力で副社長を煽っていた。

「あ、あの……しゃ、社長?さすがにそろそろ…」

「いやぁ〜ずっっとドンパチしてしてたのに?一回も目を覚まさないどころか?快眠並にいい寝起きで?いつも私に文句言っておいてねぇ〜」

うわ……とてもウザイ。伝わらないだろうがそれはもう言葉と表情の2段構えでウザイ。これが社長のする事なのか。

「あ!ほら、探偵さん達戻ってきましたよ!そろそろ辞めた方が…」

「いやいや、だってねぇ?いつもの行動に対しての謝罪の1つはないとねぇ?」

あ、ほら。あの真面目な副社長がすごく泣きそうな顔をしている。

「失礼しますよ社長」

俺は一応開いている扉をノックして入ると、正面から眺める。

「おっと探偵君!聞いてくれよ!この副社長君はあの大事な時にぐっすり寝ていたんだよ?」

「……そうですね…」

俺は1泊置いてから答える。

「仕方ないのでは無いでしょうか?」

「へっ?」

キッパリと否定すると、やべっみたいな表情をする。そう思うならば初めから煽らなければいいものを。

「副社長はコーヒーに睡眠薬が混ざっているとは思っていないでしょう。社長が教えていれば良かっただけでは?それに、日頃の疲れが溜まっていたんでしょう……その原因も社長にあるのでは無いですかね?」

こちらもわざわざ敬語で反論してみる。

「………あは」

「社長?そうですよね社長?私に意見できる立場ですか?」

俺の言葉に思い出したのか、泣きそうだった副社長は形勢逆転。日頃の鬱憤を晴らすかのように説教が開始された。

これは天罰だろうな。

仕組んだわけでは決して無い。

社長が裏切ったな…みたいな顔でこっちを見てくるが、とりあえず目を逸らしておく。

「社長?どこ見てるんですか?しっかりと反省してください」

「はい……申し訳ございませんでした……」

それからしばらく説教は続いたが、俺達を待たせては悪いと早々に切り上げた……らしい。

「あ〜ゴホン。とりあえずありがとう、と言っておくよ。どうやらこちらの問題に巻き込んでしまったようで。まぁ初めから警備が目的では無かったみたいだけど……」

バレていた、と言うよりもこちらに隠す気が無かっただけとも言える。結果として全て悪い結末にならなかったので良かった。

「そっちは気にしなくてもいい。目的とは違ったが少なくとも情報は得た。それよりも今日の警備の仕事はどうする?一応時間まではやらせてもらうが」

「そうしてくれると助かる。一気に会社を大きくしたせいで警備が追いついていないのは確かでね。今日だけでいいから引き続きお願いするよ」

色々あったが、お金を貰っている以上は最低限の仕事はする。

初めの予告状の件はハズレだったが、名目上警備の仕事を受けたのだ。残り時間は適当に見て回りながら警備をしよう。

「そうだ、君は探偵だよね。予想で探偵くんと呼んだけど否定しないと言うことは正しかったのかな」

そういえばそう呼ばれた気がする。人を見る目に、相応の強さ。この人、性格以外は社長らしいな。

「ああ、一応探偵をやってはいるな。あまり普通の人が依頼に来ることはないが」

「ん〜そうかぁ〜。じゃあもしも何かあった時はお願いしようかな」

「あまりお願いされるような事が起きない事を祈るよ」

俺は事件やら捜索は自分から首を突っ込みたくは無いんだが。こういう仕事をしている以上、他者からの信頼ほどありがたいモノがないのも事実。

出来れば平和なままであって欲しいが。

一通り話終えると、俺たちは社長室を後にし警備へと戻る。長い時間が経ったようで、実は1時間程度しか過ぎていなかった。

多少の疲れを残したまま、長い廊下を歩く。

「今日はもう大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思いたいな」

結局、その日はこれ以上何事もなく無事に仕事を終えた。事務所に帰った時には既に10時近く、風呂や飯を終えればすぐに睡魔に襲われ寝たのだった。


ちなみに本物の榊原は、外で待機していた部下と一緒に車で爆睡していた。

本気のデコピンだ粛清したのは言うまでもない事だろう。

やること無し、お金も無し、やる気も無し。

そんな三大無しが続くとどうなるか。

簡単だ、虚無。それはもう人生と言う有限の時間を無駄にする最悪の時間がすぎていくだけ。

もったいないと思うか……俺だってそう思う。

でもダメだ。やる気が出ない。致命的に。

そして、それを解決するにはこの一言で十分だと。1人諦めムードで思う。


全ては暑さのせいであると!


………。

あ、どうも。今回も読んでくれた方ありがとうございます。深夜翔です。

なんだか前置きが長くないかと言われると反論の余地もありませんが。書くことが無いんで……ね?

もちろん、読んでくれた方への感謝を述べろと言われれば、それはもう描ききれないほどの感謝感激が。

もはや内容にすら触れないのはダメでしょうかね。

……次回も読んでくれると嬉しいです!

ではまた…さらば!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ