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その探偵、天才魔術師  作者: 深夜翔
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探偵の仕事

探偵の仕事

“強い人はな、人の弱さを知っているものだ。お前は強い。だから人に寄り添ってやれる人間になりなさい。これはお父さんとの約束だ。それから…“

お父さんは言った。

“強く生きるんだぞ”

そして少女は落ちていった。

少女はただ泣くことしかできなかった。

そのあとの記憶は少女には無い。あるのはただ、何かを守るかのような強い顔をしたお父さんだった。


 【N区とある美術館】

「俺じゃねえ、なんで俺なんだ」

男はよく響く声で叫ぶ。自分は決してばれないだろうという自信があったのだろう。それもそのはず、ここには1000人を超える人がいる。確率的には1000分の1。今のところ充分な証拠は無い。我々警察には。

「………」

叫ぶ男を名指しした男。しばらく天井を見つめ黙っていた。何かを探す…と言うよりも確認しているように。そして…

「証拠はある」と、その男……探偵神谷は言った。

その瞬間神谷の手が黒く輝き、隠していたはずのロープが天井にひっ掛かっているのが確認できた。正確には突然出現したように見えた。神谷はそれを手に取る。ロープには血が付着しているようで、男がだんだんと青ざめていく。

「な、なんで。」

「見つけるのは案外難しくなかった」

「そんなはずはない!だって……」

「自分の魔術が見つかるはずないと」

男は驚いた様子で神谷を見返す。

「光を無理やり捻じ曲げて視界から消す、こんなにも細かな魔術の操作は少なくとも普通の魔術師には無理だ」

「ならどうして」

「簡単さ。光を消してやればいい。先程のは一瞬だけこの空間の光を遮ぎる魔術だ。一度光を消してしまえば、新たに魔術を発動させなければいけない。違うか?」

「そ…んな」

男はその場に膝をつきうなだれた。

「それほどの技術を持っているならば、もっと別の使い方があっただろう。魔術どうぐはそれなりの知識と常識を持って使用しなければ危険な物だ。お前はその使い方を間違えたに過ぎない」

反論の意思も無いようだ。もう言い逃れはできないだろう。

神谷がこちらを向いた。

「あとは君たち警察の仕事だ。俺は帰らせてもらう」

神谷はそう告げると出口に向かって歩き出した。俺は慌てて追いかける。

「今回もありがとよ、助かったぜ」

「依頼だからな」

「そこは幼馴染の頼みだからと言って欲しかった」

「お前個人にはほとんど関係ない事件じゃないか。依頼でなければこんなとこまで来てたまるか」

「ハハ、そうだな」

相変わらずつれない奴だな…

すると遠くから「榊原さん」、と声がする。部下が呼んでいるようだ。

「悪いな、それじゃここで。またな」

「ああ」

俺は呼ばれた方へと走っていく。

神谷は特に呼び止めもせず、出口へと歩いていった。

 

 【神谷探偵事務所】

「で、今日は何の用だ」

ソファに座り目の前の友人を睨む。

「歓迎されてないな。そんなに悪い話をしに来たわけではないんだけど」

「日頃の行いをよく考えるんだな」

今は休日の朝9時を回ったところだ。事件解決後に榊原が訪ねて来る事はいつものことだが、今日は別の要件があるように見える。しかも前の事件から2週間もたっている。嫌な予感しかしない。

「いつも悪いとは思ってるよ。今日はちょっとした相談みたいな感じだよ」

「相談?また事件の捜査か?」

「事件…と言っていいのか。魔術が関係してるとは思うけど、事件なのかどうか分からない。何も起きていないからな…」

「説明を端折り過ぎだ阿呆が。まず何があったのか説明しろ」

「ああ、すまん。…実はな、最近都内で頻繁に魔術が使用されたような痕跡が確認されているんだ。しかもとてつもなく強力な」

「……魔術の痕跡か。それが相談したいことか?」

補足しておくが榊原は、警察の中でも魔術師隊という魔力の高い者しか入れない特殊な部隊にいる。普段は普通の警察と同じ仕事内容だが、魔術の絡んだ事件や揉め事が起きると優先してその現場に向かう事になる。拳銃とは違い、誰でも何処でも使用することの出来る強い力は、対抗できる…抑えることの出来る者がいなければ荒れる。人殺しが許される世界ならば世界は殺戮の戦場へと成り下がる。強い力には抑止力が必要なのだ。

特に魔術は誰でも使える。だからこそ取り締まる警察はより強い者が必須。そのための魔術師隊というわけだ。

俺の質問に、榊原は申し訳なさそうに…はせず、いつもの事のように話す。

「ああ、少し気になることがあるんだが確証がなくて」

「確証がないなら確かめに行けばいいだろう。大体なぜ俺のとこに来る?何かあったからわざわざ来たのではないのか」

「実は…何も起きてないんだ」

「は?」

「だから何も起きてないんだよ。これだけ大きな魔術の痕跡が、何か所も見つかっているのに」

「ならいいじゃないか。そんなもの気になるなら自分で調べたまえ」

一人一人の気になるを真剣に聞いていたら、時間などいくらあっても足りない。本当に重要なこと以外は本人が自分の頭で考えるべきだ。何よりわざわざ関わりたくもない。

俺は無駄だと立ち上がり扉へと向かう。

「待ってくれ!まだこの話は続きがある。魔術の痕跡は1種類なんだ。しかも見たことのない形だった。上層部は事件性は無いだろうと言っているが違う、俺には何かの準備をしているように感じてならいんだ」

ほう。俺は友人へ視線を向ける。

「それで俺のとこへ来たということか」

「そうだ」

ソファへ座りなおす。

「とりあえず、痕跡とやら残っていた場所を教えてみろ」

「それなら地図にメモしてたはず……、これだ」

そういって榊原は一枚の地図を机に広げた。地図にはたくさんの赤丸がついている。こいつも自分なりにしっかり調べていたみたいだ。だが残念な事に、こいつは昔から頭が悪い。いわゆる脳筋ってやつだ。実力行使で止める事件もある以上こういう奴もいるべきなのだろうが、難しいことを考える能力が無いのは致命的だと思っている。

「ここが初めに見つかった場所だ。そしてここが次、こっちが…」

榊原は丸のついた場所を指さしつつ、発見された順に番号を振っていく。実に50以上はありそうだな。

「…そしてここが今の時点で起きている最後の地点だ」

最後の場所に丸を付ける。地図上に現れたのは二重丸のような模様。だからなんだと言うか、二重丸など探せばこの世に溢れるほど転がっている。

身近で言うならば魔術を使うための魔法陣なんかも…………

「ん?」

「どうした、何か気になることでもあったか?」

「記した丸の順に線を引いてみてくれ。繋げるのは発生した番号の順だ」

榊原は首を傾げつつ俺の言う通りにして、地図上の丸を繋ぐ線を引いていく。40まで引いたとき榊原が「あ、」と声を出す。流石の榊原も気づいたようだ。

「これは魔法陣?しかもこの形状…」

「爆破魔術の形状とよく似ているな。見た通りかなりの規模だ。この日本の首都を消し飛ばす程度に」

「待ってくれ、それならこれは」

そういいながら急いで線を引いていく。現れたのは未完成の魔法陣だ。3か所ほど欠けている。

「そう、これはまだ完成していない。そして次の場所は……ここだ」

俺はそう言って指をさす。

「ここって…」榊原は言う。

「ああ、この事務所の付近とみて間違いないだろうな」

この事務所は都内の住宅街の割と中心に建っている。この辺りでそんな強力な魔術を使えば流石に気づくと思うが。

榊原がこちらを見て言う。

「何故ここだと分かるんだ、他にも完成してない場所がある」

「馬鹿かお前は。さっき番号を振っていっただろうが」

「ああ…?」分かっていないようだ。

「俺は番号の順に線を引けと言った。魔法陣の形成にも書き順、要は形成する順番というべき物が存在する」

「あーそうか、魔法陣を紙に書くことなんかほとんど無かったからな。流石に天才魔術師なだけはある。着目点が俺とは違うなぁ」

「やめろ、その呼ばれ方は好かん」

「いいじゃないか。俺としてはお前が魔術師隊最強だということが誇らしいんだぞ。お前が小さい頃から熱心に魔術を研究していたのを知っているからな。戻ってきてほしいとも思ってる」

「…悪いが別に戻りたいとは思っていない」

「知ってるよ…」と少し悲しそうに友人は言う。昔からこいつは人の事を良く見ていた、いい意味で、だ。個人的には褒められる長所だが、……本人に言うとめんどくさいので言っていない。

「それよりも」と話を戻す。

「お前の話だと見つかるのは夜になってからということだな」

「そうだ、念のため今のうちに準備はしておくべきだと思う」

「とりあえず外に行くか」

そう言って榊原と玄関へ向かう。

「すまん、その前にトイレ借りてもいいか」

「先に外にいるからな」

引き返していく榊原を気にせず、先に外へ出た。

涼しい風が吹いている。いい天気だ。まだ少し暑いがなかなか過ごしやすくなってきたと感じる。今年の夏は異常に暑かった。

そんなことを思いながら庭を見渡す。一人で暮らすには少し広すぎるとも言われるが、しっかり手入れもしている。ここは探偵事務所だ。見た目は綺麗に越したことはないだろう。

「鍵は開けたままでいいのか」

榊原が戻ってきたみたいだ。

「大丈夫だろ。少しこの辺りを確認するだけだ」

「警察としてはその発言は不安になるが…まあいいか」

おい警察官。

そこは妥協してはいけない部分だろうが。

「……はぁ、確かに最近は物騒だ。念には念を…とも言う」

俺はポケットから鍵を取り出す。

扉に鍵をかけると、少し驚いたように榊原が言う。

「神谷は手動の鍵を使ってるんだな。今どきは魔術を使った遠隔操作が主流だと思うが」

「あれはいまいち信用ならん。侵入を防ぐのなら鍵を使用する方が安心できる」

そもそも、ここの扉は反魔術結界が張られている。簡単な魔術では壊すどころか、開けることもできない。だが魔術にこだわりすぎると、物理的な対策をし忘れる者が増える。その点昔ながらの鍵は結界と組み合わせると優秀な防犯となりうる。

ポケットに鍵をしまい、榊原を見る。

「ところでこの辺りには怪しい場所とかは、ないのか?」

「そうだな。この辺は住宅街だからあまりないが、この事務所の裏は路地裏になっているぞ。強いて言えばそこくらいか」

「んじゃそこを見ておくか」

そんな話をしながら門を出た。

そして事務所の裏へと歩く。

この辺りは意外と新しい家が多く、割ときれいな街並みだ。この事務所も建て替えたばかりなので新築と言っていいだろう。

路地裏に着くと榊原が口を開く。

「ここはどこに繋がっているんだ」

「行き止まりだ。かなり長いが道は繋がっていない」

昔は水路だったらしいが俺が越して来た時には既に埋められていた。しかし家が軒並み建てられた後だったらしく、今はただの無駄に長い路地になってる。

「ならますます怪しいな」

俺の話に、少し真剣な顔をして路地裏を眺める。

「睨みつけても何も起こらんぞ」

俺と榊原はそのまま奥へと進んでいく事にした。

 

 【路地裏】

ここは家と家の間なだけあって薄暗い。このような場所では犯罪が起きるイメージがあるが、それは心理的に誰にも見られていないという安心感があるからなのだろう。

そんなことを考えていたら行き止まりまでやってきた。

「ここまでみたいだな。特に気になるような場所はなかったぜ」

「そうだな」

「このあとも要警戒ってことで、一度戻るか」

「そうしてくれ」

来た道を引き返す。この道が長いと感じるのは、一本道に2回ほど曲がり道があるからだろう。

路地裏を出るとまるで違う世界へ来たかのような安心感がある。

「太陽ってこんなに安心するんだな…」

榊原そんなことを言う。今は俺も同じ気持ちなので黙って頷く。

「とりあえず事務所に戻るか」

少しだけのはずがかなり時間を使ってしまった。

何もないに越したことはない。

休日なのだからゆっくりしたい…、と考えていた。

そのせいだろう。

俺たちと入れ替わるように路地に入っていく人影に、気付くことが出来なかった。

 

 【神谷探偵事務所】

今日は休日だ。1週間に1度しか無い貴重な時間。

ゆっくりできるのなら、休んでもいいだろう。

探偵に休みも何も無いだろうとも思うが、日曜日というのは気持ち的に休みたいと思ってしまう。

俺も6年前までは普通に学生だったのだ。そう思うのはおかしなことでは無いと、心の中で言い訳をしてみる。

ちなみに俺も榊原も今年で25。

高校を卒業後は二人で警官になったが、今は榊原だけだ。

その榊原といえば…

「お前事件性は無いと言っていたが、魔法陣が見つかったんだ。本部に報告はしなくていいのか」

反応がない。ため息を着いて榊原の方を見る。

………寝ている。ソファで。

それでいいのか警察官と言いたいが、疲れていたのだろう。昨日までこいつは仕事に行っていたらしい。今は寝かせて置くことにする。

しかし、報告は必要だろう。

報告、連絡、相談は社会人の基本。

何かあってからでは遅い。

仕方ない。俺は懐からスマホを取り出す。

プルルルル、プルル「はい」。

「相変わらず電話に出るのは早いな」

2回目のコールを聞き終わる前に電話から声がする。

「あら、その声は。久しぶりねえ。神谷。あなたから電話がかかってなんて、何か用かしら」

こいつは如月、俺と同い年のこれまた同じタイミングで警官になって、同じ隊で活動していた。まあ腐れ縁ってやつだ。電気系統の魔術を得意としていて、機械との関連が強いため、情報収集や俺らのバックアップをしたりと頑張ってくれた。少し性格に問題があるがこいつも根はいいやつだ。性格に問題があるが……。

「お前は知っているだろう。榊原が調べている事件を」

「さか…ああ、例の魔術痕跡のやつね。事件性は無いとかで捜査はされてなかったと思うのだけれど」

「奴が気になるとかで少し手伝った。そうしたら厄介な事が判明した」

「厄介な事ね、何か見つけたのかしら?」

「理解が早くて助かる。それでだ…」

俺は如月にこれまでで判明した事を話した。

「それはまずいわね。榊原は何をしているの?」

「奴ならソファで寝ている。報告くらいはしといて欲しいものだが、疲れていたのだろう。だから俺がこうして連絡しているんだ」

「相変わらず優しいのね。た・い・ちょ・う?」

「ほっとけ。それでどう思う」

「正直にいえばこれは当たりね。おそらく、大方そちらの考えている通りだと思う」

「だとすれば、やはり事が起きるのは夜か」

「そう考えるのが妥当ね。ただ、今本部に言って包囲網を張っても逃げられるだけだわ。」

「それはそうだな」

嫌な予感再び。

「なので、あなたにこのままお願いするわ。何なら私が依頼という形でお願いしてもいいけど?」

やはりか。そうなるとは思っていた。

「遠慮しておく」

「ならよかったわ。何か進展があったら教えてね」

「分かった、それじゃ。」

電話を切る。夜まではやることも無いな。

榊原の方を見る。ぐっすり寝ている。

俺は椅子に座る。奴を見ていたら眠くなってきたな。俺も少し寝るか…。

 

腹の減るにおいがする。キッチンから音がする。俺は確か少し寝ようとして…。

ハッと顔を上げると外はもう夕焼けだ。少しと言っておいて6時間も寝てしまったのか。やってしまった。

ふと、ソファを見る。榊原はもう起きているようだ。

「おう、起きたのか!悪いな、勝手にキッチン使わせてもらってるぜ」

予想通り、料理をしていたのは榊原だった。

「外に行く前に飯くらい食っておかないとと思ってな」

「ああ、大丈夫だ」

意外かもしれないが奴は料理ができるのだ。しかも美味い。

「それと如月に連絡してくれたんだってな。助かったぜ」

「そのくらいはしてやるさ。お前、寝てたしな」

「いやー、流石に疲れがたまっていたらしい。充分に寝れたからもう大丈夫だ」

疲れている…か。

「お前この事件が初めに発生したのはいつだ。」

「確か前にお前に手伝ってもらった事件の次の日くらいだったと思うが」

「その時からこの事件について調べていたのか?」

「まあな。初めは気のせいかもと思っていたんだが一応な」

それは疲れもする。本部が調べていなかったということは、個人的にここまで調べていたのだろう。

一人で調べるには時間も労力もそれなりに必要な事件だ。

「お前、もう少し体に気を付けた方がいいぞ」

「?どうした突然」

「事件について調べるのはいいがあまり無理をするなと言っている」

「なんだ、心配してくれているのか」

「お前がここで倒れたりしたら、誰が面倒を見ると思っている。せめて、誰にも迷惑をかけないところで倒れてくれ」

「素直じゃねえなあ。ま、気を付けるよ。ありがとな」

何か癪に障るがここは黙っておくほうがいいだろう。

俺は机へと移動する。

「できたぜ」

そう言うと榊原は机に皿を置いた。その上にはチャーハンがのっている。いただきます、と俺は食べ始める。

「キッチンにあったものじゃあこんなもんしか作れないけど。神谷、もう少し料理したらどうだ?せっかく立派な冷蔵庫があるのに食材がほとんど入っていない。もったいないぞ」

「いいだろう別に。今の社会には、コンビニという便利なものがあるのだ。わざわざ自分で作らなくてもいいじゃないか」

「相変わらずめんどくさがりだな、神谷は」

「効率的と言って欲しいね」

そんなやり取りをしつつ飯を食べ終わると、榊原が聞いてきた。

「なあ、この後どうする」

「この後、とは」

「だから、魔法陣のことだ。如月に任せたと言われているんだろ。もう一度見て回るか?」

「いや、何も情報がない以上相手が動くまではこちらは何もできん。念の為、いつでも外に出れるよう準備だけはしておこうと思う」

「分かった」

榊原は頷くと持ってきていたカバンの方に向かう。

俺も準備するか。一度自室に戻ろうと扉へ向かうと、榊原が、ああと思い出したように話しかけてくる。

「そういえばあの路地裏は、この事務所の裏だったよな。そこから様子は見れないのか」

「見れないことはないが、見ておくか?」

「ああ、一応な」

俺たちはベランダへと向かう。

ベランダは二階の一番奥だ。ついでに自室によって行く。

この時期は夜は急に冷える。コートも一応着ていくか。

そうしてベランダに繋がる部屋に着くと扉を開ける。冷たい風が体に刺さる。

「流石に夜は寒いな」

榊原が言う。見るからに寒そうな格好である。

「そんな恰好なら当たり前だ」

そうして二人で外に出た瞬間、目の前が赤く光った。

「やめて、来ないでっ」

嫌な声が路地裏に響く。

「おい、あそこ!」と榊原が指をさす。女の子が襲われている。

「くそっ」俺は急いでベランダから飛び降りた。

「おいっ」榊原が叫ぶ。

気にせず魔術を発動し、空を蹴る。魔術障壁を足元に展開、そこを足場にしているのだ。そのまま顔だけ振り向き榊原に指示を出す。

「お前は、路地裏の入り口に向かってくれ」

「分かった!」

榊原もすぐに身体強化をかけ下に飛び降りる。

探査魔術を使うと、入口にも反応があった。

「気をつけろ、おそらくもう一人が入り口にいる」

 

 【路地裏】

俺は急いで少女のところまで行く。黒い人影が魔術を放とうとしている。火属性魔術か、どうやら確実に殺そうとしているようだ。

(このままじゃ間に合わない)

加速術式をかけ、少女の上まで来ると男がちょうど火の球を放つところだった。そのまま飛び降りつつ少女の前に障壁を展開する。

間一髪で障壁が間に合う。

真っ黒な煙を上げ爆発が起きた。かなりの威力のようだ。俺は少女に向かって大丈夫か、と声をかける。少女がこちらを見る。怪我はしていないようだ。戸惑っているのか、何が起きたのか分かっていないようだ。

「あ、あの…」

煙が晴れてきた。

「すまないが先にあっちの対処をさせてくれ。話はそれからだ」

男の方も何が起きたか分かっていないようだ。俺が見えるようになると叫びだす。

「なんだてめえは、どっから出てきた。何をした。ちっ、殺し損ねたじゃねえか」

なにやら混乱しているようだ。

「そんなに一気に質問されても困る。何故この子を狙っているんだ」

「てめえには関係ないことだ。それよりもそいつをよこしな。そうすれば命だけは助けてやる」

はぁ…。犯罪者ってのは何故似たようなことしか言わないんだろうか。渡せと言われて素直に渡すわけないし、そもそも自分たちの方が強いと思っているのだろうか。

相手の技量を測ろうともしない。

「お前はさっき殺し損ねたといったな。殺されると分かっている子どもを、はいどうぞと渡すはずが無いだろう」

「そうかよ。ならさっさと死ねっ!」

そういって魔術を使う。火の球が空中にいくつも現れる。中級魔術といったとこか。

しかし…

「遅いな」

地面に手の平を当て、俺は男の足元に魔術を使う。

すると、男の足元から鎖が飛び出し体に巻き付いていく。

「な、なんだこれ。くそっ」

「初級魔術“拘束(バインド)”と生成魔術を組み合わせたものだ。暴れられても困る」

鎖で拘束された男に近づき、質問をする。

「何が目的だ。何故こんな場所にいる」

「知るか!逃がしたガキを殺して、連れて来いと言われただけだ。次いでに魔術を適当に発動させろとも言っていたが……んな事お前には関係ねぇだろ!」

「それは誰だ?」

「知らねぇって言っているだろ!知らない奴から連絡があっただけだ。金が貰えるってんで従っていただけだ。さっさとこれを解きやがれ!」

言っていることは嘘では無さそうだ。しかしこれ以上得られる物も無さそうだな。

「後は警察の仕事だ。お前はそこで寝ているといい」

パチンっ、俺が指を鳴らすと男は力が抜けたように地面に倒れる。

精神魔術で男を眠らせたのだ。そのまま少女に話しかける。

「大丈夫か君、けがはしてないか」

少女は黙って頷くとこちらを見上げてきた。視線が合う。

……綺麗な目だ。

透き通るような青い瞳。純粋な瞳とはこういうのを言うのだろうなと心の中で呟いてみる。

年齢は中学生くらいだろうか…。

白い髪、どこかで見た事があるような…。

「君、どうしてこんなところにいたのか説明できるか?」

少女は首を振る。

「それならば、なぜ追われていたのかは分かるか?分からないならそれでもかまわんが」

すると少女は少しうつむいた。男よりかは何か知っていると思うが、今は無理そうだ。

取り敢えず明るい所まで行こうと立ち上がった時、

「わ、私…」

俺は再度少女に視線を向ける。

「お父さんが…あの知らない人に…私も…生贄にって…」

「生贄?それはどういう意味だ?」

また首を振る。そして次第に嗚咽が聞こえ始める。仕方ないか…

「っ!」

俺は少女の頭に手を置く。まずは落ち着いてもらう方がいいだろう。

「君に何があったかは知らん。ただ、怖い思いをし一人で我慢してきたのは分かる。知らない人に追われて、俺だって知らない人だ。だがな、俺は君の味方だ、だから安心して泣いていい。大丈夫、誰にも言いはしない。君はまだ子供だろう、こういうときくらいは大人に任せてくれ」

びっくりしていた瞳から次第に涙が溢れてくる。やはり怖かったのだろう。今は少しそっとしておくのが正しい選択だろうか…。

 

「……なるほど、大体の経緯は分かった」

あれから少女が落ち着いてきたので話を聞いていた。かいつまんで説明するとこうだ。

少女は榊原から見せてもらった地図の所の25箇所目の丸……ここからそう遠くは無い一軒家に住んでいたらしい。父親と二人暮らしだったそうだ。

しかし3日ほど前に突然ローブを着た男が押しかけ、父親を殺そうとした。

家の2階まで逃げたが、逃げ場をなくしてしまった。

その部屋には子供がやっと通れるほどの窓しかなかった。男たちが隠れている部屋の前まで来たとき、父親はこの少女を窓から落としたのだと言う。

それから少女はここまで一人で逃げてきたが、少女を探していた男に偶然にも見つかってしまったと言うわけだ。

「だが、君を探していた理由はなんだ?別にわざわざ探さなくてもいいはずだが」

少女は少し悩んだあと、思い出したように言う。

「ローブの人…生贄って、言ってた」

「生贄か…」

何の生贄か、大体は予想がつくが…、それは後でこの男からじっくり聞けばいいだろう。

「あ、あの…もう一人、男の人…いたと思う…」

「ああ、それなら大丈夫だ。あっちにも俺の知り合いが向かったからな。とっくに片付いているだろうさ」

少女は少し不安そうにうなずく。

「まあここにずっといるわけにもいかないし移動しよう。君、立てるか」

少女はうなずいて立ち上がるがよろめいて倒れそうになる。俺は体を支えてやりつつ言う。

「無理はするな、けがをしたら危ないからな」

「仕方ない」と俺は少女を両手で持ち上げる。思ったよりも軽くて少し驚く。

「わっ」

「すまん、おんぶだと歩きにくいのでな。しばらく我慢してくれ」

少女は少しびっくりしたようだが、次第に安心したように力を抜いた。

俺はそのまま入口へと向かう。

入り口まで戻ってくると榊原が待っていた。

いや、待ち構えていた。

「遅いぞ、何分待ったと思ってんだ。もう少しで様子を見に行くところだったぞ」

「すまんな」

そばには男が倒れている。

やはりすぐに無力化したのだろう。

「この子から事情を聞いていた。こいつらはただの雇われだった。が、例の事件に関わっている事は間違いなさそうだ」

「襲われていた子か」

そういって顔を近づけてくる。少女はびっくりしたのか、俺にしがみついて震えている。

「馬鹿垂れ、急にに近寄るんじゃない。おびえてしまったではないか」

「す、すまん」

榊原はそこまでいかつい顔をしているわけではないが、やはり知らない人は怖いのだろう。俺は少女に説明する。

「大丈夫、こいつは俺の友人だ。怖い人ではない」

(まぁ脳筋お化けではあるが)

「神谷、お前今失礼な事考えなかったか?」

少女はゆっくりと俺の顔を見て、それから榊原を見た。そしてもう一度俺の顔を見る。分ってくれたようだ。

「とりあえず事務所に戻るとしよう、犯人も捕まえたわけだしな」

「ああ、だが、こいつらはどうする?」

「警察に任せる。もう呼んであるのだろう、本部に報告はしたのか?」

「大丈夫、もう済ませてある。時期に来るだろうよ」

「そうか、なら来るまではここで待機だな」

それからしばらくして警察が到着した。

ここまでしっかりと被害がでて、事件性も高まれば後は警察の仕事だ。俺は榊原と事務所へ戻る。

何故かこの少女は俺から離れたくないらしく抱き着いたまま離れなくて、困った警察が任せたと押し付けてきた…ので、少女も一緒だが。

どうも、初めての方!実は知ってるよ!と言う方。どうも深夜翔です。

一応知ってるよという方に…3月に入りまして、何かすると言いました。そうです。これです笑。


この話は、とある賞に出して無事に落ちまして…折角書いたのだから読んでもらおうと投稿したものになります。後、5回ほどは更新出来ますので、毎週と言う形で行きます。そのあとは…まだ考え中ですね。沢山読んでくれたらその後も…(露骨)

まぁそんな訳でぜひ読んでくれると嬉しいです!

それでは、次回も読んでくれることに期待して…

さらば!

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