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集合と位相とかわいい触手持ち少年  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 集合と位相 位相パート裏面
5/28

普遍性というね、名前だけでも覚えて帰ってもらえれば

「えっと、で今日は積と商だな」


「はい、というわけでね、やっていきたいと思うんですけれども」


「漫才か?」


「名前だけでもね、覚えて帰ってもらえれば」


「漫才か??」


 こんなのどこで覚えたんだろうな。しょこらはいつも俺の部屋にいる気がするが、そこにはテレビも置いていないんだが。


「えっと、じゃあ積の方から行こうかな」


【Λ を集合とする。各 λ∈Λ について位相空間 X_λ が与えられているとする。積 Π {X_λ: λ∈Λ} に、U_κ を X_κ の開集合として U_κ×Π{X_λ: λ≠κ} すなわち {(x_λ)_λ∈Λ: x_κ∈U_κ} という形の集合全てを準開基とする位相を入れる。これを積位相と呼ぶ】


「積について大事なのは普遍性だな。教科書には載っていないが、次の定理が成り立つ」


【定理(位相空間の直積の普遍性) X=Π{X_λ: λ∈Λ} を直積とすると、次の性質をもつ。

・各 λ について連続写像 p_λ:X→X_λ が存在し、任意の位相空間 Y と各 λ についての連続写像 q_λ:Y→X_λ に対し連続写像 f:Y→X が一意的に存在して各 λ について q_λ=p_λ○f となる】


「なんかよくわからない性質だな」


「うーん、連続写像があったときその始域は終域より『小さい』と思うことにすると、これは X_λ たちより『小さい』ものの中で一番『大きい』のが積だと言っているようなものだ。まあこれだと『一意的に』っていう重要な部分が説明できていないんだが」


「inf みたいな」


「そうだな。これはよくわからない性質に見えるが、実はこれで直積は特徴付けられる。つまり」


【注意 上の普遍性を満たすような X は同相をのぞいて一意的に存在する】


「同相をのぞいて一意的って?」


「同相の違いを無視して一意、つまり二つ存在したら同相ということ」


【注意の証明 X, X' がそれぞれ写像の族 p_λ, p'_λ によって普遍性を満たすとすると i':X→X' 及び i:X'→X が存在して p'_λ○i'=p_λ, p_λ○i=p'_λ となる。よって p_λ○i○i'=p_λ で、p_λ に対して普遍性を使うと p_λ○j=p_λ となるような写像 j:X→X は恒等写像 id_X しかないので i○i'=id_X である。同様に i'○i=id_X' である。よって X と X' は同相となる ///】


「これは普遍性と名前がつくもの全てこんな証明で同型を除いての一意性が示される」


「普遍性って他にもあるんだ」


「ああ、商にもある。で証明はわりと一本道だ」


【証明 p_λ:X→X_λ を p_λ((x_κ)_κ∈Λ)=x_λ により定める。Y を位相空間、各 λ に対して q_λ:Y→X_λ を連続写像とする。写像 f:Y→X が q_λ=p_λ○f を満たすとすると各 y∈Y について f(y) の λ 成分は q_λ(y) でなければならない、つまり f(y)=(q_λ(y))_λ∈Λ となる。これが連続であることを示せば良い。準開基の元 U_κ×Π{X_λ: λ≠κ} の f による逆像は q_κ^-1(U_κ) で、これは開である。よって f は連続である。///】


「なんか積に関して面白いこととか教科書に補足しないといけないこととかあるかい」


「そうだな、まず後者は——」


【定理 位相空間の直積 X=Π{X_λ: λ∈Λ} の部分集合 A=Π{A_λ: λ∈Λ}、ただし A_λ⊂X_λ、の直積空間からの相対位相と相対位相の直積位相は一致する】


「え? 当たり前じゃないかい」


「なぜ?」


「ええと、積と交叉は交換する——つまり」


【Π{A_λ: λ∈Λ} ∩ Π{B_λ: λ∈Λ}= Π{(A_λ∩B_λ): λ∈Λ}】


「——だから」


「当てずっぽう言ってない?」


「——言った」


 言ったのかよ。まあカンはいいらしい。実際これでできる。


「あとはそうだな、距離空間の直積の距離が積位相を定めるとかはルーチンワークだな。確か教科書にも載っていたはずだ」


「可算系の性質は保たれるかな」


「まず第二可算は可算個直積で保たれるな。第一可算も可算個直積で保たれる。可分性は意外にも——」


「可算無限直積だと保たれないとか?」


「——連続濃度直積で保たれる」


「え?」


「連続濃度だな。実数の濃度 c(ツェー) だ」


「——え?」


 一般的に、「濃度 κ 以下の稠密部分集合をもつ」という性質は 2^κ 個の直積で保たれる。Hewitt-Marczewski-Pondiczery の定理という。この一般の場合の証明は難しいが、可分の場合添え字集合を実数の集合と見て少し簡単にできる。


「悪いが証明は覚えていない。あとで参考文献を挙げることにする」


「おもしれ〜」


 何よりだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「で、商の方だね。こないだ帝数の人が定義もしていたけれど」


【X を位相空間、Y を集合、p:X→Y を全射とする。Y の部分集合 A について p^-1(A) が X において開であるとき、そしてそのときに限り A を開集合とすることで Y には位相が入る】


「さっき言ったようにこれも普遍性があるな。こういうやつだ」


【商写像 f:X→Y は次の性質をもつ。

・連続写像 g:X→Z が各 f^-1(y), y∈Y 上定数ならば、連続写像 h:Y→Z が一意的に存在して g=h○f となる。】


「証明は上と同じノリだ」


「ノリって」


「数学は割とノリなところあるから。まあやるけど」


【証明 g=h○f なる写像 h があるとすれば、h(y) は f^-1(y) 上で g がとる値でなければならない。そのように h が定義されたとき h の連続性を示す。 U⊂Z を開集合とするとき f^-1(h^-1(U))=g^-1(U) は開集合なので h^-1(U) は開集合である //】


「教科書だとあまり商のことを書いていないよね」


「そうだな。深入りすると難しいわりに実用上出てくるのは開写像か閉写像が多いからな。商と積の交換や商と部分の交換についてちょっと付け加えるか」


「交換するんだよね」


「しないぞ」


「え?」


「例だけ挙げとくか。証明は自分でやっておくといい」


【f:X→X/~ が商写像、T⊂Y、f|f^-1(T) が商写像でない例

X=R, R 上の同値関係を n~1/n, n∈N_>0={1,2,3,……}, x~x, x∈R により定める。R/~ に商位相を入れ射影を f としたとき、U={x∈R:x>1, x≠1,2,3,……}, T=f(U) とおくとこれが条件を満たす】


【f:X→X/~ が商写像、位相空間 Y について f×id_Y:X×Y→X/~×Y が商写像でない例

X=Y=Q={有理数全体の集合}, 同値関係を x~y, x,y∈Z, x~x, x∈Q により定める。これが条件を満たす】


「前者は開写像か閉写像だとOKで、後者も開写像ならいける」


「後者は閉写像だとダメなのか」


「終域の各点の逆像がコンパクトだといけたはず。一般にはダメだな。証明忘れたけど」


「証明忘れてばっかだなあ。さっきの反例も証明忘れていたのかい?」


「まあ参考文献見ればあるはずだ」


「ふーん。まあいいや。じゃあ距離化可能性って商でどうなるんだい?」


「第一可算すら保たれない。ただし、距離空間の商である空間の間の写像について点列連続と連続が一致はする」


「へー、それって簡単にわかる?」


「やればできると思う」


「やればできると思いながらやらずにいた結果がその体たらく(りゅうねん)なんじゃないのかい」


「急に厳しいな」


「どうも、ありがとうございましたー」


「だから漫才じゃないって」


あとがき:漫才ではない——


参考文献

可分が連続濃度直積で保たれる 寺澤『トポロジーへの招待』

商の諸々 児玉永見『位相空間論』


演習問題 第二話の演習問題のうち最後のものに登場する距離空間の位相は A を離散としたときの積位相からの商位相と一致しないことを示せ。

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