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集合と位相とかわいい触手持ち少年  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 集合と位相 位相パート裏面
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大学には色々な人がいて、例えば吟遊詩人がいる 2

前回までのあらすじ 同相概念には問題がある!

「といっても大した話じゃあないんですけどっ、位相幾何学ではドーナツとコーヒーカップを区別しないってよく話題になるじゃあないですかっ」


「ありますね」


 読者諸兄諸姉におかれては聞いたことがある人も多かろう。コーヒーカップをぐにゃぐにゃ変形したらドーナツにできるとかそういうアレだ。


「けどっ区別の仕方としてはもっと粗いわけですよねっ、例えば紙の帯を一捻りして貼り付けるとできる Möbius の帯がありますけどっ、あの要領で二捻りしたものっ! これは変形しても普通の帯になりませんが普通の帯に同相ですっ」


「いわゆるメビウサナイの帯ですね」


「いやメビウサナイの帯ってなんだよ」


 相槌を打つ俺に対してしょこらが真面目そうにツッコんできた。


「ああ、日本の一部でしか通じない上に公式な場では使わない俗な言い方だけど普通の円筒のことをメビウサナイの帯というんだ」


「円筒でいいじゃないか」


 まあ、その通りではある。


「でもそれはどちらかというとドーナツとコーヒーカップの比喩の問題であって同相概念の問題じゃなくないですか」


「まあまあっ、まだありますよまだっ! この三つ葉結び目を見てください」


 そう言うと吟遊は黒板に三つ葉結び目を書いた。読者諸兄諸姉におかれてはグーグルとかで検索してほしい。


「自明結び目と同相で、同相なものは同じと見てしまうとその違いがなくなってしまうって話ですか?」


「まあそういう話ですねっ」


「なるほど、先の二回メビウシタの帯も埋め込みの仕方が違うから違って見えるというものでしたね。そういうわけですか」


「どういうわけだい」


「二回捻りの帯とメビウサナイの帯が同相とかっ、三つ葉結び目と普通の円周が同相というのはよろしいですかっ」


「ごめん——よろしくない」


「こう、二つのパーツに分けて貼り合わせの補題を使うとわかるんですっ」


 吟遊が黒板に書いた図を色分けして解説していく。貼り合わせの補題は先に演習問題にしておいた、空間を開部分集合の合併または有限個の閉部分集合の合併で書いたとき、全体で定義された関数が連続なのと各部分集合への制限が連続なのが同値というやつだ。ここでは図が書けないから、わからなくても同相なんだなあと思って飛ばして構わない。


「しかし見た目には違うっ——これはどういうことかっ! わかりますかっ?」


「わからない」


「実はこの図が表しているのはっ位相空間そのものじゃないんですねっ」


「余計わからない」


「これはっ円周や円筒が三次元ユークリッド空間の中にどう入っているか? という情報も含んだ図なんですっ」


「あー、ちょっと分かった」


 そのような、どういう形で含まれているかという情報を含めて図形を扱いたいことも当然ある。そういう時は (R^3, S^1) のように書かれる「位相空間対」とその間の適切な写像を考えるのだ。ちなみに S^1 とは円周 {(x,y)∈R^2: x^2+y^2=1} のことである。


「位相空間の同相はそういう情報を完全に弾いてっ、空間の内在的な様子だけを見るんですっ」


「内在的ね」


 少し分かってもらえたようだった。


「じゃああと教科書のこの章は点列連続性——点列連続性かあ」


「なんかあるのか?」


「いや——でもこの章の内容は一回追っていれば十分だから飛ばしていいよ。この手の定義の同値性って自分で証明するのは楽しいけど他人がやったのを見るのは微塵も面白くないんだよな」


「そっか。ところでこの有向点列ってやつを使って連続性が特徴付けられるみたいだけど、有向点列の収束で位相を定義することってできるかな? いや自分でも疑問の内容を厳密には言えないんだけれど」


「できるな。Moore-Smith の公理というのがあって、それを満たすように空間の有向点列について極限を与えると位相が定まる。ただ添え字がめちゃくちゃ必要になって面倒だから普通やらない」


 シャンッ!


「フィルタとか使った方がマシですねっ」


「そっか——フィルタというのは?」


「有向点列の代わりになる、もう少し使いやすいやつだ」


【集合 X の部分集合族 F がフィルタであるとは 

・F は Ø を元として持たない

・A∈F, A⊂B ならば B∈F

・A,B∈F ならば A∩B∈F


位相空間 X において x∈X の近傍全体の集合 N(x) はフィルタである。位相空間 X のフィルタ F が点 x に収束するとは、N(x)⊂F となること】


「この収束を利用しても連続性や位相が記述できる。演習問題として手頃だと思うからやってみるといい」


「じゃあフィルタについてなんか公理があってそれを満たすように極限を定めると位相が定まるみたいなのは」


「できなくはないしやる人もいるけど、それやるぐらいなら近傍系の公理でよくないかな」


「そうかも」


「まあそろそろいい時間だし教科書も一章終えたし続きはまた後日でいいかな」


「いい時間も何もっ、我々はいつでもヒマではありませんかっ!?」


 そうだな。

留年生はヒマ——!


演習問題

・集合 X 上の位相を定める開集合族 2 つ O_1, O_2 に対し O_1≠O_2, O_1⊂O_2 つまり O_2 が定める位相が O_1 が定める位相より真に強いとする。(X, O_1) と (X, O_2) は常に同相でないと言えるか?

・フィルタを用いて位相空間の点が部分集合の触点であることを特徴付けよ。

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