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集合と位相とかわいい触手持ち少年  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 エドワード・チェックの理論
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無限への眺望と無限からの光芒 1

「Stone-Čech コンパクト化の前にまずコンパクト化ですね。でてくる空間は全て Hausdorff とします」


【以下、位相空間は Hausdorff とする。


位相空間 X に対し、コンパクト空間 αX と X から αX の稠密部分集合への同相写像 ι の対 (αX, ι) をX のコンパクト化という。単に αX と書く】


「局所コンパクト空間に対しては一点を付け加えることでコンパクト化ができます」


【命題 X を局所コンパクト空間とする。∞ をX の点でない一点とし、X∪{∞} に以下のように位相を入れることができ、コンパクト Hausdorff 空間となる。これを一点コンパクト化という。∞ を無限遠点という。


  X の開集合全てと、X の各コンパクト集合 K について X∪{∞}-K を開基として指定する】


 と、ここで枢さんから指摘が入った。


「……別に問題がある訳ではありませんが、それ開基というか開集合系そのものをなしませんか」


「えっと——なします」


「ありがとうございます」


 ちなみに今ここにいるのはしょこらと枢さんと春遠葛さんだ。あと三田姉妹の姉の方も遅れて来るらしい。


「コンパクトになるのは各開被覆に対して無限遠点を含む開集合を一つと、その開集合の補集合を覆う有限個を取ればいい」


 そう言って黒板に証明終わりマークを書く。


「すっ飛ばしたね。まあ分かったけど」


 コンセプトとして集合と位相の教科書は抑えているのを前提としているからいいんだよ。


「さて、局所コンパクト空間以外は一点コンパクト化を作っても Hausdorff にならない」


「そういえばさっき貴様は Hausdorff 性を示さなかったな」


 態度の悪い春遠葛だ。それが人にものを教わる姿勢かよ。


「やった方がいいですか?」


「いや、やらなくていい」


「えっと、では局所コンパクトでない空間はコンパクト化できないのかというと、できます」


【定理 完全正則空間 X に対し、次の性質をもつコンパクト化 βX が存在する。これを Stone-Čech コンパクト化という。


任意のコンパクト空間 K と連続写像 f:X→K に対し、連続写像 F:βX→K が存在し、F|X=f となる。ここで X と βX の部分集合を同一視した】


「随伴の普遍性ですね」


「圏論の言葉わからないんですが、そうなんですね」


「ちょっとよろしいか」


 春遠葛が口を挟んだ。


「何ですか」


「完全正則空間というのは?」


「ええと、[0, 1] への連続写像のゼロ点集合の補集合が開基をなすような空間です。正則より強く正規より弱い」


【証明 X から [0, 1] への連続写像全体の集合を C とおく。X から直積空間 [0, 1]^C への写像 Φ を Φ(x)_f=f(x) で定める】


「あー、前やったやつだね。埋め込みになるっていう」


 しょこらが声をあげた。よく覚えていたな。Urysohn の距離化定理を示すときやったのと同じものだ。


「そうだな。これは連続単射で、像からの逆写像が連続になることを示した。枢さんと春遠葛さんはそんなに難しくないので自分でやってください」


【これは埋め込みである。その像の閉包を βX とする。X と Φ(X) は同一視する】


「えっ、意外と簡潔な構成ですね」


「簡潔、まあそうかもしれませんね。私は異常な構成だと思いますが」


「枢さん。これは SAFT じゃあありませんか」


「……そうですね、確かに」


 え? 何て?


「SA……何ですか?」


特別な(Special)随伴(Adjoint)函手(Functor)定理(Theorem)です。圏論の定理ですね」


「つまり、この Stone-Čech コンパクト化の存在は圏論の抽象論でやっつけられると」


「そうなりますね」


 ……圏論をちゃんと学びたくなる話だった。しかし今言っても仕方がない。今は愚直に位相論で普遍性を示すしかないのだ。


「まず次の主張(Claim)を立てます」


【Claim 連続写像 f:X→[0, 1] に対し連続写像 F:βX→[0, 1] が存在し F|X=f


証明 直積の f 成分への射影の制限を F とすれば良い//】


「そしてコンパクト空間が単位閉区間の直積に閉集合として埋め込まれることを思い出せば」


【I をある集合として K⊂[0, 1]^I をコンパクト空間、f:X→K を連続写像とする。各 i∈I について射影 π_i との合成 π_i○f:X→[0, 1] は βX からの連続写像に延長される。これを F_i とおく。x を {F_i(x)} に写す写像を F とすると、これは f の延長で、F(βX)=F(Cl X)⊂Cl F(X)⊂Cl K=K となる////】


「何だか狐に包まれたような構成だね」


「抓まれた、ね」


 気持ちはわかる。確かに示したはずが、何かずるをしたような気になってしまうのだ。また、結局その βX はどんな形をしているのか? というところもわからない。多分誰もわからないんじゃないかな。


「——それで、よもや Stone-Čech コンパクト化を構成して普遍性を示したハイ終わり、という訳ではあるまいな?」


 春遠葛が挑発的に言う。


「当たり前だろ? これからが本番ですね」


 俺は挑発的に返し、一呼吸置いて宣言した。


「——完備性の話をしましょう」

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