私と小鳥遊さん
出社前に彼女に会うことは度々ある。その度にこのくだらない会話をしている。毎回毎回ほとんど同じ話。良く彼女も飽きないものだ。そして私も。
「私、今日のお昼これにするんだ~。」
と持ってきた、コンニャク麺のサラダ。よくそんなもので腹が満たされるものだ。私がこんなのを食べていたら間違いなく社内で笑いものにされる。「お、どうした?ダイエットか」と煽ってくる課長の声が耳元で聞こえる気がした。てか、本当に良く足りるな。こんな女に限って絶対に家では飯をガバガバ食っているに違いない。そうでなければ同じ人間とは私は思わない。
「え~。そんなんじゃお腹いっぱいにならないでしょ!私はこっち!」
といって持ってきたガツ盛りカツカレー。うん。これなら私のキャラクターにあっているし、いつもいっぱい食べていて気持ちいいイネといわれるぐらいで済むだろう。てか、これぐらい食べるだろ。ガツ盛りって言ったって、通常サイズぐらいだろ。世に言うコンビニサイズだろ。うん。これにしよう。
「毎回毎回そんなのばっかり食べてちゃ太っちゃうよ~。あいちゃんってどうしてそんなに太らないの?」
「違うわ!毎日している、日々の運動があなたとはとは違うのよ!私は毎日必ず2kmはジョギングをしているのわ。
そのお蔭でカロリーを消化しているから太らないだよ!ほーほっほ!あなたには出来ないでしょう?」
と少しオネェ口調で、私は小鳥遊さんに言う。実際の所これは嘘。ここで、「私、いくら食べても全然太らないんだよね~」というのは選択肢として罰だ。確実に私のキャラではない。ブリっ子・カマトトキャラのセリフだ。実際は本当にいくら食べても太りづらい体質なのだが、ここでこんな話をこの女にしてしまったら社内で私への女性社員からの評価が下がるのは間違いない。まあ、このセリフは世の女性達に言ったら、絶対に嫌われるので、仲のいい友達だったとしても言わないが。仲のいい友人などいないけれど。
「すっごーい!じゃあ今度、私も一緒に走るから、靴買いに行こう!」
ああ。ストレスゲージが溜まっていく。
「まずは、レジまでダッシュだよ!ほら急ぐ!」
「まってよぉ〜」
会話を終わらせる為に、全力でレジに向かうように働きかける。これで話はひと段落ついた。良かった。本当にこの女との会話は、頭を抱えたくなる。
二人でレジに並びながら、順番を待っていると、小鳥遊さんが私にこう言った。
「今日の新人君のクレーム大丈夫なの?取引先の人、かな~りおこってたよねぇ。あいちゃんのうでの見せどころだね!!」
冗談じゃない。大丈夫なわけがないだろ!このアマ!こっちはそのクレームのせいで昨日帰ったのが日付まわりそうになってたんだからな。他人ごとのように話しやがってこの野郎。
完全に忘れていたわけでは無いが、一旦忘れようとしていた案件を掘り返され、私は深くため息をつき、そして深呼吸し、大きな声で発声する。
「まあ、新人君もわざとやったわけじゃないししょうがないっしょ!!何とかするのが先輩!いや、わたしのしごとじゃ!!」
「きゃーーー!!かっこいい!!あいちゃんが女じゃなければ私好きなになっちゃうよ~。」
冗談じゃない。誰がおまえみたいな女。こっちから願い下げじゃ。カマトト女が。
「私が男だったら小鳥遊さんは間違いなく喰ってるね。間違いない。」
「きゃーーー!!襲われちゃうーーー!!」
勘弁してください...。どうして朝からこんなにストレスゲージを上げなければいけないんだ。こいつは本当になんなんだ。頼む。早くレジ終わってくれ。私をここから解放してくれ。車に逃げ込めれば、全力で叫びながらゲージを解放できる。それができるかできないかで、私の本日の仕事が変わってくる。早く...。早く...。
「あ、今日寒いからあいちゃんの車乗っけてって~。会社まで!!へい タクシー!! キャピ」
お次の方、こちらどーぞー。
コンビニ店員の素敵な声が響き渡る。なぜだ。どうしてだ。不快でしかない。なぜこんなカマトト女と一緒に出勤しなければいけないのだ。いつもはテクテク一人で歩いていくじゃないか。今日にかぎってなんで送ってくれなどと世迷言を言うんだ。
私は考える。ここでの最適解を。私はレジに向かいながらそして躊躇わずに最適な言葉を口に出す。
「シートベルトは絶対につけな!会社までフルスロットルで行っちゃうよ!」
私の中の何かが割れる音がした。